第38話 ご挨拶
インターホンが鳴る。
数秒後。
玄関の扉が開いた。
「おかえり」
穏やかな男性の声。
観月の父だった。
「ただいま」
観月が答える。
そして。
「初めまして」
大輝が頭を下げた。
「竜崎大輝です」
「初めまして」
父も頭を下げる。
「観月亮太の父です」
その後ろから。
「いらっしゃい」
母が柔らかく笑った。
「遠いところありがとう」
「いえ」
大輝は少し緊張しながら答えた。
◇◇◇
リビングへ案内される。
綺麗に整った室内。
落ち着いた空気。
どこか観月らしい。
「どうぞ」
母がお茶を出してくれる。
「ありがとうございます」
大輝が頭を下げる。
「亮太から話は聞いています」
父が言った。
大輝の背筋が伸びる。
「そうですか」
「ええ」
父は少し笑った。
「いつもお世話になっているそうで」
「いえ、そんな」
大輝は思わず観月を見る。
観月は知らん顔をしていた。
◇◇◇
「手土産ありがとうございます」
母が箱を見る。
「素敵な焼き菓子ですね」
「皆さんで食べていただければ」
大輝が言う。
すると。
母が少し嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
◇◇◇
昼食の時間になる。
食卓には手料理が並んでいた。
「美味しそうですね」
「良かった」
母が笑う。
そして四人で席につく。
しばらく穏やかな会話が続いた。
◇◇◇
「竜崎さんは救急救命士なんですよね」
父が聞く。
「はい」
「中央消防署でしたか」
「そうです」
父が頷く。
「私は東都医科大学附属病院なんですが」
「あ、亮太さんから聞いています!」
大輝が即答する。
父が少し驚いた。
「そうでしたか」
「外科の先生ですよね」
「ええ」
そのやり取りを見て。
母が少し笑った。
「ちゃんと予習してきてくださったんですね」
大輝が少し照れたように笑う。
「一応」
その横で。
観月も少しだけ笑っていた。
前日に話した内容を。
ちゃんと覚えていたらしい。
◇◇◇
そして。
ふと。
大輝が何かを思い出したように顔を上げた。
「あ」
「?」
父が見る。
「東都ですか?」
「ええ」
「先月搬送しました」
父が少し驚く。
「交通外傷ですか?」
「そうです!」
「ああ」
父が頷いた。
「覚えています」
◇◇◇
「かなり重症でしたよね」
「ええ」
「搬送まで時間との勝負で」
「現場判断は難しかったでしょう」
「正直かなり」
「ですよね」
そこからだった。
会話が止まらなくなった。
◇◇◇
「救命士の皆さんには本当に助けられています」
父が言う。
大輝が少し驚く。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「こちらこそです」
「いえ」
「いや」
二人とも譲らない。
◇◇◇
観月が隣を見る。
母も見ている。
そして。
二人同時に笑った。
「仲良いですね」
母が言う。
「ですね」
観月も頷く。
まだ一時間も経っていない。
◇◇◇
「亮太とは違う病院なんです」
父が言う。
「そうなんですか」
「ええ」
「だからたまに患者さんの話が出ると」
「分かります」
大輝が即答する。
「ありますよね」
「あります」
また盛り上がる。
◇◇◇
「父さん」
観月が言う。
「ん?」
「楽しそうですね」
父が少し止まった。
そして。
「そうかもしれないな」
少し笑った。
観月は目を丸くする。
珍しかった。
母はその様子を見て。
どこか嬉しそうに微笑んでいた。
◇◇◇
食事が終わる頃には。
大輝の緊張はほとんど消えていた。
「またぜひ来てください」
母が言う。
「ありがとうございます」
「今度はもっとゆっくり」
父も言う。
「ぜひ」
大輝が笑う。
◇◇◇
玄関。
靴を履く。
「今日はありがとうございました」
大輝が頭を下げる。
「こちらこそ」
父が言う。
少しだけ間が空く。
そして。
「また医療の話をしましょう」
大輝が笑った。
「ぜひ」
その返事に。
父も笑った。
◇◇◇
家を出る。
駅までの道。
しばらく歩く。
「どうでした?」
観月が聞く。
大輝は少し考えた。
「親父さん」
「はい」
「かっこよかったな」
観月が止まる。
「そうですか?」
「ああ」
大輝は笑う。
「あと優しかった」
観月も少し笑った。
「喜ぶと思います」
その言葉に。
大輝も笑う。
振り返ると。
まだ玄関先で手を振る両親の姿が見えた。
観月は思う。
きっと。
父も母も。
大輝のことを気に入ったのだろうと。
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