第32話 弟と観月
お盆三日目。
BBQの翌日だった。
朝。
リビング。
観月がコーヒーを飲んでいる。
その向かい。
勇輝がスマホを見ていた。
「観月さん」
「はい」
「暇ですか」
「暇ですね」
即答だった。
「ゲームしません?」
「します」
こちらも即答だった。
◇◇◇
三十分後。
「強くないですか」
勇輝が言った。
「そうですか?」
「そうです」
観月は少し笑う。
その横で。
大輝は敗北していた。
「兄ちゃん弱いな」
「うるさい」
「兄ちゃん昔からゲーム下手だもんな」
「勇輝」
弟は全く遠慮しなかった。
◇◇◇
一時間後。
ゲーム終了。
今度は映画だった。
「これ観たことあります?」
観月が聞く。
「ある」
勇輝が即答する。
「好き」
「ですよね」
「続編どう思いました?」
「あれは前作の方が」
「あ、分かります」
「だよな!」
盛り上がる。
異常に盛り上がる。
◇◇◇
少し離れた場所。
大輝はスマホを見ていた。
見ているはずだった。
しかし。
「そうそう!」
「分かります!」
楽しそうな声が聞こえる。
気になる。
非常に気になる。
◇◇◇
昼食後。
今度は漫画だった。
勇輝の部屋。
「これ好きなんですか?」
「好き」
「僕もです」
「やっぱり?」
また盛り上がる。
気付けば。
二人とも床に座っていた。
漫画を広げて。
好きなシーンを語り合っている。
完全に友達だった。
◇◇◇
その時。
菜月が部屋を覗く。
「何してるの?」
「漫画」
勇輝。
「漫画です。」
観月。
菜月は二人を見た。
そして。
「仲良いな」
思わず言った。
◇◇◇
「同い年だからじゃない?」
勇輝。
「趣味も合いますし」
観月。
「映画も」
「ゲームも」
「漫画も」
息ぴったりだった。
菜月は吹き出した。
「すごい」
◇◇◇
夕方。
リビング。
全員集合。
父。
母。
菜月。
勇輝。
観月。
そして大輝。
その時だった。
「そういえば」
母が言う。
「今日はずっと勇輝と一緒だったわね」
「そうですね」
観月が笑う。
「楽しかったです」
「俺も」
勇輝が言った。
即答だった。
◇◇◇
大輝は思わず聞く。
「なんでそんな仲良いんだ」
静かになる。
数秒。
勇輝が吹き出した。
「兄ちゃん」
「何」
「嫉妬?」
「違う」
即答だった。
すると。
菜月が笑う。
「嫉妬だ」
「嫉妬だな」
父。
「嫉妬ねぇ」
母。
完全に包囲された。
◇◇◇
観月は困ったように笑う。
「竜崎さんも一緒に映画観ます?」
「ん?」
「今夜」
観月が言う。
「続き」
その一言で。
大輝の機嫌は少し直った。
「観る」
即答だった。
勇輝が笑う。
「単純」
「うるさい」
リビングに笑い声が広がる。
◇◇◇
お盆休みが終わって後日。
家族グループメッセージ。
勇輝
『観月さんと今度映画行くかも』
大輝
『は?』
菜月
『仲良しじゃん』
母
『楽しそう^^』
父
『良かったな』
美咲
『観月くん人気者だね』
大輝
『俺の恋人なんだけど』
数秒後。
勇輝
『知ってる』
菜月
『知ってる』
美咲
『知ってる』
母
『知ってる^^』
父
『知ってる』
全員だった。
大輝は深いため息を吐く。
その隣では。
何も知らない観月が映画の続きを見ていた。
もちろん。
本人は。
勇輝とすっかり友達になったことにも。
大輝が少し嫉妬していることにも。
全く気付いていなかった。
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