Ⅰ15.燦然少女は説得した。
……うーちゃん、ちゃんと水精霊としてやってるじゃない。
悪態をつきつつも、嬉しさが顔に出てしまう。だって嬉しい、…昔まだ小さかった精霊が、こんなにも素敵な水精霊になっているだなんて。
…私達の代のウンディーネ様と比べても見劣りしない程立派だわ。
スピリット様のことは知らなかった私だけど、うーちゃんのことは知っている。
元々うーちゃんは海精霊だった。
海の国…今はあるか分からないのだけれど、そこに赴いた時仲良くなって…初めて会った時は精霊とかそういうの知らなかったのよね。
それで色々あって説得を試みようやく水精霊になって、…それが今も続いているのだろうけれど、……だからこそ、相当努力したことだけは分かる。生き続けてくれたことだけで嬉しい。
もううーちゃんなんて呼べないなぁって思ったから敬意を評してウンディーネ様呼びしたのに、本人からうーちゃん呼びにしてと言われるとは思っていなかった。
しかも話は変わるが、リスクがクンペル持ちだとは…。
昔はクンペル持ちも多かったけれど、最近は全然聞かないし、時代の流れこわ〜と思っていた。何よ、ちゃんといるじゃない。時代遅れの少女なんて言わないでほしいわ。
それにさぁ………
「…さっすがです、ティーナちゃん…」
そう言いますけど!だって責任取らないとじゃない!
…私がやったことは、私が責任を取らないと。
やるって言ったのは私だし、…レオンハルトさんは何も悪くない!本人から“さん”呼び推奨されたから様じゃなくさんでいくことにするけれど、…ほんとに、ほんとのほんとに責任取らないと…。
でも、気軽にセラフィーナさんとは会えなくなりそうなのはちょっと残念ね。
それから、精霊様が二人して当たり前と称した刑を執行するわけだけれど、意外とキツいと思うわよ。
皆はまだ分かっていないみたいで縄をつけようとする。
その前に罪人は逃げようと勢いよく立ち上がった。捕まえようとするロータスさんを潜り抜け、扉を開けようとした所で…
「ネフェル!!!」「お、お父様…!?」
と言って扉が勢いよく開き、そのまま罪人は扉に押し付けられる。
痛そう…と思うと同時に、可哀想…とも思う。
今さっき結構過酷な物を四大精霊が一人水精霊様に背負わされたというのに、人間界の王国騎士団にも何か刑を背負わされるかもしれないだなんて。
…まあ、可哀想とは思うけれど、それ以上の同情はしない。
聞けば、モーセさんを連れて行ったのは彼みたいだし。多分唯一の生き残りとして事情聴取はされるでしょうね、…というか、洞窟内の屍兵達は置いておいても、…外に居た屍兵も居なくなっていたのってどういうことだったのかしら。うーちゃんのお陰で、洞窟の前で凍っていた生きてる人達は溶かされていて、烙印を押されていた筈で、その場に残っていた。
けれど、屍兵はすっかり居なくなっていたのよね。皆がポーションで回復させているうちに色々調べてみたけれど、手がかりどころか痕跡が一つも残っていなかった。
…どういうことなのかしら。
やはり、操っていた人が自ら回収した…?いや、それでもそこまで膨大な魔力は感じなかった。それなら…もしかしたら、…いやでもでも、鈴の音なんて聞こえなかったし…
そんなことを思いながら突っ立つことしかできない。
「えっと…君達は…」
と私達の方を見渡すタリティ男爵家当主様。
そのまま、立ち上がっているロータスさんと気絶している罪人、モーセさんやアロンさん、カタリナさんにキャンディさん、リスクにアスタさんを見て瞬きをし、その後反対側から私と精霊様を見て一瞬固まり、最後に、セラフィーナさんとレオンハルトさんを見て…絶句する。
何も言えない、と言った調子で固まるタリティ男爵様。
ネフェルさんがお父様?と声をかければ、頭をブンブンブンと振り回すも、パチパチと目を開いたり閉じたりの繰り返しは変わらない。
「…レオです。僕の名前はレオです」
レオンハルトさんが真顔でそう言えば、セラフィーナさんも一言、「セラって呼んでください!!!」と付け加えた。貴女達みたいな綺麗なピンク、中々存在しないわよ…と思いながら2人を見る。
私だけでなく全員の総意だと思う。
「えと…はい、?!」
声が裏返っている。無理しないで…と言いたい。
ニコニコと有無を言わさぬ笑みを見せるレオンハルトさんはちょっと怖いし、セラフィーナさんに至っては恐らく何も考えずにそう言っているからこそ何をしでかすのやら…
「…一度事情聴取を執り行う予定です、そして貴方方は…」
「同行しますよ、ただし、まずは一度心を落ち着かせるという意味で解散という形にしてはいかがでしょうか」
後ろの騎士に対しても物怖じせずそう言い切るレオンハルトさん。さっすが公爵子息、権力バンバン使っていくのね、嫌いじゃないわ。
そんな感じで、レオンハルトさんと騎士の偉い人との間で会話が進んでいき、タリティ男爵様とネフェルさん、それにモーセさん達との会話、更に後ろにいた騎士達とロータスさん達との会話も続く。
罪人…モヤシ?はまだ気絶していた。
そんな中、セラフィーナさんがこっちに来る。
「耳を貸して」と言われたので「後でちゃんと返してくれるなら」と言い、そのまま耳を預けると、セラフィーナさんが小声で…「お兄様の責任って??」と言ってくる。
…セラフィーナさんなら言っても良いかしら、だって妹さんだし、転生者だし、セラフィーナさんだし。
そう思い、レオンハルトさんが聞いていないことを確認してからそっと口を開く。
「…知ってると思うけれど、お口とお口でキスをしたら…」
子供が生まれちゃうかもしれないじゃない。
…そう言えば、セラフィーナさんは「・・・」と言った調子で固まる。だってだって!お兄様もお義姉様も言ってたもん、子供が生まれるよ〜って。
だからいっちばん好きな人としかキスしちゃいけないんだ〜って!聞いたの私だけじゃないよ?ちゃんとスーも聞いてた!だから間違えない。
…今回はレオンハルトさんの生命を救う為とは言え申し訳ないことをしてしまった。だから、これ以上関わらないようにしなければならない。責任は私が取るから。
そう思っていると、セラフィーナさんが大真面目な顔をしながら「違いますよ」と口を開いた。何が、?と聞いてみれば、セラフィーナさんは周りをキョロキョロして、そのまま口を開く。
「赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくれるんですよ?」
「コウノトリさん…??」
「はい!そういう鳥さんがいて、お母さんのお腹にお空から運んでくれるんです!」
「それ、貴女の前世ではそうだったかもしれないけれど…ここでは違うんじゃない?お兄様もお義姉様も言ってたのよ?」
「えぇ…だって皆言ってたし…」
私達はお互い顔を見合わせて眉をひそめる。
だって、コウノトリさんが運んでくれるのなら、今回のことは無かったことに出来るんだもの。ここ大事よ?
「あ、カタリナさんに聞けば良いのでは…!!!」
セラフィーナさんが思いついた!と言いながらそう提案してくれる。
…名案すぎないかしら!だって今、カタリナさんのお腹には赤ちゃんがいるんだもの。
流石セラフィーナさん!と思いながら私達は行こうとするけれど、不意にうーちゃんが私のことを抱きしめてくる。行きたいんだけど…と思いながらうーちゃんを見上げる私。そんな中、うーちゃんは私の方ではなく騎士達の方を見ていた。
「…うーちゃん??」
「嫌よ!ぜっっったい嫌! 誰が王都なんて行くもんですか!」
私は抜け出そうとするけれど、うーちゃんの力が強すぎて抜け出すことは全く出来ない。
セラフィーナさんに助けを求めれば、頑張れ✩という顔をしていた。スピリット様の方を見てみれば、同じような顔をしてウインクをしている。…いや、2人とも助けてくれないの!?!?
「…と、言うことなので、俺達が引き受けます」
「ですが、国王陛下から承っております、全ての被害者の方々を保護し、加害者におかれても…!」
バチバチとする王国騎士隊の一番偉そうな人とレオンハルトさん。…この人は…さっき確か、王国騎士団第五番隊隊長って言ってたわね。
「嫌と言っているのにはそれなりの理由がある、…それを尊重してあげることは出来ませんかね…?」
「我々では判断しかねますッっレオンハルト様」
上から、私あの人達嫌い!でもあの子好き〜と割と大きめの声が聞こえてくる。
…後ろにいる騎士達にも聞こえてるだろうから、もちろん言い合っている人達にも聞こえているんだろうなぁと。
「…うーちゃん、王都行ってみない?」
「あら、ティーナちゃんと一緒なら良いわよ!」
痺れを切らした私が一言そう言えば、一瞬で意見を変えてくるうーちゃん。言い合っていた2人は「「・・・」」と固まるばかりだったが、これ以外に選択肢は無いもの。
ちなみに、いつの間にかこの場にいる全員が会話を辞めてこちらを見つめていた。
「それでね、ティー」
「…うーちゃん、ティーアって呼んで?」
「なんで???」
流石にこれ以上昔の名前で呼ばれるわけには行かない。
不思議そうに小首を傾げてそう言ってくるうーちゃんだったが、ニッコリと笑いながら「ティーアだから」と言えば、素直に「うん分かった〜!」と言い切る。
「やっぱ凄いな、ティーアは」
ボソッと呟くレオンハルトさんだったが、別に私は何もしていない筈。
唯一あるとすれば書き換え魔法だが、誰が見てもレオンハルトさんがやってくれた、と見えるように全投げしたから何もしてないのと同じだと思うのだけれど…。
ここに連れてきてくれたのだってスピリット様だと言い張れるし、屍兵を倒したのもスピリット様とレオンハルトさん、レオンハルトさんを助けることが出来たのはセラフィーナさんの知識とリスク&アボイドちゃんの機転の効いた連携のお陰で、転移はレオンハルトさんに丸投げ、ポーションを持ってきてくれたのはカタリナさんだし、うーちゃんを助けたのはセラフィーナさんレオンハルトさんネフェルさんだし、そのうーちゃんが皆を助けてくれた。
うん、私何もしてないわ。
…あれ、私本当に何もしてない…?? 凄い申し訳ない気持ちでいっぱいになる。セラフィーナさんに協力するって言った筈なのに…
「…そろそろ日が暮れます、」
私が一人で落ち込んでいると、キャンディさんがそう口を開いた。
「セラフィーナ様は一度エンシャンツ家に戻りましょう」
それから、「リスクルビダ様も領家からのご通学でしたよね。2日間ということは、アスタグラン様はもちろん、ロータスさんも勤め先やフルール村に心配を掛けていらっしゃるかと。」と早口で説明していく。
若干うーちゃんを見ているような気がしたけれど、水精霊だから緊張しているのかしら。
「まだ怪我をしている方もいます、被害者の方全員を王都に連れて行くのは難しいかと。一度国王陛下に通達お願い致します、公爵子息レオンハルト様のお言葉を無下には成さらず」
騎士団に向かってニッコリと微笑みながらそう言い切るキャンディさん。
要は、王族は例外だが、君達よりはレオンハルトさんの方が地位は上だぞってことだ。
凄い、もう使えるもん全部使ってる感あるわ。
レオンハルトさんも「お願いします」と握手をする。
…なんか、公爵家怖い。…知ってたけど!!!
それから、顔が引きつりそうになりながらも、…各々帰るべき場所へと連れて行ってもらったのだった。
…もう瞬間移動が使えない私やスピリット様の代わりに、まだ魔力は割と残っていて高度な精舞の極を扱うことができるうーちゃんにお願いをして。
ーーーーー
「おい、憂鬱」
「何?」
冷たい瞳を青年に向けた少年。
青年は特に気にする素振りも見せず、少年を真っ直ぐ向く。月の光に照らされ、2人の影は伸びる。
「お前に頼みたいことがある、」
「…大罪魔導師は群れないんじゃなかったっけ?」
軽蔑したような笑いで青年を見上げる少年。
青年はそのような視線には一切動じず見下ろした。その距離は数cm。
「だから嫌」
「……そうか、」
少年のニッコリと微笑む様子を見た青年は、その答えを聞いた上でも特に顔色を変えない。
後ろを向き、少年に背を向ける。
それを見た少年は、「アッハハ!」と冷たい笑みをこぼしながら口を開く。
「良いの〜?…背向けたら、俺攻撃しちゃうかも♪」
「…お前のような餓鬼に、俺は負けない」
そして、青年はチラリと少年を睨みながらそう言い放つ。
何の感情もない外見。…心の奥で何を思っているのか、少年には分からない。分かる筈もない。…分かる必要もない。
青年は、少しだけ口角を上げる。
…先程まで上機嫌だった少年も一種の戦慄を覚えるくらいには、その顔は時代を超える程大きく不気味に見えた。
「…………餓鬼って…」
「初代暴食の魔導師を舐めるな、…協力したくなったらいつでも言ってくれ、……俺は目的の為に手段は選ばない。必ず奴への復讐を果たす、…その時までは…」
復讐に煮え滾る、鋭い眼光で城の方に目をやる。
何年も何年も、一人で待ち続けた初代暴食の魔導師。そんな彼は、よくやく復讐するべき少女を見つけた。
「その時までは俺は死なない。…奴に、一生モノの深い深い傷をつけるまでは、」
…そう言い放ち、去っていく青年。
少年は青年が居なくなった原っぱで一声口に出す。
「……、…まだ生きてたんだ、初代暴食の魔導師…」
大罪魔導師は代替わりする。
その時期は一日後かもしれないし、一年後かもしれないし、…将又何百年後かもしれない。目的が果たされれば、魔導書が勝手に離れていくからだ。
少年自身全てを知っているわけではない。しかし、嘗ての知り合いはそう考察していた。…それが本当であるとするならば、…彼は何年も代替わりをしていないということになる。
何年前から大罪魔導師が存在しているのかは知らないけれど、確かに餓鬼と言われても仕方ないな…とは思える。
「…何年前のおじいちゃんだよ…」
呆れたように空を見上げる少年。
…自覚しているのか、していないのか。
「…てか、憂鬱って呼び方…やめてって言えば良かった、」
ため息をついて、乾いた笑みを浮かべる。
どちらにせよ、…自分は彼に協力するつもりは一切ない。復讐心に駆られているような奴に、協力してほしくはない。1㍉たりともクリスティーナ様に近づいてほしくないから。
少年は、再び何も言わずに歩き始めたのだった。




