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第13話 デートじゃない


 セントラル病院救急外来。


 夜勤明け。


 観月亮太は休憩室の扉を開けた。


 その瞬間だった。



「で?」



 高橋がいた。



「何がですか」



「食事会」



 即答だった。

 観月は無言でコーヒーを入れる。


 

「普通でした」



「普通じゃない顔してる」



「気のせいです」


 

「嘘だ」



 高橋がじっと見てくる。

 面倒くさい。

 非常に面倒くさい。



「美味しかったです」



「ほう」



「店も良かったです」


 

「ほう」



「以上です」



「絶対以上ある」



 なかったことにしたい。


 その時。


 休憩室に後輩看護師が入ってきた。



「あっ」



 嫌な予感。



「観月さん!」


 

「はい」


 

「デートどうでした!?」


 

「デートじゃない」



 反射だった。



「え?」


 

 言った瞬間、自分でも少し強く否定しすぎた気がした。



「でも二人でご飯ですよね?」



「お詫びです」



「デートじゃん」



 高橋が言った。


 

「違います」



「じゃあなんで休日に二人でご飯行くんだよ」



「お詫びです」



「便利な言葉だな」



 全く納得していない顔だった。


 観月も少しだけ胸の内で言い返す。


 違う。


 ただの食事だ。


 ……ただの食事のはずだ。


 なのに、昨夜のことを思い出すたび妙に落ち着かないのはなぜだろう。



「で?」



 高橋がニヤリと笑う。


 

「竜崎さん私服どうだった?」



「普通でした」



 即答。


 

「格好良かった?」



「普通です」


 

「格好良かったんだな」



 うるさい。


 非常にうるさい。


 観月はコーヒーを飲む。


 思い出す。


 ネイビーのシャツ。


 落ち着いた笑顔。


 猫の話をしている時の柔らかい表情。


 それに、自分の話を聞く時の真っ直ぐな視線。


 別に意識しているわけじゃない。


 そう思うのに、細かいところまで覚えている自分が少し腹立たしい。



「……」



「ほら」



 高橋が笑った。



「今思い出しただろ」


 

「もう帰ります」



「逃げた」



 逃げた。


 認めたくはないが。


 逃げた。


 これ以上突っ込まれると、自分でも説明できないことまで口にしてしまいそうだった。



 ◇◇◇


 

 一方その頃。


 

 中央消防署。


 

「隊長」



「ん?」

 


 佐野だった。


 嫌な予感がする。


 

「デートどうでした?」



「違う」



 こちらも反射だった。


 否定した直後、なぜか昨夜の店の灯りが頭をよぎる。

 


「またまた」



「二人でご飯ですよね」



「そうだけど」



「デートですね」



「違う」

 


 その時。


 中村がやって来た。



「で?」


 

「で?」


 

「食事会」



 こっちもか。



「普通だった」


 

「楽しかった?」


 

「楽しかった」



 即答だった。

 佐野と中村が顔を見合わせる。



「ほら」


 

「デートだな」



「違う」



 なぜそうなる。


 でも、楽しかったのは事実だった。


 観月といると会話が途切れない。


 気を遣わなくていい。


 それが妙に心地良かった。


 

「何話したんですか」



「猫」



「猫」



「仕事」



「仕事」



「映画」



「映画」



「色々」



「楽しそうですね」


 

「楽しかったから」



 また即答してしまった。


 中村が吹き出す。



「そういえば観月くんから連絡来ましたよ」

 


「ん?」



「教えてくれた店、美味しかったです。ありがとうございますって」



「お、良かったな」



 竜崎は少しだけ嬉しくなった。


 その短いメッセージを見た時も、思った以上に嬉しかったことは黙っておく。

 


「竜崎」

 


「なんですか」



「好きなのか?」



「違う」



 否定した。


 だが。


 少しだけ遅れた。


 好きじゃない。


 たぶん。


 まだ。


 そう言い聞かせるほど、胸の奥が妙にざわつく。



「遅い」



 佐野が言った。



「遅かったですね」


 

「考えた」



「考えてない」



「考えた」

 


 なぜか二人とも楽しそうだった。



「観月くん良い人だよ」



 竜崎は素直に言う。



「仕事できるし」

 


「うん」



「優しいし」



「うん」



「話してて楽しいし」



「うん」



「だから?」



 中村が聞く。

 


「だから?」



 佐野も聞く。



「……だから?」



 竜崎自身も聞き返した。


 言葉にして並べてみると、思ったより褒めていた気がする。


 二人が同時にため息をつく。



「鈍い」


「鈍いですね」


 

「なんで」



 本当に分からなかった。


 その時だった。


 ふと。


 頭の中に何かが引っ掛かる。


 夜道。


 近い距離。


 柔らかい匂い。



「あれ」



「隊長?」



「いや」



 観月の顔が浮かぶ。


 そして。


 昨夜。


 近付いた時に感じた匂い。



「……」



 どこかで。

 

 知っている。


 気がする。


 あと少し。

 

 あと少しで思い出せそうなのに。


 その記憶だけが。


 どうしても掴めなかった。


 それなのに、不思議ともう一度近くで確かめたいと思ってしまった。

読んでいただきありがとうございます!

毎日12時に投稿予定です५✍⋆*

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