Ⅰ23.高揚令嬢は漏電させ、
「…どうしてモーセもいるのよ」
ネフェルちゃんがじぃっと見つめた先には、モーセがいる。
モーセは「えっダメ!?」と言うので、ネフェルちゃんは「ダメじゃないけど…」とツンデレクールモード突入。
2人ともまだ前世で言ったら小学生くらいだし仕方ないとは思うけど、何故に私を挟んでイチャイチャするのか。
あ、モーセの一方的な片想いなんだっけ?いや、でもネフェルちゃんも満更でもなさそうだし…これは片想いならぬ両片想いなのでは? 今度ネフェルちゃんに聞いてみようかな。
「だけど、モーセは色々あるんじゃないの?走るのとか、投げるのとか」
ネフェルちゃんは私の後ろからモーセに向かってそう言い放ち、睨みつけるように上を見上げる。
だが、モーセは慄く所か、ネフェルちゃんの興味が移ってくれて嬉しいのかふふんっと上機嫌になりながら口を開いた。
「ああ!でもセラフィーナ・エンシャンツに勝つのが目標だからな! お前もやるんだろ!?今日こそ勝負だ!」
その勝つ目的がネフェルちゃんなんだよなぁぁぁあああ、と思えば複雑さが極まりない。どちらにせよ、YESの返事はしないんだけど。
「無理」
私のその言葉に「逃げるのか!」と言い放つモーセだったが…
「モーセ!良い加減セラフィーナ様を困らせないの!!!」
「うっっ…」
ネフェルちゃんのその言葉に決まりが悪そうに目をそらした。
好きな人に格好良い所を見せたいんだろうなぁと思えば、今までの行動も全部微笑ましく見えてくるんよね。
それから、どうせ走ってる所とかネフェルちゃんに見せたいだろうなぁと思い、一緒に回ることになった。
身長や視力を測定して、そのまま男女別検査に移る。
男子は主に、ソフトボール投げや腹筋、反復横跳び、それに50メートル走のようなことや持久走等など…握力も前世と同じような機械を使ってやっていた。あとジャンプ力とパンチ力も測ってた。
反対に私達は、待っている間に淑女教育として行われる最低限のマナー講座を受けてたんだよね。ごめんモーセ、ネフェルちゃんはまだ渡せない。
「くっそぉ…」
「そんなに悪かったの?記録」
「へっ?!あ、いや、そえいうわけじゃ…」
私を挟めば喋れるくせに、2人になると縮こまっているモーセに呆れて言葉も出ない。何しとんじゃい意気地無し。
「それよりセラフィーナ様、…うるさいモーセは置いておいて、魔力測定に参りませんか?」
ネフェルちゃんは私の所まで歩いてきて、そのままナチュラルに手を掴んでくれる。うるさいと言われたモーセはまた反応していたが、これは自業自得と言わざる得ない。もっと気合と根性で押し通せ、リスクとティーアちゃんからあの2人は無事お付き合いすることになりましたって聞かされたぞ!?!!
「うん!行こっか! ほらモーセも、がんばれ」
「…、……おう、お前にはぜってぇ負けねぇ!」
ネフェルちゃんが「セラフィーナ様をお前だなんてなんてことを!」と言い放つが、モーセのその顔は結構本気だった。
これはなんというか…単純な勝負じゃなくて、最早別の意味でも勝負になっているような気がしてならなかった。
ーーー
魔力測定。
それは、単純な魔力を測定する為に行われる測定のことだ。5歳の頃の測定は器と量を明らかにするのに対し、こちらは量のみにフォーカスした極めてシンプルな物。器は測り終わってるからね。たまぁ〜に火が炎だった、とかはあるみたいだけど…世間の人はそこまで気にしない。私は気になっちゃうけども。
ちなみに、昔ジャンルカ宰相に嵌められていた…いや、宰相の策略に自ら勝手に嵌ってたティーアちゃん……彼女が使ったのも、恐らく魔力測定に使われる魔力量に特化した水晶だったのだろう。私が5歳の時使ったものとは違ったし、なにより国王陛下含め皆めちゃくちゃ驚いてたし。……壊していたということは、それを超える魔力量があったってことかな?
両方を測定出来る水晶は高価で希少らしく、主に小さい頃に測定することもあり測定出来る魔力量は少ない。代わりに、今回使うらしい水晶はある程度成長していることもあり、お兄様くらいの魔力量ならば耐えられる代物だそうで。
お兄様の名前が出たのは単純にこの学園で魔力量が一番多いのがお兄様だからか、それとも知名度があるからか…。
どちらも含めて名指しがあったのかも。そう思いながら、担当の女性の先生の話を聞いている私達。
水晶に手をかざして魔力量を測った後、得意な魔法で向こうにある的に向かって思いっきり魔法を放つみたいだった。
「では、順番にかざしてくださいね〜」
もし仮説が正しいとするのならば、魔力量についてティーアちゃん>お兄様ってなる気がするのだが、ティーアちゃん本人はそれは逆だと否定していたんだよね。
ゲームの設定的に言えばクリスティーナ様は普通より少し多い、お兄様は結構多い、って感じで曖昧な部分が多かったので、実際の所はよく分からない。
オールスターズ時空での【人気投票上位っ子達と冒険しよう♪】的な番外編漫画ではクリスティーナ様が出る前に味方サイドが総力戦で敵をボコボコにしてたし、最早クリスティーナ様が呆れてか驚いてか言葉も出さずに見守っていたくらいだった。
その時のお兄様によるクリスティーナ様お姫様扱いが好きすぎて一人で悶絶しそうになったのはいい思い出だ。
唯一の癒しと言っても過言ではなかった。中学時代だっけか。いや、あれは最新作くらいだったし高校時代かも。
「では次は…セラフィーナ様!」
「はい…!」
私の番になるけど、ゲーム脳は止まらない。
そこでお茶目なクリスティーナ様が見れて更に株が急上昇かつお兄様の格好良さでもうクリスティーナ様とお兄様を攻略したいって人が大量発生してたんよ。私もその一人なんだけど。それでもうこの漫画が人気出すぎちゃって、確かそろそろアニメ化されるって感じだった記憶がある。いやうん、そうだよ!そう!そうなの、もうすぐアニメ化だったの!アニメ化されたらマジでオールスターズだから、ファンサ精神半端ないオトチカ製作陣は絶対小ネタ挟みまくってくれるっていう謎の安心感があった。もしかしたらリスクとジェット様の深堀り入ってくれるかもなぁとか、騎士ズの憧れ誰騒動とか、主人公ズの中で誰が1番ぶっ壊れチートかとか、マジで冗談抜きに総当たり戦したら誰が最強なのかとか絶対気になるじゃん!?それを知れるチャンスだったんだぞ!?…内心、受験終わったらアニメだヒャッホイって感じだったのに!!!それでもう一回思い返す為に、アニメの予習の為に復習しようと思ってオトチカ1からやろうと思ってたのに…!
「…。……あ、そっか。エンシャンツ家の…」
一瞬固まった先生。
きょとんとしていたが、すぐに納得したように一人で頷いている。そんなに変だったのか…?と思いちらっと見てみると、88と書かれていた。わ、ゾロ目! この世界、アラビア数字は前世と同じなんよね。言語は違うのに…面白いよね。
「ごめんなさいセラフィーナ様!それでは、向こう側に少し力を込めて魔法を放ってみてください!的は壊さないようにお願いいたしますね!」
あれ、さっきは思いっきりって言ってなかったっけ。しかも、的は壊さないようにって…。
なんだか嫌な予感がするのは気の所為だろうか…と思いつつも、ここで引くわけにも行かないので、そのまま的に向かって手を伸ばす。結構遠目に設定してあるし、そんなに力加減は考えなくて良さそうかな。てか、そもそも届くかどうかすら怪しい。
ちなみに、さっきまでの子供達は物凄く厨二級の魔法の呪文みたいな物を唱えており、可愛らしさがあった。
あの詠唱は誰もが一度は聞いたことがある、クリスティーナ伝説と同じくらい有名な物らしい。本屋さんとかでも『クリスティーナ伝説』と同じ本棚に置かれるくらいだそう。
『誰でも分かる!◯魔法の使い方』シリーズ。
私には何言ってるのかさっぱり分からなかったんだけど、この前の一件で色々聞いてから図書室で本を借りるようになり、なんとか読めるようになった文字が増えてきた…みたいなレベルだからさ。しかも今やろうとすると、詠唱は結構長い為に、知らない言語の文章をふりがななしで暗記して読んでください、って言われてるようなものなんだよね。物理的に脳のキャパにより詠唱はできない。
しかも、ここで精神年齢二十代の私がやったらどうなる?
…うん、とてもじゃないが耐えられない、主に私が。皆は気にしないでいてくれるかもしれないが、私は私自身に耐えられない。見た目は子供、頭脳は…以下略。簡単な魔法だったら、怪しまれない為にはイメージしてる間に適当に詠唱をすれば良いのだけれども、…想像すればなんとまぁ酷い有様だ。
それに、セラフィーナ様がやるのはなんか解釈不一致。
だから詠唱は一切しないようにしたい所なのだが、生憎この世界では詠唱を言うのが人間の主流らしい。
ゲームのセラフィーナさんは言ってなかったような気がするけど、そういう所がチート級なんよなぁ、流石第一作目主人公。所々バグ並みのセラフィーナ様。だから天然馬鹿力担当って言われるんだよ…。真顔で儚げに脳筋だからね。
あと、普通に私自身有名な魔法の詠唱は覚えていない!
この前リスクやネフェルちゃんが使ってたモノを思い出すので精一杯。知らない言葉を口にするなんてことは無理すぎる。無理な物は無理。無理ゲーすぎる。
「セラフィーナ様、いつも見たいにやればきっと大丈夫ですよ」
ネフェルちゃんが後ろからそう言ってくれる。…そうだよね、そう。
モーセから「あ、忘れてた」という声が聞こえてくるということは、モーセは今集中してないのだろうと分かる。ここで変なもん見せたらまた食いつかれるだろうけど今なら大丈夫だろうし、…うん、やっぱここはシンプルに、モーセが見てないうちに早めに済ませようかな。
「風雷!!!」
その瞬間、物凄い勢いで的に雷が迸る。
「「「「……」」」」
「流石です、セラフィーナ様」
違う!違うのネフェルちゃん!それは嬉しいけどそうじゃない!!!ニコニコと楽しそうに微笑んでくれるネフェルちゃんを横目にさらに後ろを振り向いてみれば、後ろに並んでいた生徒だけに飽きたらず、先生やモーセなんかも動かずに固まっているし、私自身も固まって動けなくなってしまう。
「…よし、セラフィーナ・エンシャンツ!俺と…」
「しません」
モーセに言われるよりも先にそう言っておく。
最初はワンチャン光だけ説もあったけど、直後の爆音によって砕かれた。音の速さと光の速さはどうなってるんだろう、そういえば魔粒子がどうたらって言ってたっけ、等と思考を逸らしながら、先生からの乾いたような笑みを見て顔を背けてしまう。
「……5年前のレオンハルト様も同じようになさっておりました、お気になさらずセラフィーナ様…!」
「お、お気遣いどうも…」
後ろに立っていた男性の先生はそう言ってくれるが、まだ若そうな女性の先生は口をパクパクとさせている。消え入りそうな声で、「本当だったんですね…」と言い放った。
それから少し後ろに下がってネフェルちゃんとモーセを待つことに。
ネフェルちゃんとモーセなら大丈夫でしょう、と思いながら安心して見ることが出来…、あれ、待って。ネフェルちゃんの得意魔法って確か、水氷じゃなかった?水って確か水だよね?この世界には電子陽子中性子の概念は曖昧だけど、全ての物質に魔粒子があると読んだことがある。そして、それは自然界にあるものだけでなく、加工品や魔法で作り出した物体にも含まれて……
「〈煌めく波動を放ち、幻想の水紋へと導け〉!!」
あ、終わった。
ネフェルちゃんが水を放つと、静電気程度のピリピリが感じられた気がした。幸いネフェルちゃんの1番近くに居たのは私とモーセだったが、なにより近いのはネフェルちゃんだ。
「きゃっ…!?」「ネーちゃん!!!」
いつもとは全く違う感覚に驚いたのか、ネフェルちゃんは後ろに倒れ込みそうになる。なんとか、傍に居たモーセが彼女を支えてくれた。
そうだね、純水なら危険はないけど、……魔法で編み出した水には魔粒子が含まれている。
そして、電気✕水は物凄く危険だ。これは常識中の常識すぎる。
純水以外の水は電気を通す為、電気が水を伝って外部へ漏れ出し、漏電するかもしれない。そして、その漏電は…
「か、火炎…!?」
火災を引き起こす。
ネフェルちゃんはサーッと青ざめてしまうが、これは百発百中私の所為すぎる。
「ご、ごめんねネフェルちゃんんん…」
「い、え…セラフィーナ様の所為では…!」
「いや、私が風雷使って電気起こした所為だよ!ほんっとごめん!!!」
周りはザワザワと慌て始めるが、傍に居た先生達はとりあえず消化をする為私達含め生徒達の前に立ち塞がった。
「先生、これは?」
女性の先生が男性の先生にそういう放てば、男性の先生は「とりあえず水氷の魔法で…」と言いながら手に魔力を溜める。
しかし…そんなことしたら恐らく敵に塩を送るような物だろう。
実際漏電火災の場合、電気火災に対応した消火器を使用して初期消火をしないといけないし、一歩間違えれば更なる被害につながる可能性も考えられる。
とりあえず、再び風雷の力で今度は二酸化炭素で炎を閉じ込めるイメージをする。さっきは的に当てる気満々で攻撃力の高い雷をイメージしてしまった所が敗因すぎる。しかもあんな遠くまで届くとは思わなかった。
「あれ?先生魔法使いました?」「…いや、全く…」「炎が…」「消えてる?」
先生達やネフェルちゃん達の声が聞こえてくる。ふぃー、良かったぁ。
呆然と立ち尽くす皆を見ながら、私はそっと胸を撫で下ろしたのだった。




