そして崇める。
「風雷が水氷を火炎にした…???」
「ですです!だからネフェルちゃんの所為じゃなくて、元はと言えば私の所為なんです!!!」
怪訝そうに見つめてくる男性の先生。
既に火災は対応出来たし、一酸化炭素中毒になっている人もいない。この辺りに帯電してもないので大丈夫だろう。
そして、風雷が水氷を火炎にした…っていうのは、マジで論理抜きにして見た目だけでそう言った。だけど、電気に帯電した水が火災を発生させた、という意味では何も間違っていない。
ネフェルちゃんの疑惑を解く為には本当のことを言うしか無いだろう。
「だが、長年見てきてこんなこと今まで殆ど……」
「それは…その……」
私のイメージした雷こと電気が、偶然たまたま前世と同じ性質を持ってしまったからってことだろうか。
「先生!殆どってことは他にも見たことあるんですか?」
生徒のように手を挙げて口を開く女性の先生。「ああ、」と呟き、2、3年程前にも同じような事があったらしいと教えてもらう。
「まあとにかく、全員怪我はないみたいだな。魔力測定を再開しようか」
「ですが先生!…的がぶっ壊れております!!!」
的を指差しながら口を開く女性。
「あー、そうだっけ」
そして、男性があきれたようにそちらを見てしまうので、私は何とも言えずに俯いてしまう。
ネフェルちゃんと一緒に手を繋ぎながら項垂れていると、不意に後ろから声がかかる。
「…面白いな、やっぱり」
そちらを振り向けば、そこにいたのは予想通りの人。
先生達が「お、おうじ…!?」と驚いたのを尻目に、イグニス様は気にせずここまで歩いてくる。
「イグじゃん!」
「やあ、モーセも久しぶりだね、元気だった?」
元気よく「おう!」と言い放つモーセ。
…そして、私はその後ろに居た少年から目を離せないでいる。
「セラフィーナ?」「あ、いや…か、かわ…っっ!?!!」「「「「??」」」」
まさか、ここで会えるとは思ってなかった。
目を逸らしたくなってしまうけれど、なんとか堪え、そこに立つ、可愛らしい“少年”を見つめる。
だけど、考えてもみれば彼と私、そして殿下の3人は同い年なのだ。設定的にも間違えない、少し幼い気もするが、元々童顔という設定もあって、最早殿下よりゲームに近い見た目である。ていっても、ゲーム開始は来年なんだけど…。
違うのは身長と…あと、メガネをかけているか否かって所だろうか。
「ああ、アドラのこと?」
そう、アドラ・ヴィジェア。
苗字からも分かる通り現宰相ジャンルカ・ヴィジェアさんの息子であり、オトチカ第一作目の頭脳派担当、学園入学前の精霊騒動で思い出した、正真正銘のクリスティーナ様オタ…あ、いや、クリスティーナ様を知っている系攻略対象者である。
そして、可愛い。めちゃくちゃ可愛いのだ!
公式ファンブックでは、我々人間のメインキャラの中では1、2を争うレベルで知識が豊富らしいと記述してあった。まあ、エルフなんかには敵わないだろうけど、とにかくとても賢い子なのだ。知識だけでなくその知識で応用する力もあるから。可愛いのに頭良いとか最強過ぎるよね。
ジャンルカ宰相が宰相なので、貴族とは違い閥族と呼ばれており、貴族階級で言ったら伯爵辺りの地位についている。王城の図書室にも出入り出来る数少ない子供の一人で、ゲームでも殿下とは知り合いだった。
……だけど、そこまで仲は良くなかった筈。
むしろ、お兄様と仲が良くて、もう一人の感覚派とは仲が良くなかった。そこはクリスティーナ様関連なんよね、お兄様はクリスティーナ様を知っており、逆にその子やイグニス様はクリスティーナ様をあまり……っていう設定だったから。
今のイグニス様がどうなのかは別問題だが。
…現に、今イグニス様とアドラ…いや、アドラ様はこの体力測定を一緒に回っているのだろうと分かるし、それはつまりそれ程仲が良いということが見て取れる。
「あ、えっと…は、はひ! 私、せ、せら、せ…セラフィーナ・エンシャンツ、ですっっ!!」
「アドラ・ヴィジェアと申します、以後お見知り置きを!セラフィーナ様!」
私達は手を握って握手を重ねる。
周りはからは、“ここで???”という何とも言えないキョトン顔をされてしまうが、これは仕方がないだろう。今せずいつする?
女を辞めたくなるくらいキラキラと輝いている可愛さ。まさに弟系男子。はぅ…。
「俺はモーセ!よろしぐふっ…、ネーちゃんなにするの…っ!?」
「…私はネフェル・タリティと申します。そしてこっちはモーセ・ナイル、…モーセは余計なことばかりするけど良い人なので」
「ネーちゃん…!」
褒めてるは褒めてるけど、貶してるといえば貶してるように見えなくもないその言葉に苦笑いになってしまう私だったが、イグニス様から聞いていたのか、アドラ様は「あはは…」と笑いながらもしっかりと肯定をした。
「それで、何があったのか聞いても良いかな?」
「……私がちょこ〜っと風雷で水氷を火炎にしちゃっただけです!」
というかこの説明、まるっきり同じように言ってる子が第三作目以降に居たよなぁと思ってしまう。物凄く便利。
「ふ、フウライで、スイヒョウをカエンに、?」
「凄いですねセラフィーナ様!」
「…もしかしてアドラ、受け入れてる…!?」
もちろんだよイグ、と自信満々に言い放つアドラ様。
第一作目でこの2人の繋がりは薄かった印象だからこそ、この絡みが新鮮過ぎる。王子&お兄様と感覚派&頭脳派っていう対比と、王子&感覚派とお兄様&頭脳派の同類としての絡みはあったんだけど、王子&頭脳派やお兄様&感覚派との絡みは少なかったんよね。
集合絵でも大体順番が決まってたし。
単に“作品の引き延ばしはしたくなかった”って田中社長が直々に言ってたけど、やっぱ絡んでくれてると目に優しい。しかも、肉眼。目の前。
「なんたって、1000年前のクリスティーナ様はもちろん、当時ご活躍された聖騎士様や更に昔の勇者様なんかも、同じように魔法は組み合わせを意識されていたみたいですから!」
どやぁっとしながら自信満々に語ってくれるアドラ様。うわ!これだ、生アドラ様!ここで崇めておこ。生きててくれてありがとうございます、産まれてくれてありがとうございます、貴方のお陰で救われる生命がここに。
皮肉とかじゃなくマジで知識がありまくりだから、嫉妬どころか尊敬しちゃうレベルなのよ。可愛いし、説明も嫌味には聞こえ無いし、物凄く頼りになるんよね、彼の豆知識…。
「へ〜」「聖騎士??」「なにそれ?」
イグニス様は感心したように声を漏らし、ネフェルちゃんとモーセは不思議そうに首をかしげる。
「勇者様とは違うのですか?」
「はい!聖騎士っていうのは、騎士の中でも特別な人だけが得られる称号のことです。1番最近だと、約1000年前のマスターリベロが選ばれてて、その前だと…」
「それ、強いのか!?」
説明を遮るかのようにキラキラと目を輝かせながら口を開いたモーセ。驚いた様子のアドラ様だったが、「あ、ぁ…うん!」と少し嬉しそうに微笑む。
「ちなみに、マスターリベロが聖騎士に選ばれたのは、クリスティーナ様が亡くなった10年以上も後のことだと言われていて、年齢的にもクリスティーナ様の方が上だったみたいなんです!」
「えっ…そうなの…!?」
私も思わず口を開いてしまう。この説明で思い出したのは、もう一人の攻略対象者の憧れはマスターリベロだったこと。恐らくあの伝説の騎士はマスターリベロだと推測できるから、見た目的には結構年上だったイメージなんだよね。
だけど、もうなくなっている人だからそこら辺は関係ないのかもしれない。まあでも、なんにせよティーアちゃんよりも年下っていうのはびっくり。
「はい。王城の書物に書かれておりました!」
え、王城の書物…! そういえば、お兄様も王城の書物にどうのこうのって言ってた気がする。王城の書物…一体どれだけのお宝が眠っているというのだ。
ちなみに、その時のティーアちゃんは本の題名を聞いた瞬間物凄く青ざめていて、「燃やして」と真顔で言っていた。うん、無理でしょ!!!!
「あっなら、もし良かったら今度王城に遊びに来なよ!」
もし良かったら今度家に遊びに来なよの上位互換が過ぎる王子のその一言に、「ありがとうございます」と言いながら思わず苦笑いしてしまう。
間違ってないけどやっぱ強いな、王族。
それから、アドラ様が「でも…」と口を開く。
「…やはり俺は、クリスティーナ様が1番だと思ってます!」
ニッコリとしながらそう言い放つその姿は、ゲームの姿そっくりだった。可愛さ満点である。
「そのクリスティーナってすげぇ奴なのか?」
「え?」
「姉さんも言ってたけど…」
「凄いに決まってるじゃないですか!!!!!」
そしてアドラ様は、先程のにっこり穏やか笑顔とは打って代わり、モーセのその言葉に食い入って口を開き、そのままクリスティーナ様について語ろうとする。
しかし、イグニス様がそれを抑え、先生達に「そろそろ再会再開ましょう、私達並び直してきます」と言い放ち、一旦ストップすることに。
こういう所は変わってないと分かり少し安心。
この調子だと第二作目のあの2人も仲良さそうだなと思えば、中々微笑ましい。…誰だっけ?メインの2人だったイメージしかないんだけど。
アドラ様と手を繋ぎ、「行くよ!」と言い放つイグニス様。
「あっ、またお会いしましょうね!」
「またね」
2人は繋いでいない方の手をこちらに降ってくれるので、私達も手を振り替えした。
「すみません先生!再開しましょう!」
私がそう言い放てば、放心状態だった先生達もなんとか意識を取り戻してくれる。
「あ、え、あ…」
「…君からだったね?」
まだ混乱状態の女性とは違い、首をブンブンしてからモーセにそう言い放つ男性。
モーセは元気よく「おう!」と呟くと、水晶に手をかざした。
その後、スピーディーに進んでいく魔力検査。
カタコトだった女性もなんとか意識を取り戻し、「では思いっきり放ってみてください!」と言い放つ。
そして、その場に立ったモーセは珍しく震えていた。…緊張、しているのだろうか。
「…大丈夫かしら、モーセ」
ネフェルちゃんのその言葉に、どういうことなんだろう、と思い聞いてみると、ネフェルちゃんは快く口を開いてくれた。
「セラフィーナ様もご存知かと思いますが、モーセ自身魔法を使ったことは殆ど無いのです。ですが、量は普通の方に負けず劣らず。だから…」
だから……
「力加減が…」「〈凍りつく槍よ、辺りに降り注ぎて我が敵を破壊せよ〉ッッッ!!!!!」
あ、終わってる。
せっかく的を変えた筈なのに、その的は氷の槍によって完全に粉々に粉砕されてしまった。
「……魔法って、すげえんだな…!!」
己がやったのになに言うてんねんと言いたくなる。
そんなにもキラキラと目を輝かせるのはあんただけだろうし、ここでそれをやらかすのは規格外が過ぎるだろう。…人のこと言えないけど。
「…先程セラフィーナ様や私がいつもと違う感覚で放出魔力が多かったのは、恐らくアレが原因ですね」
コソッとそう言いながら、いつの間にかモーセがつけていたブレスレットを指さした。
「恐らく、ミリアムさんが研究している魔導具の一種かと」
…なるほど、だからいつもと感覚が違ったのか…。
とだけではとても形容し難いくらい物凄いものを見てしまった気がする。
ネフェルちゃん曰く、あのブレスレットによってモーセは魔法が使えるようになり、その所為で私達の感覚も狂っていたのかもしれないと。……私の所為だった筈だけど、そちらの可能性もあったのか。
「………あ、はい、イジョウデオワリマス」
ごめんなさい先生。
何故こんなに萎縮したようにカタコトかつ動かないのか分かってしまうので、何も言えずに「スミマセンデシタ」とだけ言っておくことに。
そのまま、同じように申し訳なさそうに落ち込んでいるネフェルちゃんと、何も分かってなさそうなモーセを引き連れ、教室へと戻っていったのだった。
自分のイメージのコントロールが出来ていないことを自覚すると共に、お兄様が魔力を日々制御してることに対する尊敬や、今更ながらティーアちゃんの魔法の使い方に畏怖の念を抱かざるを得ない。
アドラ様があんなに語りたくなるのも分かってしまう。今度声掛けてクリスティーナ様について語りたいなと思うくらいには。
マジで私の周りにいる人って凄い人ばっかりだったんだ。本当に今更だけど、…やっぱ凄いんだなと思ってしまう。
後日、お兄様やリスクには苦笑され、ティーアちゃんに至っては「ふふふ」と笑われてしまうということを、この時の私はまだ知らない。




