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第16話 遅すぎる告白


 気まずい。


 非常に気まずい。


 ベッドの上。


 竜崎大輝。


 熱あり。


 記憶復活済み。


 そして。

 

 目の前には観月亮太。


 怒っている。


 間違いなく怒っている。



「……」



「……」



 沈黙が痛い。


 熱のせいじゃない。


 完全に自業自得だった。



「観月くん」



「なんですか」



「本当にごめん」



 観月は無言だった。


 怖い。


 だが。


 逃げられない。

 


「キスしたことも」



「……」



「吐いたことも」



「……」



「掃除させたことも」

 


「全部」



 観月は額を押さえた。


 ようやく。


 本当にようやく。


 全部思い出したらしい。



「遅いです」



「うん」



「本当に遅いです」



「うん」



「何週間経ったと思ってるんですか」



「ごめん」



 素直だった。


 普段ならもっと言い返したかもしれない。


 だが。


 熱のせいだろうか。


 今は言い訳する気にもならない。


 自分が悪い。


 それだけだった。



「でも」



 竜崎が小さく呟く。



「一つだけ」



「何ですか」



「誰にでもするわけじゃない」



 観月が眉をひそめる。



「何をですか」



「キス」



「……」



 観月が固まった。



「普通しません」



「それはそう」



「酔ってても普通しません」



「うん」



 それもそうだった。


 竜崎は少しだけ視線を天井へ向ける。


 正直。


 自分でも驚いていた。


 なぜ観月だったのか。


 思い返してみれば。


 答えは意外と簡単だった。



「観月くんだから」

 


「……」



「仕事してる時から」



 観月が顔を上げる。


 竜崎は少し照れくさそうに笑った。



「真面目だなって思ってた」

 


「……」



「優しいし」



「……」



「仕事できるし」



「……」

 


「いい人だなって」



 観月は何も言わない。


 ただ聞いていた。



「だから」



 竜崎は少し考える。


 言葉を探すように。



「飲み会の時」



「……」



「一緒に話せて嬉しかった」



 その言葉は飾り気がなかった。


 本音だった。



「だからたぶん」



「……」



「距離感おかしくなった」



「たぶんじゃないでしょう」



 観月が即座に突っ込む。


 竜崎は少し笑った。


 その反応に。


 少しだけ安心する。


 完全には怒っていないらしい。


 その時だった。


 観月が薬を差し出す。



「飲んでください」



「うん」

 


「水も」



「うん」



 完全に患者扱いだった。


 だが逆らえない。


 大人しく薬を飲む。


 そして。


 観月がコップを受け取るため近付いた。


 距離が近い。


 ふわり。


 あの匂いがした。

 

 柔らかくて。


 落ち着く匂い。



「……」



 竜崎は少し笑った。



「やっぱり好きだな」



「何がですか」

 


「その匂い」



 観月の動きが止まる。



「……は?」



「この匂い」



 竜崎は素直に言った。


 

「好き」



 熱があるせいだろうか。


 変な駆け引きをする気になれなかった。


 ただ思ったことを口にした。



「落ち着くし」



「……」

 


「いい匂い」



「……」



 観月は固まった。


 数秒。


 十秒。


 二十秒。


 反応がない。



「観月くん?」

 


「黙ってください」



 即答だった。



「え」


 

「今すぐ黙ってください」

 


 耳まで真っ赤だった。


 顔も赤い。


 熱があるのは竜崎の方なのに。



「照れてる?」



「照れてません」



「赤い」



「うるさいです」



「可愛い」

 


「黙ってください!!」



 観月がクッションを投げた。


 見事に顔へ直撃する。



「痛い」


 

「知りません」



 だが。


 竜崎は少しだけ笑った。


 観月は怒っている。

 

 呆れている。


 それでも。


 こうして看病してくれている。


 それが少し嬉しかった。


 そして観月もまた。


 クッションを投げた後。


 自分の顔を覆った。


 熱がある人間に。


 真顔で。



『観月くんだから』



 なんて言われるとは思わなかった。


 しかも。



『この匂い好き』



 なんて。



「……反則だろ」



 小さな呟きは。


 竜崎には聞こかなかった。

読んでいただきありがとうございます!

毎日12時に投稿予定です५✍⋆*

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