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エピローグ 帰ろう


 夜勤明け。


 ようやく一息ついた頃だった。


「お疲れさまでした」


「お疲れ」


 中央消防署を出る。


 見慣れた駐車場。


 見慣れた車。


 そして。


 助手席には観月がいた。


「お疲れさまです」


「待たせたな」


「いえ」


 自然な会話。


 自然な距離。


 車を走らせる。


 窓の外には夕焼けが広がっていた。


 赤信号。


 車が止まる。


 ふと隣を見る。


 観月は少し眠そうだった。


 夜勤明けなのだから当然だ。


「寝てもいいぞ」


「大丈夫です」


「眠いだろ」


「少しだけ」


 そう言いながら。


 数分後には寝息が聞こえてきた。


「……寝るじゃん」


 思わず笑う。


 安心しきった寝顔だった。


 そんな横顔を見ていると。


 あの日のことを思い出す。


 職場の飲み会。


 飲み過ぎて。


 帰り道も覚えていなくて。


 家の前で吐いて。


 介抱されて。


 翌朝。


 人生で一番青ざめた。


「……最悪だったな」


 今でもそう思う。


 あれ以上ないくらい格好悪かった。


 できれば忘れたい。


 いや。


 観月には忘れてほしい。


 絶対に無理だろうけど。


 信号が青になる。


 ゆっくりアクセルを踏む。


 でも。


 あの日があったから。


 観月と話すようになった。


 食事へ行って。


 笑い合って。


 付き合うことになった。


 家族にも会ってもらった。


 観月の両親にも挨拶した。


 父さんも。


 母さんも。


 美咲も。


 勇輝も。


 菜月も。


 春翔まで。


 みんな観月のことが大好きになった。


 スマホが震える。


 赤信号で車を止め、画面を見る。


『母:今度のお盆いつ帰ってくる?』


 早い。


 まだ何か月も先だ。


 その直後。


『勇輝:ゲーム大会やるぞ』


『菜月:観月さんに服見てもらう!』


『美咲:春翔がりょうたにいちゃんまだ?って言ってる』


『父:釣り』


「……父さん、短いな」


 思わず笑った。


 助手席で観月がゆっくり目を開ける。


「……着きましたか?」


「まだ」


「すみません」


「謝るな」


 観月は少しだけ目をこする。


「何かありました?」


 大輝はスマホを差し出した。


 観月は画面を見て。


 小さく笑う。


「皆さん、気が早いですね」


「毎年こんな感じだと思う」


「そうですね」


 観月の笑顔を見る。


 あの日。


 仕事ができて。


 格好よくて。


 少し憧れていた看護師。


 そんな人が。


 今は当たり前のように隣にいる。


 不思議だ。


 幸せだな。


 心の底からそう思った。


 車は交差点を曲がる。


 もうすぐ家に着く。


 大輝は前を向いたまま笑う。


「帰ろう」


「はい」


 観月が頷く。


 向かう先は。


 二人で暮らす家。


 そして。


 笑って迎えてくれる家族のいる場所。


 帰る場所は。


 一つじゃない。


 二人には、もうたくさんあった。


 ――完

最後までご覧いただきありがとうございました。

最悪な出会いからスタートした竜崎と観月は、たくさんの人に見守られながら幸せにお付き合いしています。

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