第10話 お詫びの食事
観月くんとご飯に行くことになった。
竜崎大輝はスマホを見つめていた。
『来週の水曜日どうですか?』
『大丈夫です』
そのやり取りを見返す。
そして。
「どこ行けばいいんだ」
問題はそこだった。
◇◇◇
中央消防署。
「中村さん」
「ん?」
「お詫びでご飯行くんですけど」
「ほう」
中村がニヤリとした。
嫌な予感がする。
「どこがいいと思います?」
「相手は?」
「観月くん」
沈黙。
佐野もこちらを見る。
そして。
「デートだな」
「デートですね」
「違います」
即答だった。
「お詫びです」
「デートだな」
「デートですね」
「違います」
全然信じてもらえない。
「飲みじゃなくて食事って言われたんですよ」
「ああ」
中村が頷く。
「信用失ったんだな」
「はい」
否定できなかった。
「じゃあちゃんとした店だな」
「ちゃんとした店?」
「半個室の和食」
「和食」
「無難」
「なるほど」
「静か」
「なるほど」
「失敗しない」
「なるほど」
メモを取る。
真面目だった。
「隊長」
佐野が口を開く。
「服もちゃんとしてくださいね」
「服?」
「その顔」
「なんだよ」
「絶対スーツで行こうとしてる」
「ダメなの?」
「重い」
中村と佐野が即答した。
「なんで」
「なんでじゃない」
「シャツ」
「シャツです」
「綺麗め」
「綺麗めです」
よく分からない。
だが。
真面目にメモした。
「頑張れよ」
「だから違いますって」
「デート頑張れよ」
「違います」
最後まで信じてもらえなかった。
◇◇◇
そして当日。
竜崎は約束の三十分前に店へ着いていた。
落ち着かない。
やたら落ち着かない。
半個室の和食店。
中村おすすめ。
予約済み。
問題ない。
たぶん。
シャツも着た。
ネイビーのシャツ。
黒のパンツ。
佐野おすすめ。
問題ない。
たぶん。
「緊張するな……」
思わず呟いた時だった。
「竜崎さん」
聞き慣れた声。
顔を上げる。
観月亮太だった。
「お疲れさまです」
「お疲れさま」
その瞬間。
竜崎は少しだけ固まった。
「……」
私服だった。
当然だ。
食事なのだから。
だが。
病院で見る姿とは少し違う。
白いシャツ。
黒のパンツ。
落ち着いた色合いのコート。
シンプルなのに。
妙に目を引く。
「?」
観月が首を傾げた。
「どうしました?」
「いや」
思ったことが口から出る。
「飲み会の時も私服だったよな」
「そうですね」
「……正直あの日あんまり覚えてない」
「でしょうね」
「似合ってる」
自然に出た言葉だった。
観月が一瞬だけ固まる。
「……どうも」
少しだけ目を逸らした。
なんだろう。
反応が変だった。
その理由は分からない。
一方。
観月も少し驚いていた。
竜崎の私服。
想像よりずっと綺麗だった。
もっとラフな格好だと思っていた。
飲み会の時ももっとラフな格好だったと思う。
だから今日もそんな感じを。
勝手に想像していた。
だが。
目の前の竜崎は違う。
ちゃんとしている。
むしろ。
「……」
格好いい。
悔しいが。
かなり格好いい。
「観月くん?」
「なんですか」
「店入ろうか」
「あ」
いけない。
見すぎた。
「そうですね」
二人は店員に案内される。
半個室。
落ち着いた空間。
思った以上に良い店だった。
観月は少し驚く。
「こういう店よく来るんですか?」
「いや」
竜崎は首を振った。
「初めて」
「え?」
「先輩の中村さんに聞いた」
「……」
「お詫びだからちゃんとしたかった」
そう言って竜崎は少し照れたように笑う。
観月は言葉に詰まった。
ずるい。
そういうところだ。
そういうところが。
ずるい。
「とりあえず」
竜崎がメニューを開く。
「今日は好きなもの食べて」
「お詫びですから?」
「お詫びですから」
二人は顔を見合わせる。
そして。
少しだけ笑った。
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