第23話 「名前」
付き合い始めて三か月。
竜崎大輝には悩みがあった。
「隊長」
佐野が声を掛ける。
「ん?」
「何悩んでるんですか」
「悩んでない」
「悩んでます」
即答だった。
「顔見れば分かります」
「そうか?」
「そうです」
竜崎は少し考えた。
そして。
「観月くんがさ」
「はい」
「まだ観月くんなんだよな」
佐野が固まる。
「はい?」
「付き合ってるのに」
「はい」
「観月くん」
「はい」
「俺も竜崎さん」
「はい」
数秒。
沈黙。
そして。
「中学生ですか?」
「うるさい」
◇◇◇
一方その頃。
セントラル病院。
「観月」
「なんですか」
高橋だった。
「お前さ」
「はい」
「まだ竜崎さんなの?」
観月の動きが止まる。
「……」
「図星だな」
「仕方ないでしょう」
「何が」
「急に名前呼びなんて」
「恋人だろ」
「だからです」
意味が分からなかった。
高橋は笑う。
「意識しすぎ」
「してません」
「してる」
していた。
めちゃくちゃしていた。
◇◇◇
その日の夜。
竜崎の部屋。
ソファ。
隣同士。
だが。
微妙に距離がある。
「観月くん」
「はい」
いつも通り。
そして。
「……」
「……」
二人とも黙る。
なぜか。
今日に限って。
高橋と佐野の言葉を思い出してしまう。
先に口を開いたのは竜崎だった。
「観月くん」
「はい」
「いや」
「?」
「なんでもない」
観月が首を傾げる。
可愛い。
だから困る。
「竜崎さん?」
「うん」
観月も言いかけてやめる。
沈黙。
気まずい。
その時だった。
「……大輝さん」
「え」
竜崎が固まった。
観月も固まった。
言ってしまった。
勢いだった。
勢いだったのに。
顔が熱い。
ものすごく熱い。
「……」
「……」
沈黙。
数秒後。
竜崎が顔を覆った。
「やばい」
「何がですか」
「今の」
観月も耳まで真っ赤だった。
「高橋さんに殺される……」
「なんで」
「絶対笑われます」
竜崎が笑う。
嬉しそうに。
本当に嬉しそうに。
そして。
少しだけ距離を縮めた。
「じゃあ俺も」
「……」
「亮太」
観月の思考が止まる。
終わった。
心臓が終わった。
「亮太」
もう一回。
わざとか。
絶対わざとだ。
「……」
「顔赤い」
「誰のせいですか」
「俺か」
「あなたです」
竜崎は笑う。
観月は顔を隠す。
結局。
その日一番ダメージを受けたのは。
いつも通り観月の方だった。
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