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第18話 会いたい理由


 目が覚めた時。


 部屋は薄暗かった。



「……」

 


 竜崎大輝はゆっくりと目を開ける。


 時計を見る。


 午後六時過ぎ。



「夕方か」



 かなり寝たらしい。


 体を起こしてみる。


 頭痛はない。


 熱っぽさもない。


 体も随分軽くなっていた。



「よかった……」

 


 思わず息を吐く。


 その時だった。


 机の上が目に入る。



「……」



 スポーツドリンク。


 ゼリー飲料。


 薬。


 ドラッグストアの袋。


 綺麗に畳まれたタオル。


 数時間前のことを思い出す。


 帰り道。


 具合が悪くなった自分。


 偶然会った観月。


 薬を買ってもらって。


 家まで送られて。


 看病までしてもらった。



「……優しいな」



 自然と呟きが漏れる。


 看護師だから。


 きっと誰にでも優しい。


 そう思う。


 それでも。


 嬉しかった。


 スマホを手に取る。


 少し迷ってから。



【観月くん】

 


『起きた』



 送信。


 数秒後。



『起きたんですね』



 返信。


 早い。


 思わず笑ってしまう。



『体調どうですか』



『だいぶ楽になった』


 

『良かった』



『ちゃんと水分取ってます?』



『取ってる』



『えらいです』

 


『子供扱いするな』



『熱出してた人が言います?』



『反論できない』

 


『今日は無理せず、ちゃんと食べてくださいね』



『了解』



『約束ですよ』



 短いやり取り。


 それだけなのに。


 妙に安心した。


 その時だった。


 別の通知が入る。



【佐野】



『隊長』

 


『生きてますかー?』



 竜崎は吹き出した。

 


『生きてる』



 すぐに返信が来る。



『よかったです』



『帰り際かなり具合悪そうだったんで』



『熱だった』

 


『病院行きました?』



『行ってない』



『え』



『じゃあどうしたんですか』



 竜崎は何気なく返信した。



『観月くんに看病してもらった』



 既読。


 数秒。


 返信が来ない。



「?」



 珍しい。


 そう思った直後。


 通知が連続で鳴った。

 


『はい??????』



『どういうことですか』

 


『なんで観月くんが隊長の家にいるんですか』



 勢いがすごい。



『帰り道で会った』



『偶然!?』

 


『偶然

向こうも夜勤終わりだったらしい。』



『すごい偶然ですね』

 


『そうだな』



『で?』



『で?』



『なんで看病まで』



 竜崎は少し考える。

 


『送ってもらった』



『はい』



『薬買ってもらった』

 


『はい』



『寝るまでいてくれた』

 


 既読。


 沈黙。


 数秒後。

 


『隊長』



『ん?』



『それ本当に彼女じゃないんですか』

 


「なんでだよ」



 思わず声が出た。

 


『違う』

 


『嘘だ』



『違う』

 


『観月くん優しすぎません?』



『元々優しい』



『惚気ですか?』



『違う』



『違わない気がする』



 最後まで信じてもらえなかった。


 スマホを置く。


 そして。


 天井を見上げた。



「……」



 観月は優しい。


 それは知っていた。


 仕事中からずっと。


 患者にも。


 家族にも。


 後輩にも。


 ちゃんと気を配る。


 だから。


 仕事ができるだけじゃない。


 人として尊敬できる。



「……」



 飲み会の日。


 一緒に話せて嬉しかった。


 それは本当だ。


 食事会も楽しかった。


 猫の話をして。


 笑って。


 帰り道を歩いた。


 そして今日。


 看病してもらった。


 熱でぼんやりしていたはずなのに。


 額に触れた手の冷たさや。


 心配そうに覗き込んできた顔は、不思議なくらい鮮明に思い出せる。


 思い返せば思い返すほど。


 観月のことばかり考えている。



「なんでだろうな」



 小さく呟く。


 尊敬しているから。


 気が合うから。


 一緒にいて居心地がいいから。


 理由はいくつも浮かぶ。


 けれど。


 それだけで説明できる気もしなかった。


 気付けば観月を探している。


 仕事で姿を見れば少し安心して。


 話せれば嬉しくて。


 今日は休みだと聞けば、少しだけ物足りなく感じる。


 そんなことを考える相手が、今までいただろうか。


 答えは出ない。


 だが。


 一つだけ分かることがあった。


 観月といると楽しい。


 観月に会うと安心する。


 メッセージが来ると嬉しい。


 そして。


 もっと話したいと思う。


 もっと知りたいと思う。


 それは。


 他の人にはあまり感じない感情だった。


 その時。


 スマホが震える。



【観月くん】



『夕飯食べました?』



「……」



 竜崎は画面を見つめた。


 まだ食べていない。

 

 だが。


 そんなことより。


 仕事終わりで疲れているはずなのに。


 こうして気にかけてくれることが。


 どうしようもなく嬉しかった。


 胸の奥がじんわりと温かくなる。


 その温かさの理由に、まだ名前は付けられない。


 けれど。


 今この瞬間、一番顔を見たいと思った相手が誰なのかだけは分かっていた。


 自然と口元が緩む。


 そして。


 自分でも驚くほど素直に。



「会いたいな」



 そう呟いていた。


 静かな部屋に溶けたその言葉は。


 誰に聞かせるでもない独り言のはずなのに。


 胸の奥へ深く落ちていく。


 その意味に気付きかけながら。


 竜崎はまだ、答えを口にできなかった。

読んでいただきありがとうございます!

毎日12時に投稿予定です५✍⋆*

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