4. 金
時代設定は平成です。
拙い表現も多いと思いますが、新しい回の追加と並行して、以前の回も適時修正しています。エピや会話の増補もあります。
よろしくお願いします。
驚愕と恐怖でなにも考えられない。
どれくらい経ったか。自分の速い呼吸音に気づいた。
球体が角度を僅かに変える。
レンズが動き、内部が回転する。
そのたびに、彼方の心臓は縮む。
ファーストコンタクト…
《人類代表が、俺なのか》
《いや違うだろ!? アメリカ大統領とか、総理大臣とか、科学者とか、NASAの人とか》
いきなり外殻の庇の下から光線が延びた。
「うわっ」
光の点が彼方の胸ポケットを指し照らした。身体をよじったがポケットから離れない。
だが、熱も痛みもない。
やがて光点は動き始めた。シャツを滑り、ズボンを降りて、コンクリート塊を越え、散乱した机や椅子を舐めるように進む。黒板の下を這い上がり、それはチョークボックスの上で静止した。
彼方は球体を振り返った。これに何が…
球体は動かない。
《なにを考えているんだ?》
彼方は球体から目を離さないように後退りして、チョークボックスの前に屈み込んで、受け皿を開けた。
チョークの欠片に紛れて細長いものがある。
息が止まった。
万年筆だ。
「…なんで⁈」
いきなり光点が彼方に向かって動いた。
「うわっ」
思わず手を引く。光点は腕を這い登る。
持ち上げた片手の先で、光が万年筆の黒い光沢に反射する。
球体のレンズが、彼方に何かを訴えかけている、そんな気がした。
彼方は、はっと気づく。
キャップを外す。
ペン先が現れるや、光点は一際強くそれを輝かせた。
24K。
\- - -
軌道上、天空を覆う大銀河はここが地球でないことを物語る。
赤道上空を取り巻く環状構造体が偉容を誇る。
地表へと延びる軌道エレベーターの光の帯が眼下の巨大都市群の壮麗な幾何学模様に繋がる。
銀河超文明の兵器統合司令室は環状構造体の最重要エリアにある。
そこは混乱の只中だった。
フロアでは多種多様な異星人スタッフ達が慌ただしく立ち働く。壁を覆う巨大湾曲ディスプレイが刻々と描き換わる。フロア中央には大きな3D表示で特異な形状の黄色い機械が浮かんでいた。
司令室後方には指揮エリアが天井から懸架されていた。
円形の会議設備に座った将官たちを前に、細長い頭に小さな複眼の技師が説明を始めた。
「銀河外縁部より侵攻中の機械超文明との紛争で、我々はすでに複数星系を失っています。発展途上文明の巻き添えによる絶滅例も、報告書にある通りです」
映像の機体が回転する。
「この現況を覆すために開発されたのが、コードネーム『プラント』」
「高度迷彩下で未開文明圏へ侵入し、敵に探知されることなく拠点を建造する自律戦略兵器です」
「把握しうる全ての対抗兵器を凌駕するテクノロジーを内包しています。もし敵方勢力の手に落ちれば、取り返しがつかない事態が想定されます」
ざわめきが広がる。
「詳しく」多重声帯が低く協和する。
「ステージ3のワープ試験中、青色超巨星R136a1の重力異常で進路が歪み、出現予想宙域に痕跡が認められません」
「ロスト直前にエラーが連発、その後通信が途絶しました」
「異常を織り込んでの出現シミュレーションはできないのか?」
甲冑魚将官の声色は翻訳機を通しても気持ちをえぐる。
「ワ、ワープ直前座標、青色巨星の重力分布、機体の慣性偏差…おおよその収束点は…」
「どこだ!?」
複眼の技師は泡を噴いた。
逡巡したのは、その恒星系の惑星名が連合の記録には無く、現地の未開文明による自称でしか存在しなかったからだ。
「暫定地は…銀河系外縁、オリオン腕、現地文明の名称で…」
その時、別室から通信が割り込んだ。
「ロスト機の故障箇所を特定。R136a1の重力場の影響でワープ直前に基幹接続部が焼損しています。神経位相リレーの修理には、希少金属が必要です」
「希少金属? 暫定地での確保は可能か」
「可能ではありますが」
技師が一瞬、言い淀む。
「該当惑星では極めて微量にしか存在しません」
「金属名を」
指揮エリアに沈黙が落ちた。
技師は、惑星データの一枚を拡大した。
未開文明の文化資料。装飾品、通貨、資産、工業用途にはあまりに使い道の限られた金属。
「金です」




