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第30話 お盆

 お盆。


 竜崎家。



「ただいま」



 大輝が玄関を開ける。

 


「お邪魔します」



 その後ろから観月。



「亮太くん!」



 母が嬉しそうに出迎える。



「お久しぶりです」



 観月が笑う。


 その様子を見ながら。


 大輝は思った。


 もう完全に馴染んでいる。



 ◇◇◇



 リビング。


 父。


 母。


 美咲。


 勇輝。


 菜月。


 全員集合だった。



「観月くん久しぶり!」


 美咲。



「お久しぶりです」



「相変わらず爽やか」



「姉ちゃん」



 大輝が止める。


 しかし。


 誰も気にしない。



 ◇◇◇



 夕飯。


 大きな食卓。


 賑やかな声。


 観月は自然と笑っていた。


 一人っ子だった自分には。


 こういう空気が少し新鮮で。

 

 少し心地良い。


 その時だった。



「そういえば」


 菜月が箸を置く。


「聞いてなかった」


 嫌な予感。

 大輝は即座に察した。



「何を」



「どうやって付き合ったの?」



 来た。


 勇輝も頷く。


「俺も気になる」



「私も」


 美咲。



「聞きたいわねぇ」


 母。



「うん」


 父。



 全員だった。



 ◇◇◇



「別に面白くないぞ」


 大輝が言う。



「面白いかどうかはこっちが決める」


 菜月。



 正論だった。



「観月くん」


 美咲が身を乗り出す。



「はい」



「教えて」



 観月は少し考えた。



「最初は飲み会です」



「飲み会」



「はい」



 家族全員が聞く姿勢になる。



 ◇◇◇



「病院と消防署の飲み会が偶然同じ会場で」



「へぇ」


 勇輝。



「大輝さんから話しかけられて」



「うんうん」


 菜月。



「そこで初めてちゃんと話しました」



 観月は穏やかに話す。


 そして。



「その後」



 少し考える。



「竜崎さんが酔いまして」



 沈黙。


 全員。


 大輝を見る。



「……」


「……」


「……」

 


  嫌な予感しかしない。



 ◇◇◇



「帰り道が同じだったので」



 観月は続ける。



「家まで送ったんです」



「優しい」


 母。



「優しいな」


 父。


 

「優しい」


 美咲。



 まだ平和だった。


 まだ。



 ◇◇◇



「大輝さんの自宅に着いて」



 観月が言う。



「はい」


 菜月。



「吐きました」



 沈黙。


 完全な沈黙。


 数秒。


 誰も喋らない。


 そして。



「大輝」


 美咲。


「何」


「最低」


「それは本当にそう」



 ◇◇◇



「吐いたの?」


 勇輝。



「吐きましたね」


 観月。



「兄ちゃん」



「何だ」



「三十歳だよね」



「そうだな」



「三十歳」



「そうだな」



 何故か二回言われた。



 ◇◇◇



 観月は苦笑した。



「でも大丈夫でしたよ」



「大丈夫じゃない」


 菜月。



「普通帰る」


 勇輝。



「私も帰る」


 美咲。



「俺も帰る」


 父。



「帰るわねぇ」


 母。


 全員だった。



 ◇◇◇



「その後」



 観月は続ける。



「片付けをして」



 再び沈黙。


 そして。



「片付けたの!?」


 菜月。



「はい」



「なんで!?」


 勇輝。



「看護師だからですかね

放っておけなかったので」



 観月は当然のように答えた。


 すると。


 美咲が顔を覆った。


「良い人すぎる……」



「本当に」


 母も頷く。


「優しい子ねぇ」



 父も頷く。 


「良い子だな」



 大輝だけが居心地悪そうだった。



 ◇◇◇



「でも」



 観月が少し笑う。



「後日ちゃんと謝ってくれましたし」

 


「うん」



「その後食事に誘ってくれて」



「うん」



「仲良くなりました」



 観月はそう言って笑った。


 その顔を見て。


 家族は少しだけ安心する。


 そして。


 観月がトイレに行くために席を立った。


 その瞬間。


 全員の視線が大輝へ向く。



「何」



 嫌な予感しかしない。



「大輝」


 美咲。



「何」



「逃がしたらダメ」


 勇輝が真顔で言った。



「絶対ダメ」


 菜月も頷く。



「本当に」


 母も頷く。



「うん」


 父も頷く。


 全員一致だった。



「お前らさ」



 大輝は呆れたように笑う。



「俺の家族だよな?」



 すると。


 勇輝が笑った。


「そうだけど」



 菜月も笑う。


「観月さんも好き」



 美咲も頷く。


「好き」



 母も。


「好きねぇ」



 父も。


「良い子だ」



 完全敗北だった。


 少し離れた場所で。


 何も知らない観月がトイレから戻ってくる。


 その姿を見ながら。


 大輝は小さく笑った。


 家族が。


 こんなに観月を好きになってくれたことが。


 少しだけ。


 いや。


 かなり嬉しかった。

読んでいただきありがとうございます!

毎日12時に投稿予定です५✍⋆*

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