最終話 帰る場所
休日。
昼過ぎ。
観月はソファでコーヒーを飲んでいた。
向かいでは、大輝がスマホを見ている。
「……またですか」
観月が笑う。
「ん?」
「ご実家のグループです」
「ああ」
大輝は苦笑した。
「朝からすごい」
画面には通知が並んでいた。
『勇輝:今度ゲームの新作出るぞ』
『菜月:観月さんに服選んでもらいたい』
『父:釣り行くか』
『母:今度ご飯何食べたい?』
『美咲:春翔が”りょうたにいちゃんまだ?“って言ってる』
大輝がスマホを置く。
「相変わらずだな」
「賑やかですね」
「毎日こんな感じ」
観月は思わず笑った。
本当に。
毎日誰かが何か話している。
用事があるわけでもない。
それでも。
誰かが送れば誰かが返す。
そんな家族だった。
ふと。
一年前を思い出す。
仕事が終われば帰宅して。
夕飯を食べて。
寝る。
休日は家で過ごすことが多かった。
もちろん。
寂しかったわけじゃない。
父と母は優しかった。
仲も良い。
高橋とは何でも話せる。
それで十分だと思っていた。
でも。
今は違う。
大輝がいる。
高橋がいる。
佐野さんがいる。
中村さんがいる。
そして。
竜崎家。
父。
母。
美咲さん。
勇輝さん。
菜月さん。
春翔くん。
気付けば。
名前を呼べる人が増えていた。
会いたいと思う人が増えていた。
「観月?」
「はい?」
「どうした?」
「いえ」
少しだけ笑う。
「帰る場所が増えたなと思って」
その言葉に。
大輝は少しだけ目を丸くした。
「……そうか」
「はい」
観月は窓の外を見る。
帰る場所。
それは家だけじゃない。
笑って迎えてくれる人がいて。
また来いと言ってくれる人がいて。
待っていると言ってくれる人がいる。
そんな場所も。
きっと帰る場所なのだ。
「そういえば」
観月が口を開く。
「来年のお盆も呼ばれました」
「もう?」
「勇輝さんからゲーム大会の開催通知が」
大輝が吹き出した。
「あいつ気が早いな」
「菜月さんからは買い物のお誘いも」
「うん」
「お父さんからは釣り」
「うん」
「お母さんからは食べたいものを聞かれました」
「うん」
「美咲さんからは、春翔くんが楽しみにしてると」
大輝はしばらく笑っていた。
「……もう完全に家族だな」
観月は少し照れたように笑う。
「そうですね」
それが嬉しかった。
静かな部屋。
隣には恋人がいる。
そして。
帰る場所が、また一つ増えていた。
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