第39話 帰った後
玄関の扉が閉まる。
大輝と亮太の姿が見えなくなるまで。
父と母は静かに見送っていた。
「行っちゃったわね」
母が言う。
「そうだな」
父も頷いた。
しばらく静かな時間が流れる。
そして。
「びっくりしたわ」
母が小さく笑った。
「何がだ」
「亮太よ」
父も少し笑う。
「確かにな」
◇◇◇
数週間前。
突然。
『紹介したい人がいます』
そう言われた。
母は固まった。
父も固まった。
亮太が恋人を連れてくる。
そんな日が来るとは思っていなかった。
◇◇◇
「驚いたわよね」
「驚いたな」
「亮太が」
「恋人を紹介したいなんて」
母が笑う。
「昔からあまりそういう話しなかったものね」
「そうだな」
父も頷く。
◇◇◇
亮太は昔から真面目だった。
優しかった。
友人もいた。
人付き合いも苦手ではない。
でも。
自分のことはあまり話さない子だった。
◇◇◇
「だから」
母は少し微笑む。
「紹介したいって聞いた時」
「嬉しかったの」
父は何も言わない。
ただ。
静かに頷いた。
◇◇◇
「竜崎さん」
母が言う。
「良い人だったわね」
「ああ」
即答だった。
「頼もしい方だった」
父が言う。
「誠実だし」
「真面目だ」
「礼儀もある」
母が笑う。
「褒めるじゃない」
「事実だ」
父は平然としていた。
◇◇◇
「あなた」
「ん?」
「すごく楽しそうだったわよ」
父が止まる。
「そうか?」
「そうよ」
母は笑う。
「医療の話になった途端」
「ずっと話してたじゃない」
◇◇◇
父は少し考える。
そして。
「話しやすかった」
ぽつりと言った。
「現場を知っている人だからな」
「なるほどね」
母が頷く。
◇◇◇
「それに」
父が続ける。
「亮太のことを大切にしているのが分かった」
母が少し目を丸くした。
父がそこまで言うのは珍しい。
「そうね」
母も静かに笑う。
「私もそう思った」
◇◇◇
リビングへ戻る。
さっきまで座っていた席を見る。
そこに。
楽しそうに笑う亮太がいたことを思い出す。
◇◇◇
「亮太」
母がぽつりと言う。
「幸せそうだったわね」
父は少しだけ目を細めた。
「そうだな」
短い返事。
でも。
その声はどこか柔らかかった。
◇◇◇
昔から。
忙しい両親の背中を見て育った一人息子。
手のかからない子だった。
優しい子だった。
だからこそ。
幸せになってほしいと思っていた。
◇◇◇
「良かったな」
父が言う。
「うん」
母が頷く。
「本当に」
二人は顔を見合わせる。
そして。
どちらからともなく笑った。
窓の外には。
穏やかな夕暮れが広がっていた。
読んでいただきありがとうございます!
ー
毎日12時に投稿予定です५✍⋆*
続きが気になったら評価やブックマークをお願いします。




