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第2話 飲み会


「かんぱーい!」


 ジョッキがぶつかる音が店内に響く。


 セントラル病院救急外来の飲み会。


 ようやく落ち着いた時期ということもあり、今日は参加者が多かった。


 医師、看護師、救命士補助スタッフ。


 普段は夜勤や当直でなかなか揃わない面々が集まっている。


「観月さん!」


 向かいに座る後輩看護師がジョッキを掲げる。


「飲みましょう!」


「まだ一口も飲んでないだろ」


「これからです!」


「潰れるなよ」


「大丈夫です!」


 大丈夫じゃない。


 この台詞を言う人間は大体潰れる。


 亮太は早くも確信した。


「観月さんって飲み会だと静かですよね」


「普通だと思うけど」


「もっと騒ぎましょうよ」


「いやだ」


「即答!」


 周囲から笑いが起こる。


 観月は苦笑した。


 騒ぐのは嫌いじゃない。


 ただ、自分から輪の中心に行くタイプではないだけだ。



 そんな時だった。


「え?」


 少し離れた席を見ていた医師が声を上げる。


「あれ中央消防署じゃない?」


「えっ?」


「マジだ!」


 一斉に視線が向く。


 観月もつられて振り返った。


 確かにいた。


 見覚えのある男たち。


 中央消防署。


「うわ、本当だ!」


「いつもお世話になってまーす!」


「こっちもでーす!」


 誰かが叫ぶ。


 向こうも盛り上がる。


 あっという間だった。


 気付けば席を移動する者が現れ始める。


「合同で飲みましょうよ!」


「いいですねー!」


「店同じなのも何かの縁です!」


 いや絶対違う。


 そう思った頃にはもう手遅れだった。



 十分後。



 完全に合同飲み会になっていた。



「観月くーん」


 聞き慣れた声。


 観月は顔を上げる。


 竜崎大輝だった。


 すでに顔が赤い。


 嫌な予感しかしない。


「飲んでる?」


「飲んでます」


「静かじゃん」


「普通です」


「もっと楽しもうよ」


「十分楽しんでます」


「そう?」


 そうだ。


 むしろあなたの方が楽しみすぎだ。



 竜崎は隣の席へ勝手に腰を下ろした。


 近い。


 仕事中は感じなかったが。


 この人。


 距離感が近い。



「観月くんっていくつ?」


「二十八です」


「若いなー」


「竜崎さんは三十ですよね」


「そう」


「二歳しか違いません」


「でも若い」


「なんなんですか」


 竜崎が笑う。


 その顔は仕事中よりずっと柔らかかった。



 観月は少し驚く。


 病院で見る竜崎は。


 もっと引き締まっている。


 もっと頼れる。


 もっと大人だ。


 なのに。


 今はただの酔っ払いだった。



「観月くん」


「はい」


「いつも助かってる」


「え?」


「引き継ぎしやすいし」


「……どうも」


「仕事できるよね」


 さらりと言う。


 反則だろ。


 観月はジョッキに口をつけた。


 少し顔が熱い。



「照れてる?」


「照れてません」


「照れてる」


「酔ってます?」


「酔ってない」


 酔っている。



 百パーセント。



「竜崎ー!」


 消防署側から声が飛ぶ。


「お前また口説いてる!」


「違う違う!」


「観月くん逃げろ!」


「まだ間に合うぞー!」


 大爆笑。



「何なんですか」


 観月が呆れる。


 竜崎は頭を掻いた。


「うちの人たち失礼だから」


「今さらですか」


「今さらだね」



 そこへ看護師の先輩も参戦した。



「観月さん」


「なんですか」


「竜崎さんタイプ?」


「は?」


「顔」


「違います」


「早い」


「違います」


「へぇ」



 絶対信じていない顔だった。



「観月くん人気だなー」


 竜崎が笑う。



「竜崎さんもですよ」


「俺?」


「はい」


「そうかな」


「そうです」



 実際そうだ。



 顔も良い。


 仕事もできる。


 人当たりも良い。


 モテない方がおかしい。



「彼女いるんですか?」


 誰かが聞いた。



「いない」


 竜崎は即答した。



「えっ!?」


「嘘だ!」


「絶対嘘!」



 店内がざわつく。



「本当にいない」


「なんで!?」


「仕事してたら三十になってた」



 消防署側も病院側も爆笑だった。



「観月くんは?」


 突然話を振られる。


「いません」


「即答」


「いません」


「二回言った」


 また笑いが起こる。


 なんなんだこの空間。


 だが不思議と居心地は悪くなかった。


 竜崎は誰とでも自然に話す。



 後輩とも。


 医師とも。


 看護師とも。



 そして。



 気付けば隣にいる。


 

「観月くん」


「はい」


「飲んでる?」


「さっきも聞きましたよ」


「聞いたっけ」


「聞きました」


「覚えてない」



 終わっている。


 気付けば終電が近付いていた。



「そろそろ解散しますかー!」


 

 誰かの声が上がる。


 あちこちで立ち上がる人影。


 

 会計。


 荷物。


 上着。



 店の外へ出る。


 夜風が気持ち良かった。

 


「観月くん」


 

 振り返る。


 竜崎だった。


 少しふらついている。



「帰るの?」


「帰ります」


「どっち方面?」



観月は店の外の道路を指差した。


 

「こっちです」


「あ、俺も」

 

「え?」

 

「マジ?」

 

「マジです」


 

初耳だった。

 

そういえば。

 

勤務先は知っていても。


どこに住んでいるかなんて話したことはない。


 

「近いんですか?」


「たぶん」


「たぶん?」

 

「酔ってるから分かんない」


「帰れます?」

 

「帰れる帰れる」


 

全然信用できない。

 

その時だった。

 

竜崎の身体がぐらりと傾く。


 

「うわっ」


 

観月は慌てて腕を掴んだ。


 

「帰れないじゃないですか」


「帰れるって」


「説得力ゼロです」 

 


 嫌な予感がした。

読んでいただきありがとうございます!

毎日12時に投稿予定です५✍⋆*

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