表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/25

第19話 お礼


 体調は完全に戻った。


 竜崎大輝は救急車の点検を終え、大きく伸びをする。



「元気ですね」



 佐野が言った。


 

「おかげさまで」

 


「観月くんのおかげですね」



「そうだな」



 素直に頷く。


 口にしてみると、不思議と胸の奥が少し温かくなった。


 それを見て。


 佐野が一瞬固まった。

 


「認めた」



「事実だろ」



「認めた」



「うるさい」



 その時だった。



「竜崎」



 中村がやって来きた。

 


「体調どうだ」



「もう大丈夫です」



「そうか」



 中村は頷いた。


 そして。



「観月くんに礼したか?」



「メッセージはしました」



「それだけ?」



「それだけ」



 中村がため息をつく。


 佐野もため息をつく。



 なぜだ。



「足りないだろ」



「そうです」



「看病してもらったんだぞ」



「そうです」



 まるで尋問だった。



「じゃあどうすれば」



「飯」


「飯ですね」



 即答だった。


 竜崎は少し考える。


 確かに。


 メッセージだけでは足りない気がする。


 食事。


 それは良いかもしれない。


 観月とゆっくり話す理由にもなる。


 そう思った瞬間、自分でも少し意外だった。



「なるほど」



「なるほどじゃない」



 中村が笑う。



「本当にお前鈍いな」



「?」



 意味が分からない。



「とりあえず誘え」

 


「今すぐ」



「今すぐ?」

 


「今すぐ」



 圧が強い。


 仕方なくスマホを取り出した。

 


【観月くん】



 メッセージ画面を開く。



『この前のお礼したい』



 送信。


 送った直後、なぜか返事が気になった。



「送った」

 


「早い」

 


「えらい」



 なぜか拍手された。



 ◇◇◇



 一方その頃。


 セントラル病院。



「観月」



「なんですか」



 高橋だった。


 嫌な予感しかしない。


 

「最近機嫌いいな」



「普通です」

 


「普通じゃない」

 


「普通です」



「竜崎さん?」



「違います」



 反射だった。


 否定が早すぎたことに、自分でも少し焦る。


 その瞬間。


 スマホが震える。


 嫌な予感がした。


 画面を見る。



【竜崎さん】

 


「……」



 胸が小さく跳ねる。



「ほら」

 


 高橋が笑った。



「図星」



「違います」



「違わない」



 無視してメッセージを開く。



『この前のお礼したい』



 短い一文。


 観月は少し考えた。


 もう十分だと思う。


 謝罪もされた。


 感謝もされた。


 それで終わりでいいはずだ。


 なのに。


 返信を考えている自分がいる。


 少しだけ、その事実が嬉しかった。



『気にしなくていいですよ』



 送信。


 数秒後。



『気にする』



「……」



 早い。


 相変わらず早い。


 思わず口元が緩みそうになる。


 

『もう十分謝られました』



『謝罪じゃなくてお礼』



 観月の指が止まる。


 お礼。


 その言葉が妙に嬉しかった。


 看病したことを、ちゃんと覚えていてくれた。


 それだけなのに、胸の奥が少し浮き立つ。



「ほら」



 高橋が横から覗く。



「何ですか」



「顔」



「顔?」

 


「嬉しそう」



「違います」

 


「違わない」



 高橋は断言した。


 そして。



「で?」



「で?」

 


「ご飯?」



「……」



 図星だった。


 自覚した途端、少しだけ落ち着かなくなる。


 

「ご飯だ」



「うるさいです」



「二回目だ」

 


「うるさいです」



「デートだ」

 


「違います」



 そのやり取りの間にも。


 スマホが震える。



【竜崎さん】



『今度またご飯どう?』



 観月は画面を見つめた。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 心臓がうるさい。


 誘われたことが、思った以上に嬉しい。


 それでも。


 断る理由は見つからなかった。



『分かりました』



 送信。


 押した瞬間、胸の奥がふっと軽くなる。


 すぐに既読が付く。



『やった』



 思わず笑ってしまうくらい素直な返信だった。



『今度は俺が奢ります』



 送る。


 数秒後。



『それはダメ』



『お礼だから』



 観月は小さく息を吐く。


 画面の向こうで。


 きっと竜崎は笑っている。


 なぜかそう思った。


 その想像に、自分まで少し笑ってしまう。



「で?」


 

 高橋が聞く。

 


「なんですか」



「いつ?」



「まだ決まってません」



「楽しみだな」



「だから違います」

 


「何が?」



「……」



 返事ができなかった。



 一方その頃。


 中央消防署。


 竜崎はスマホを見ながら笑っていた。



『分かりました』



 その一文だけで。


 驚くほど嬉しかった。


 断られるかもしれないと少しだけ思っていた分、なおさらだった。

 


「隊長」



「ん?」



「顔」



 佐野が言う。



「なんだよ」



「嬉しそうです」



「そうか?」



「そうです」



 中村が隣で頷く。



「楽しみなんだろ」

 


「まあ」



 竜崎は素直に認めた。


 観月とまた話せる。


 それが楽しみだった。


 胸の奥が少し弾む理由を、まだうまく言葉にはできない。


 ただそれだけ。


 そのはずだった。

読んでいただきありがとうございます!

毎日12時に投稿予定です५✍⋆*

続きが気になったら評価やブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ