第11話 思ったより楽しい
料理が運ばれてくる。
刺身。
焼き魚。
小鉢。
どれも美味しそうだった。
「本当にいい店ですね」
観月が言う。
「良かった」
竜崎が少し安心したように笑った。
「中村さんに感謝ですね」
「本当だね」
二人は箸を取る。
最初は少し緊張していた。
だが。
料理を食べ始めると自然と会話が増えた。
「最近忙しいですか?」
「忙しいですね」
観月は味噌汁を飲む。
「熱中症増えてきましたし」
「あー」
竜崎も頷いた。
「搬送増えるよね」
「増えますね」
「救急車足りなくなる」
「病院もベッド足りなくなります」
お互い苦笑した。
職種は違う。
でも。
同じ現場を見ている。
だから話が早かった。
「この前の転倒の患者さん」
「ああ」
「実は退院したんですよ」
「本当?」
「はい」
竜崎の表情が明るくなる。
「良かった」
その一言が自然だった。
観月は少し驚く。
仕事中もそうだ。
竜崎は患者を大事にする。
それが分かる。
だから。
格好いいと思ってしまうのだ。
最初はただ、少し騒がしくて距離の近い救命士だと思っていた。
けれど一緒に仕事をするうちに、その印象は少しずつ変わっていた。
患者に向ける真剣な眼差しも。
こうして何気なく見せる優しさも。
気付けば目で追ってしまう。
それが少し厄介だった。
「観月くん?」
「はい?」
「何か考えてた?」
「別に」
「怪しい」
「怪しくないです」
怪しかった。
だが認めない。
その時。
竜崎のスマホが震えた。
「あ」
画面が光る。
観月は何気なく視線を向けた。
「……猫?」
「え?」
竜崎がスマホを見る。
「ああ」
待ち受けだった。
五匹の猫。
ぎゅうぎゅうに並んでいる。
「実家の猫」
「五匹?」
「五匹」
「多いですね」
「可愛いよ」
即答だった。
そして。
そこからだった。
竜崎が止まらなくなったのは。
実家の猫たちの写真を次々見せながら、竜崎は楽しそうに名前や性格を紹介していく。
「これ可愛くない?」
「可愛いですね」
「だよね!」
嬉しそうだった。
とにかく嬉しそうだった。
普段の竜崎とは少し違う。
仕事中の顔でもない。
飲み会の酔っ払いでもない。
もっと。
柔らかい。
穏やかな表情。
「……」
観月は少しだけ目を逸らした。
心臓が変な音を立てた気がした。
なんだろう。
その顔は反則だと思う。
こんな表情をする人だとは知らなかった。
知れば知るほど、竜崎という人間が気になってしまう。
それが仕事仲間としての興味だけではないことに、薄々気付き始めていた。
「観月くん?」
「はい」
「猫好き?」
「好きですよ」
「今度もっと見せる」
「見せなくていいです」
「なんで」
「写真の量がおかしい」
「まだある」
「やめてください」
竜崎が笑う。
その顔を見て。
観月もつられて笑ってしまった。
楽しい。
思った。
正直。
思ったよりずっと楽しい。
竜崎と二人で食事をすることに、最初は気を遣うばかりだと思っていた。
なのに今は時間が過ぎるのが妙に早い。
もっと話していてもいいかもしれない。
そんなことを考えた自分に少し驚く。
その事実に自分で少し驚いた。
「そういえば」
竜崎が箸を置く。
「観月くんって病院でもそんな感じなの?」
「そんな感じ?」
「うん」
少し考えるような顔。
「落ち着いてるというか」
「普通です」
「本当かな」
「本当です」
「新人さんに怖がられてそう」
「それはあります」
「あるんだ」
竜崎が笑った。
「でも優しいよね」
「……」
不意打ちだった。
「仕事見てたら分かる」
「……そうですか」
「うん」
竜崎は本当にそう思っている顔だった。
観月は湯呑みに手を伸ばす。
少しだけ顔が熱かった。
褒められたからだけではない。
竜崎にそう言われたことが、思った以上に嬉しかった。
そのことを悟られたくなくて、湯呑みに視線を落とす。
料理は美味しい。
店も良い。
会話も楽しい。
そして。
目の前の男は。
思っていたよりずっと。
面倒で。
優しくて。
放っておけない人だった。
それだけではないのかもしれない。
そう考えかけて、観月は意識的に思考を止めた。
観月は小さく息を吐く。
どうやら。
この食事会は。
思った以上に楽しくなりそうだった。
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