第9話 飲みじゃなくて
観月亮太は休憩室のソファに座っていた。
夜勤明け。
ようやく一息つけた時間だった。
手元にはスマホ。
そして。
【竜崎大輝】
最近やたらと見る名前。
「……」
あの日から。
少しずつメッセージが続いていた。
『お疲れさまです』
『お疲れさまです』
そんな他愛ないやり取り。
仕事の愚痴。
夜勤の話。
救急隊の話。
気付けば。
思ったより普通に話していた。
そして今。
画面に新しい通知が表示される。
【竜崎大輝】
『お疲れさまです』
観月はメッセージを開いた。
『夜勤ですか?』
『明けです』
『お疲れさまです』
『竜崎さんは?』
『今休憩です』
『羨ましいです』
『観月くん寝てください』
『帰ったら寝ます』
『絶対寝ないでしょ』
『なんで分かるんですか』
『分かります』
「……」
少し笑う。
なんだろう。
最初はあんなに腹が立っていたのに。
最近は普通にやり取りしている。
不思議だった。
その時。
次のメッセージが届く。
『そういえば』
『はい』
『改めてなんですけど』
『はい』
少し間が空いた。
そして。
『お詫びしたいです』
「……」
観月はスマホを見つめた。
『電話でも言いましたけど』
『吐いた件ですよね』
『はい』
『本当に申し訳なかったので』
『今度ご飯奢らせてください』
「……」
ご飯。
観月は少し考えた。
別に嫌ではない。
嫌ではないが。
問題がある。
非常に大きな問題が。
飲み会。
キス。
嘔吐。
地獄。
「……」
観月はゆっくり文字を打った。
『飲みは嫌です』
送信。
数秒後。
『信用ない』
「当然だろ」
思わず声が出た。
さらにメッセージが届く。
『否定できません』
『本当にすみません』
ちょっと面白い。
観月は小さく笑った。
『食事ならいいですよ』
送信。
数秒。
返信が来ない。
「……」
既読はついている。
なのに来ない。
その時。
画面が光った。
『本当ですか!!!!!?』
びっくりマークが多い。
『本当です』
『やった』
『ありがとうございます』
『店探します』
『飲み屋以外で』
『信用ない』
『ないです』
即答だった。
数秒後。
『ちょっと傷付きました』
『自業自得です』
『そうでした』
また少し笑ってしまう。
その時だった。
「観月」
突然後ろから声がした。
「うわっ」
高橋だった。
「誰と笑いながらメッセージしてるの?」
「してません」
「してた」
「してません」
「顔見れば分かる」
高橋が隣を覗き込む。
観月は慌ててスマホを伏せた。
「怪しい」
「怪しくないです」
「竜崎さん?」
「……」
図星だった。
「うわ」
「うわってなんですか」
「ご飯行くの?」
「お詫びです」
「デートじゃん」
「違います」
「デートじゃん」
「違います」
絶対違う。
これはお詫びだ。
お詫びの食事。
それ以上でもそれ以下でもない。
そのはずだった。
スマホが震える。
【竜崎大輝】
『来週の水曜日どうですか?』
『大丈夫です』
『了解です!』
『楽しみにしてます!』
「……」
観月はその一文を見つめた。
楽しみにしてます。
ただの食事だろ。
そう思うのに。
なぜか少しだけ。
心臓がうるさかった。
読んでいただきありがとうございます!
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