3. 邂逅
時代設定は平成です。
拙い表現も多いと思いますが、新しい回の追加と並行して、以前の回も適時修正しています。エピや会話の増補もあります。
よろしくお願いします。
機械の前部は、中庭側の壁を突き破って、えぐれた床に半分埋まっている。
放電は弱まっている。
円筒形にはそれぞれ外側に向いたスリットがあり、そこから空間そのものを歪ませるような揺らぎが出ていた。
それが幻影の元なのか…
幻影?
彼方のオタク知識が、もっとふさわしい、だが突拍子もない名称を持ち出してきた。
「…光学迷彩…」
その類の研究を紹介した番組を見たことがある。だが対象物にプロジェクターで背景を投影するといった未熟なものだった。
それに比べて、眼の前に広がっているこれは何だ!?
現実と区別がつかない方法で、破壊される前の校舎、そして校庭、その向こうの田畑までを再現している。音や煙、匂いまでも遮断している。
彼方は黄色い側面を見渡し、触れる寸前まで手をかざした。
熱は感じない。宇宙から突入したのなら、まだ相当の摩擦熱が残っている筈だ。
ロケットなら、焼けた排気の匂いもするはずだ。
だがこの機械には高温の残滓も燃焼の痕跡もない。
表面を覆っている粉塵を手で払ってみる。
現れた表面は、まるで卸したてだった。擦り傷一つない。
壮絶な激突に、この機械は何一つダメージを受けていない。
「…シールド…か?」
…頼むよ…、ここは御祓中学校なのだが…今は期末試験前なのだが…
SF映画じゃなくて、石川県七尾市なんだから…
廊下が明滅している。瓦礫を跨いでその方向を覗く。放電は機体の向こうだ。前端の辺りは乗り越えられそうだ。
反対側に回ると、パネルが浮いている。外殻の裏が仄かに発光して内部構造を浮かび上がらせていた。
それは彼方が今まで見たどんな電子機器にも似ていない。多層の集積回路が基盤に溶け込み、神経束のような配線は3次元構造で別の回路に繋がる。
その配線に、分断したような箇所があった。周りが焦げている。
この機械は、壮絶な激突でも壊れるどころか擦り傷1つ付かない。
なら、なぜパネルは浮いているのか、中が焦げているのか。
「これは…」
「…故障…なのか…??」
分断された断面は、黄金色だった。
彼方は、前端をまたいだときに、上部に丸く赤いものがあるのに気付かなかった。
暗がりの中で、そのレンズがゆっくりと動いた。
かがんだ彼方の背中へ向いていく。内部の構造が不気味に回転する。
やがて、レンズの周囲40センチ四方ほどの外殻パネルに、幾何学的な亀裂が走り、押し上げられるように持ち上がった。隙間から内側のターコイズメタリックのメカニズムが覗く。隙間はじわじわと大きくなり、そして軽く剥がれるように浮遊した。
露出した部分は直径50センチほどの凹凸のある球形で、レンズに付帯した外殻は、女性が羽織るボレロのようだ。
彼方が立ち上がった瞬間、それと目が合った。
2メートルほど隔てて、暗がりに球体が浮かんでいる。
レンズ内が仄かに明るい。見下ろされている。
彼方は、動けなくなった。




