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第34話 また来年も


 帰る時間になった。


 玄関の前には。


 父、母、勇輝、菜月。


 そして。


 美咲と春翔、美咲の夫も来ていた。


 ずらりと並んだ顔ぶれを見て。


 観月は思わず笑ってしまう。



「大人数ですね」

 


「そりゃそうでしょ」



 美咲が笑う。

 


「お見送りなんだから」

 


 ◇◇◇



「りょうたにいちゃん!」



 春翔が駆け寄ってくる。


 観月はしゃがんだ。



「どうした?」



「またくる?」



 真っ直ぐな瞳。


 観月は優しく笑う。



「また来るよ」



「ほんと?」



「うん」



 すると。


 春翔が小指を差し出した。



「やくそく」



 観月も小指を出す。



「約束」



 指切り。


 春翔は満足そうに笑った。



 ◇◇◇



「観月くん」



 今度は美咲の夫だった。



「はい」



「また来てね」



 観月が少し驚く。



「ありがとうございます」



「春翔が会いたがるから」



 その言葉に。



「うん!」



 春翔が元気よく頷いた。


 周囲が笑う。



 ◇◇◇

 


「今度は病院ごっこかな」



 美咲。

 


「いいですね」

 


 観月。


 

「ほら!」



 美咲が得意げな顔をする。



「やったー!」



 春翔は大喜びだった。



 ◇◇◇



 その時。


 父が口を開いた。


 

「亮太くん」


 

「はい」



「今度釣り行くか」

 


 菜月が吹き出す。



「お父さん!」



「何だ」



「そこ!?」



 勇輝も笑う。

 

「親父らしいな」



 父は気にしていない。


 観月は少し驚いて。


 それから笑った。



「ぜひ」



「よし」



 父も満足そうに頷いた。



 ◇◇◇



「次ゲームな」


 勇輝。



「はい」



「映画も」



「もちろんです」



 勇輝が笑う。



 ◇◇◇



「冬服も見ましょうね」



 菜月。

 


「また選んでください」



「いいですよ」



「今度はお兄ちゃん抜きで」



「おい」



 大輝が即座に突っ込む。


 みんなが笑った。


 

 ◇◇◇



 その笑い声が落ち着いた頃。


 観月は改めて姿勢を正した。



「皆さん」



 自然と静かになる。



「今回、本当にありがとうございました」



 深く頭を下げる。



 ◇◇◇



「僕、一人っ子なんです」



 ゆっくり顔を上げる。



「だから」



「兄弟がいる生活って経験がなくて」



 勇輝と菜月を見る。



「ゲームしたり」


「映画の話をしたり」


「買い物したり」



 少し笑った。



「すごく楽しかったです」



 ◇◇◇



「それに」



 観月は続ける。



「父も母も医療職だったので」


「家族みんなでご飯を食べる機会があまりなくて」



 母が静かに聞いている。



「だから」


「皆さんと一緒に食卓を囲む時間が新鮮でした」


「お母さんのご飯も本当に美味しかったです」



 ◇◇◇



 母が両手で口を押さえる。


「やだぁ……」


 もう限界だった。


「そんなこと言われたら……」


 目が潤んでいる。


 菜月も少し鼻をすすった。


 勇輝は照れ臭そうに笑う。


 ◇◇◇



「お盆の忙しい時期に迎え入れてくださって」


「本当にありがとうございました」



 もう一度頭を下げる。


 静かな時間。


 そして。



「また来てね」


 母が言った。


 観月は笑う。


 「ありがとうございます」



 ◇◇◇


 車が走り出す。


 運転席には大輝。


 助手席には観月。

 

 窓の外では。


 みんながまだ手を振っていた。


 春翔は飛び跳ねながら振っている。



「可愛いですね」



 観月が笑う。



「春翔か」


「はい」



「懐いてたな」



「嬉しかったです」



 ◇◇◇



 しばらく車が走る。


 やがて。


 大輝がぽつりと言った。



「びっくりした」



「何がですか?」



「さっきの挨拶」



 観月は少し照れたように笑う。



「あれは本当のことです」



「楽しかったんです」



 ◇◇◇



「少し」



 観月が窓の外を見る。



「羨ましかったです」



「ん?」



「皆さん仲が良くて」



「楽しそうで



 静かな声だった。



「いいなと思いました」



 大輝は少しだけ笑う。


 

「じゃあ」

 


「?」



「また来ればいい」



 観月が振り返る。



「正月も」


「GWも」


「夏も」


「また来ればいい」



 当たり前のように言う。


 

「いいんですか」


 観月が小さく聞く。

 


「親父」


 大輝が笑った。


「釣り誘ってただろ」



 観月が吹き出す。

 

「確かに」


 

「もう無理だな」


「完全に気に入られてる」



 ◇◇◇



 しばらくして。


 大輝が続ける。



「俺も嬉しかった」



「?」



「家族がお前のこと好きになってくれて」



 観月は目を丸くする。



「みんなお前のこと好きだよ」


 

「母さんも親父も勇輝も菜月も、


美咲も春翔も、美咲の旦那さんも」



 少し笑った。


「もちろん俺も」



 ◇◇◇



 観月は何も言えなかった。


 ただ。


 少しだけ照れたように笑う。

 


「ありがとうございます」

 


 大輝は前を向いたまま言った。



「だから」



「?」



「また来年も行くぞ」



 観月は笑う。


 今度は迷わず。



「はい」



 そう答えた。


 窓の外は夕焼けが綺麗だった。


 そして観月の胸の中には。


 また帰りたいと思える場所がひとつ増えていた。

読んでいただきありがとうございます!

毎日12時に投稿予定です५✍⋆*

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