そして託す。
「ならば、この私から一撃でも奪ってみせなさい、そうすれば、国は貴方のモノ。…さあ、始めましょう!」
私は、ブレイズ陛下と目を合わせ…目を逸らすことなくそう言い放った。
いや、国は貴方のモノって言い方良くないけど、実際そのとおりだし…と思いながら、私は一歩踏み出す。
うーちゃんは私と陛下の周りに、半円型の結界を張った。
「結界に触るか、戦闘不能になったら負け。……殺されても文句は言わないでね!」
「そっちこそ、な…!」
……大口叩いたのは良いのだけれど、別にそんな勝機があるわけではない。武器だって持ってないし、持ってるのは…ポケットに入れておいたぐちゃぐちゃの紙だけだし。
あー、提出の紙だった!……仕方ないわね、使っちゃお。
「魔術式陣・風・晴嵐っッ!!」
「っッ!?」
とりあえず魔法と紙で戦ってみる。
紙ってたまに指切れてたりするから、割と攻撃力は高いのよね。
魔術の陣と合わせて使った暁にはもう…普通の武器よ!
「ねぇ、どうしたの?左がガラ…」
「〈烈火抜刀〉!!」
……うんうん、いいね。この太刀筋…別に弱くはない、これなら安心だ。頭が硬いのは一度目を瞑るとしましょうか!
「魔術式陣・風・烈風の舞!」
「魔術…っッ」
「そんな不安定な魔術の陣は貴方の負担になるだけ!」
「っっ…」
だけど、やっぱりちょこっと子供っぽいところがあるわよね、それを本人は自覚してて…って、そこからは完全に私の妄想なんだけど…。
っでも、……そんな“敵”の言葉だけで怯んでいるようじゃ、……勝てるものも勝てないんじゃないの?
「っっ…ブレイズ!」「陛下!!」「ブレイズ様!」
結界の向こう側から声が聞こえてきた。
例え子供っぽい部分があったとしても、…それでも、それを支えてくれる人が、貴方を信じてくれる人が、……そんな人が…貴方にはいるのよね。だから、……きっと…
「ティーアちゃん…っ」「ティーア…」「ティー…」
この時代のことはこの時代に任せられる。……まあ、私もこの時代の人なのだけれどね。
……皆に認められるような、柔軟性。
自分を曲げない強い精神と、それでも信じようとする純粋な心。…きっと、それが集まって今の貴方がいる。それなら…
「魔術式陣・雷・雷牙の鉄槌っっッ!!!!!」
これからも、……この国をよろしくね。
だけど、仕方がない。……少しなら、裏で助けてあげるわ。
「〈赫焉たる火よ、我らを導く灯火となれ〉!!!!」
…私は、その光を見て…静かに目を閉ざしたのだった。
ーーー
「舞うは水精 天恵の慈雨」
結界の中で大きな爆発音。その中で立っていたのは、ブレイズ陛下だった。ティーアちゃんは結界の側で横たわっており、……見事触り、陛下の勝ちだった。
ただ、これは勝ったと言うより結界に触っての負けのようなものであり、陛下自身は納得がいっていない様子。
ちなみに先程の試合の様子は、何も聞こえなかった。呪文も話し声も何も。ただ、二人が頑張ってるなぁってことが見えただけである。
「全く…無理しちゃって!ほら、国王も来てください!」
結界を張っていたうーちゃんはそのままティーアちゃんと陛下に治癒魔法を掛ける。
一瞬の出来事に戸惑いを隠せない皆と同様、私もまた飲み込めていない。
だけど、ティーアちゃんの意図を推測するに…恐らく、ここで「ティーア=クリスティーナは一次的なものであって、これからはそうじゃありませんよ」ってことを伝えたかったんだと思う。
……だとしたら納得は出来る。
ただ、一か八かの運ゲーではあったよね、これでブレイズ陛下がわざと負けたら、ティーアちゃん詰みになっちゃうし…
「…何がしたかったんだろ、ティーアは…」
ザワザワとした空気の中、リスクがティーアちゃんを呆れたような目で見る。
リスクのことだから私の考えている案も浮かんでいるとは思うけれど、それ以上に信じられなかったのだろう。
「……確かにな、…ティーアが勝っても負けても、結局は…」
ティーアちゃんは最初こう言った。
貴方勝ったら、私はティーアちゃんの中から出ていく。そして私が負けたら…この国は貴方のモノだと。
つまり、陛下が勝ったら出ていき、ティーアちゃんが負けたら出ていく。
……最早負けることしか考えていなかったのである、ティーアちゃんは。
余計に意味がわからない。
だけど、それはそれ…これはこれってことにしておこう。ティーアちゃんが素で間違えただけの可能性もあるし……
「………全く…王族って馬鹿ばっかりなんだから」
『…おれにも言ってるように聞こえるのは気の所為?ウンディーネ、』
「………さて、これからどうしましょうか」
脳内に響く…精霊王の声。
うーちゃん先輩はその言葉に反応することなく、陛下に向かって口を開いた。……そして次の瞬間、……どこからともなくナイフが飛んできた。
「っ!?」
倒れるティーアちゃんに向かっていたそのナイフを、うーちゃん先輩は間一髪で弾き飛ばす。
「………誰…?」
「あ…、んの…くぅー…いや、待て…は、え、えぇ…」
陛下はそのナイフを見た途端破顔して、これ以上ないくらい驚き、それを隠そうともしない。
お母様やジャンルカ宰相、そして騎士達も何人か頭を抱えてそのナイフを見た。
「イズさん!!♡」
そして、……どこからか大人の女性が現れる。
その女性はそのまま人目を気にすることなくブレイズ陛下に抱き着いた。……えっと…
「アイリス…おまっ…落ち着け!!頼むから!」
「私は落ち着いていますよ!それよりお怪我はありませんか!?すぐに始末……」
「するな!ティーア嬢はただの少女だから!!!」
アイリス、と呼ばれた少女はそのままキョトンとしつつ、「分かりました…」と一歩下がる。
それを見兼ねて、お母様とジャンルカ宰相が一歩踏み出し、彼女のことを両側から確保した。
「アイリスちゃん、子供達は大丈夫なの?」
「子供達を守れるのは貴女だけなのですよ、王妃」
有無を言わさぬ笑みを向けた二人。
その言葉を聞いて、単純なアイリス様はそのまま扉から出ていった。……扉開く気配しなかったからどこから入ってきたのか気になるし、そもそもあのナイフ手に持ってたし、…王妃って呼ばれてたし!?で大変なんだけど、……これはどうすれば…。
ゲームではイグニス様達のお母様は出ていなかったけれど、……うん、思った通り綺麗な人だったな…
「お母様、あの方は…?」
「……ハルト、貴方にはまだ早いわ。だけど、くれぐれもブレイズのようにならないでね…全員がアイリスちゃんみたいな子だとは限らないから……」
ぐったりと疲れたような様子のお母様。
わけがわからないけれど、「フィーナもよ」と言われ、お兄様と共にしっかりと頷いておく。
護衛もなしに来たのだろうか、アイリス様何者…と思いつつ。
「……アイリス様のこともそうですが、……陛下、殺してはいませんよね?」
「当然だろう、シリル団長。……殺してはない、むしろ…」
歯切れが悪い様子の陛下。
……これはアレか、わざわざ自分が後ろに飛ぶことで威力を軽減させる系のアレ。戦闘慣れしてる熟練が若手を育てる為にやる奴!あと強敵にやられる前にわざとやる系の!……つまり、できる奴のやり方だと思われる!
やっぱティーアちゃんって生きてた時代が違うんだなぁと改めて実感する。
私が尊敬の眼差しで彼女らを見てみる。
すると、ティーアちゃんを診ていたうーちゃん先輩がおもむろに呟いた。
「………ホント、人間って意味分かんないです」
「我々からしたら、……貴女方の方が分かりませんよ」
「うふふ!やだ、変なこと言いますね!」
うーちゃん先輩はころりと笑いながらティーアちゃんの頭を撫でる。
……ゲームでのうーちゃん先輩は、すんごく「お姉様」って感じだったからこそ、ゲームに近づいているような近づいていないような不思議な感覚。
第4か5作目だった気がするな。第4作目には結構推してるミステリアス系イケメンの2代目とも呼べる彼がいて、彼との絡みがあった気がするんだよね。だけど、それが本編だったかその次の作の番外編だったかは覚えていない。
「神様も言ってたのですよ!人間は意味分かんない。だけど…」
その続きを聞き入る皆。しかし、うーちゃん先輩は少し黙り、……その後「秘密〜」と言ってしまう。
聞きたかったな、神様の言葉の続き。
てか、この世界神様居るんだ。私を転生させたのはその人…その神様だったりするのかな?
「それよりそれより!……さっきの続き、言えてないですよね!だから言いますっ」
うーちゃん先輩は気を取り直して陛下に向かって口を開いた。
「例え二度と会えなくたって、私の心には残り続けている」
それでその言葉が呪いと化す事例を知っているので、あまりいい気分にはならないけれど、……純愛だと思って見逃すことにする。純愛は呪いだと誰かが言っていたし、なんなら第一作目のラスボスがそんな感じだったような気がしなくもないけど!!!!
「…だから、ティーナちゃんやリストくんの想いは私達が受け継いでいく。大罪魔導師や魔物のことも、やらなきゃならないことはたっくさんあるのですよ!…邪魔するなら、この国から出ていきます!」
うーちゃん先輩は陛下をピシッと指差しながらそう言い放った。その言葉に、「んんっ…」という声が聞こえてきた。
「ティーアちゃん…!!!!!」
私がそう言えば、向こうの方にいるロータスさんも、「ティーア…!」と小さく呟いたのが聞こえ、他の皆からも呟きが聞こえてきた。
陛下もまた、ティーアちゃんをしっかりと見つめた。
「………えっと…えっ、と…ロータスさん!と…」
ティーアちゃんは混乱している!…フリをしている!
とりあえず目的を果たせた?ティーアちゃんを激励する気持ちで見つめてみれば、陛下に背を向けた時小さく可愛くドヤ顔していたのを発見する。
やだ、超超超超ちょーカワイイ。多分世界で一番素敵だな。
ーーー
「…だから、ティーナちゃんやリストくんの想いは私達が受け継いでいく。大罪魔導師や魔物のことも、やらなきゃならないことはたっくさんあるのですよ!…邪魔するなら、この国から出ていきます!」
ピシッと指で指し示しながらそう言ううーちゃんを薄目で確認する。…元々海の精霊でありこの国にいる意味もないので、そこは言葉の綾なのだろうとは思う。
けれど、私達の想いを受け継ぎ、大罪魔導師との決着を付けてくれるのはありがたいかもしれない。
まだ、魔導書の謎は解けていないのだから、と考えるけれど、流石に1000年も経ったら解けてるのかしら?と疑問に思う。
それからまぁ、良い感じの時に起きてみる。
セラフィーナさんと目が合い小さく微笑んでおいた。皆が心配してくれているのは少し嬉しいわね。
「………えっと…えっ、と…ロータスさん!と…」
セラフィーナさん達のことも全て忘れるという手もあるのだけれど、それはそれで大変そうだからやめておくことにするわ。
「生誕祭に来てくれた…セラフィーナ様と、レオンハルト様とシュティーナ様と…」
だけど、ちょっと良い感じに誤魔化すことにする。
これで正真正銘の平民だ。もう誰にも邪魔はさせない。
「あと、り…」
「んんっ…、ティーア、ちょっと待って、」
耐えかねた様子のロータスさんが口を挟んだ。
あぁ、リスクはあくまでもお忍びで村に来てるわけだから、普通は知らないものね。
なるべく変にならない様、気を引き締めて「なぁに?」と言ってみる。精神年齢は下げて、なるべく笑顔で!!私の中のクリスティーナを抑えて、あくまでもティーアとしての立ち居振る舞いを見せるのよ、ティーア!
「あ、あの…陛下、この度はまことに…その、くり…えと…」
「落ち着け、ロータス。………ティーア嬢、本当に何も覚えていないのか」
陛下が一言述べ、私の目を見ながらそう言ってくる。
「………だぁれ??」
嘘、めちゃくちゃ嘘。だけど、……裏で助けてあげるから。この国は私に勝った貴方のモノ。
だから、私のことも自由に頼って。
だけど、……それは裏で。お願いします、……私は絶対裏切らないから、この力も悪用しないから、だから、私を自由にしてください。
…協力はする。だけど、私は貴方の下に付くつもりは絶対にないから。
なーんて、心の中で考えながら。
伝わるわけないけれど、それでも目を逸らすことなく彼と目を合わせ合う。挑発の思いも込めて、今度はにっこりと微笑んだ。
こんな裏切らない〜とか悪用しない〜とか言ってたら、セラフィーナさんに「特大フラグ来た」って言われてしまいそうだけれど。
ちなみにフラグっていうのは、物語の展開を左右する伏線や予兆のことだそうよ。
失礼しちゃうわ、私はただ自分の意思を固めているだけなのに。
「そうか。分かった、すまないね、ロータス殿、彼女を連れて退出を、」
「は…はい!」
私はロータスさんと共に退出することになった。
セラフィーナさんと視線を交わし合う。そして次にうーちゃんへと目を動かした。
うーちゃん、セラフィーナさんと一緒にいてあげて、くれぐれも変なことはしなくて良いからね。
部屋の外で、ロータスさんが胸をなで下ろした。
「ロータスさん…?」
「……うんん、ティーアちゃんが無事で良かった…」
少し涙目になってぎゅっと抱きしめてくれるロータスさん。
「……私ね、ちょっとだけ記憶があるのよ!クリスティーナ様がね、私のこと強くしてくれたの!だから、ロータスさんクリスティーナ様のこと嫌いになっちゃだめよ…?」
「あぁ、分かってる。……ティーアちゃんのことは、これからも俺達が守るからな」
若干過保護になっている気がしなくもないけれど、これはまぁ序の口だろう。許容範囲だわ、1000年前と比べたら。
「……だから、辛くなったらいつでもレアン達の所に帰ってきて良いんだぞ、」
「うんっありがとぉ!」
昨日はレアンさんやフランさんがとても心配してくれたらしい。アスタさんが口を滑らせたとのこと。全く…
「………」
それにしても、陛下からの提案って何だったのかしら。
そんなことを疑問に思いつつ、私は皆が帰ってくるまで待つか否かを迷う。
迷っているうちにすぐに扉が開き、中からは遠慮がちにセラフィーナさん達が出てきた。
「ティーアちゃん!待っててくれたの!?」
私を見つけ、嬉しそうに駆け寄ってくるセラフィーナさん。後ろからうーちゃんが猛スピードで飛んでくる。
「ティーアちゃぁぁん!!!」
「うーちゃん…セラフィーナ様……落ち着いてください…っ」
私は曖昧に笑みを浮かべながらうーちゃんを受け止めた。
「私ね、大罪魔導師のこと協力することにしました!
…だけど、ティーアちゃんは何もしないでくださいね」
「大罪魔導師…???」
いや、何もしないでねは無理だけど。
ここはとぼけてみる。扉が開いているからまだ陛下には聞こえてるでしょうし、ここは慎重に。
「そ、それより!!そろそろ帰りましょう!明日も学校だから!」
セラフィーナさんがわざと明るくそう振る舞う。
「……そうだな、……俺が送ろう」
「ありがとうございます?レオンハルト様?」
あれ、なんか怒っているような気がするのは気の所為かしら。
一物の不安を抱えながらも、私はレオンハルトさんと共に公爵家の馬車に乗ることになった。
「………怒ってますか、レオンハルトさん」
「………別に?」
その反応絶対怒ってるじゃない!!!と思いながらレオンハルトさんの横顔を見る。
伏し目がちになりながら窓の外を見ているので、私の顔は見えていないのかもしれない。
「…ただ、さっきの戦いでお前がフィーナを不安にさせたのが気に入らなかっただけだ」
「まあ!妹想いですこと」
まるでクリストファーお兄様みたいだわ!
「………」
「……うーちゃん?どうしたの??」
私がそう思いながら背もたれに背中をつけて頬を膨らませていると、うーちゃんが何か言いたげな顔をして私を見てきた。
私が聞き返せば、うーちゃんは曖昧に答える。
「あー…うんん、うるるん思い出して…」
「……うるるん??」
「覚えてないなら良いの!なんなら覚えてるわけないですから!!」
覚えてるわけないってことは、私が死んでから出会った人なのかな、と結論付けながらも、何故か心に残る複雑さ。
それを振り払い、私はわざと明るく声を出した。
「ま、何でもいいわ。……別にこの国を見捨てるって言ってるわけじゃない、……陛下と直接話さなければ何でもいいし」
その時は仲介役お願いね、と言う意味を込めてニッコリと笑ってみれば、レオンハルトさんは呆れたような表情で私を見てくる。
「そんなに嫌いなのか、陛下のこと」
「少なくとも彼が私を嫌っている間はね、……釣り合いを均衡に保ってあげないと」
「どこから出るんだその自信……」
「……自慢のお兄様から?」
「……………クリストファー様だっけ?」
レオンハルトさんの言葉に私は頷く。
全てをひっくるめて…多分お兄様はこの世で一番敵に回してはいけない人だと思う。
…あ、この世にはもう居ないか。じゃああの時敵に回してはいけない人物だったと思う。簡単に言えば人類最強。
「…ティーア?」「ティーアちゃん??」
私がどんな顔をしていたのかは分からないが、目の前に座っているレオンハルトさんと隣に座るうーちゃんが同時に声を掛けてくれる。
…セラフィーナさんやキャンディさんは公爵夫人の馬車で帰り、リスクはアスタさんと一緒に伯爵家の馬車で、ミリアムさんとモーセさん、ネフェルさんは学園の寮までエレミヤさんが送ってくれるそう。
別にエレミヤさんの馬車でも良かったのにね。
どうして誘ってくれたのかしら。……さっきのことを聞きたかったのかも。私に言うつもりがなかったからか、レオンハルトさんも黙っちゃったけれど。
「…ごめんなさい、なんでもないの」
ただ、昔を思い出しただけ。
そう言えば、2人共何かを察してくれたのか、黙り込む。
お兄様がいないで解決出来るのか、っていう不安もある。…この心配が杞憂で終わることを祈るばかりだった。




