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5. 走査

時代設定は平成です。

拙い表現も多いと思いますが、新しい回の追加と並行して、以前の回も適時修正しています。エピや会話の増補もあります。

よろしくお願いします。


「…そうか」

分断した回路の両端は黄金色だった。


彼方が振り上げた万年筆を下すと、指し示していた光線がフッと消えた。

球体は動かない。伝えたいことは叶ったと言っているように彼方には見えた。


分かってきた。

球体は万年筆がチョークボックスにある事を知っていた。先回りして回収できたはずた。

彼方が見つけたのを力ずくで取り上げることもできただろう。

だがそれをしていない。あえて隠し場所を教えて、こちらの出方を待っている。

動かないのもこちらを安心させるためなのかもしれない。


まだ怖い。

…だけど…気を取り直して

《SF映画のファーストコンタクトって、どうだったっけか》


小声で持ちかけた。

「…はじめまして…」

球体は動かない。


《こういうときはどうすればいいんだ?》

彼方は、万年筆をゆっくり差し出した


「…直すのに、要りますよね…」

レンズの中が僅かに回転する。


「使ってください」


間をおいて、球体はボレロのような外殻の下から、細いアームを2本拡げた。

彼方が差し出した手にゆっくりと近づき、小刻みに震える万年筆に触れた。

2本のアームでそっと持ち上げる。丁寧でこそばゆいくらいだ。


その瞬間、彼方の胸の奥を掴んでいた何かが離れた。


「汐ノ宮さん!」

解き放たれたように踊り場の記憶が甦った。


貼り付いていた機械への執着がみるみる薄まっていく。

踵を返した。

廊下と教室の境界を跨ぎ、倒れた机や椅子をかき分ける。


後ろ髪は引かれる。ファーストコンタクトだ。想像を絶するテクノロジーだ。だけど、だけど、 意識がない女子を放っておくなんて、俺は本当にどうかしている。

突き出た鉄筋を避けて、瓦礫を踏みつけて先に進む。溜まる水音が遠ざかる。

膜を抜けた瞬間、視覚が反転した。夜の冷気が胸にぶつかった。

いつもの御祓中学校が何事もなかったように立っている。

校庭の踊り場に、学生服を羽織った汐ノ宮が横たわっていた。

《介抱して救急車を呼ぶんだ》

彼方は駆け出した。


その時…

背中に何かが当たった。

急に足元が遠くなった。踊り場が伸びる。汐ノ宮が近いのか遠いのか分からなくなる。膝から力が抜けた。

彼方はコンクリートの上に倒れ込んだ。


※ ※ ※

夢を見ていた。

「今回の地球防衛ミッションは…」

グレーの制服が、壁にかかった半球状地球儀を指し示いている。顔は窺えない。

その声に応じて、各種計器に向かう隊員たちが顔を上げた。

司令室だ。明滅する計器盤、特撮や戦隊モノに出てくるような、裏に回ればベニア板なのだろうといった安っぽいセット。

1班の小吹こぶき千早ちはやが作戦策定担当だ。指揮する制服の後ろで、オーバーな動きで地球儀の表示や作戦計画が映ったテレビを操作する。2班の寛弘寺かんこうじと鈴美台は索敵担当、くるくる回るレーダーが映ったテレビを睨み、操作卓のスイッチを忙しなく押したりひねったり。計器に囲まれたどの席も、なぜか学校の机と椅子だ。

壁には、格納庫内で発進準備中の飛行メカが大きく映写されていた。

銀色に青や赤の派手なカラーリング、翼端にはどんな機能なのか首を傾げるアンテナが尖る。

そのファイターの、アクリル板のような風防を透して、彼方は、機長席で指差し陣頭指揮をする。

左隣の副操縦席に座る汐ノ宮が、それを見上げて微笑んでいる。白いスーツとヘッドセットが映える。

前部中央の一段下がった機銃座には、ラッカースプレーで塗ったような砲身が延びる。そのトリガーを握る古市が照準を覗いてグーマーク。

機長席と副操縦席の後方では、索敵席の楠風台がテレビのレーダー画面を凝視し、背中合わせで、機関席の佐備がエンジン計器を睨む。操縦室の各席も、学校の机と椅子だ。

「発進っ」彼方の号令で、ファイターは意味もなく回転しながら上昇し始める。進入路に達した機体はアームに左右から保持される。

山中の森が割れて、その機体は姿を表した。

彼方は叫ぶ。「スローインカタパルト、射出ーッ」

機体はサッカーのスローインのように空中に投げ飛ばされる。

地表に激突する寸前、佐備も叫んだ。

「イグニッションッ(点火)!!」

CGのような無駄に派手な炎を噴射して、機体は垂直に上昇する。

宇宙空間に出ると、宇宙モンスターが現れた。

古市が照準を構える。 「ミレニアムキャノン、発射ーッ」と吠え、ラッカースプレー砲身のCG光線が敵を貫いた。


操縦室の後方ドアを抜けると、ロボットが四体格納されている。

アクリル板のタンデムキャノピーを開けて、後方ナビ席の伏見堂は、気弱な横山の操縦に不満たらたらだ。

古市機のナビ席には保健室登校の芹生谷せりゅうたにが座っている。優秀なのだが、古市の粗暴さにビクビクしている。

三台目では、貴志がロボットオタ解説を始めた。ギャルの甘南備かんなびはウンザリだ。

最後は彼方と楠風台。この機が作戦指揮個体だ。

巡行するファイター後部のハッチから、一機ずつ降下し展開する。

各機は奮闘するも、敵メカ軍団に包囲され、窮地に陥った。

そこへ、丘陵の向こうからミレニアムキャノンの超長距離援護射撃が炸裂した。撃ったのは汐ノ宮だ。

ハイタッチする彼方と古市と伏見堂たちを、ファイターの副操縦席から、汐ノ宮が微笑んで見守っている。



※ ※ ※

超文明の会議室では、甲冑魚将軍が水槽越しに低く問うていた。

「現地知的生命との接触は?」

複眼の技師は翅をやや膨らませる。

「発展途上文明は侵入を探知出来ません」「我々の迷彩技術は一点の漏洩も無いと…考えます…」

だが技師は小声で「これが不全に陥っている可能性が…」

その表情を将軍は目ざとく見やる。技師は慌てて続けた。


「プ、プラントは文明の発達段階を模した偽装をします。そのために文明に属する個体から、必要最小限の思考・記憶サンプリングを行う場合があります。知的生物保護条約に基づき、人格への干渉は最小に制限されます」


※ ※ ※

校庭踊り場に横たわる彼方の上に、球状の影が落ちていた。


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