そして密かに萌える。
「…あのね、王子辞めてって言ってるじゃん!おれ、もう王になったんだけど?」
不貞腐れたように立ち、そんな言葉を述べているスピリット様。
ウンディーネ様が後ろを振り向けば、スピリット様は顔をズイッと近づけており、若干ジト目になっている。
「あら、居たのですか〜?」
「…気づいてたくせに」
なんのことですか〜、と笑いながら口を開くウンディーネ様は、なんというか…小悪魔感がある気がする。
「うふふ、…覚悟が決まって何よりです」
その笑みに、スピリット様は子供っぽく目を逸らす。
そしてその様子を笑いながら見ていたウンディーネ様は、そのまま【舞うは水精 天恵の慈雨】と言いながら指パッチンをした。
その瞬間、辺り一帯に優しい雨が降り注いだ。
苦しそうにしていた方々の声が消え掛かる。見てみれば、明らかに安らいでいるような顔つきをしていた。
「っと、あとは…【舞うは水精 烙印押】」
更にもう一回やった時には…何をしていたのかよく分からなかったけれど、やりきった!みたいに満足げな顔をしていた。
ー
「…とにかく、あの場にいた方々は…比較的被害が少なかったうちに運びました。…恐らく父ももうすぐ帰ってくる頃でしょう」
ネフェルちゃんがそう言い、辺りを見回す。
既に夕日が照っており、学園を出てからかなり時間が経っている物と思われた。
私達は、そのネフェルちゃんの男爵家の裏手側にあるモーセの実家にやってきている。なんか…凄い喫茶店的な雰囲気を漂わせている。
こんなものしか出せなくてごめんなさいねと言いながら紅茶を出してくれるカタリナさんに感謝しながらも、妊婦さんらしいので、子供の為にも無理しないで…!と言ってしまう。
ありがとう、と笑ってくれるのは嬉しいけど、本当に無理しないで…
「…まずは状況整理したいのだけれど…」
そう言いながら辺りを見回すティーアちゃん。
ここには、私とお兄様、スピリット様とウンディーネ様、ネフェルちゃんとモーセ、そして彼の兄であるアロンさんと義姉であるカタリナさん、リスクとアスタさん、それにロータスさん、キャンディさん、グリムさん、…と、もう一人。何故かまだいるモヤシ。…ガリガリだからモヤシって呼んじゃってたけど、本当の名前ってなんなんだろ。
「まずは、奪還おめでと〜ございま〜す!」
「……そんな軽々と言わないで…、」
「あら、堅苦しいですね〜…ね?ティーナおねーちゃん?」
「っっ〜〜〜」
呑気に脚を組みながらニッコリと微笑みそう言うウンディーネ様。
一番近くに居るティーアちゃんの髪を弄りながらも、その有無を言わせぬ表情だけは変わらない。ティーアちゃんは何も言えずに俯いている。
「…えっと、水精霊様?」
「気軽にうーちゃんって呼んでくれたら良いですよぉっセラフィーナちゃん♪」
うわ…うーちゃん先輩だ…本物のうーちゃん先輩!第三作目以降のどこかのシリーズで登場してた、水精霊ウィンディーネ様、通称うーちゃん先輩。
その優美で妖艶な様子から、うーちゃんならぬうーちゃん先輩と慕われていた。そんな先輩が何故この国の海無し村に…!?
「…まあ、私も…色々気になるけど、色々あってここに居るのですよねぇ〜」
「なるほど〜!」
それなら仕方が無いかぁ…、……とはならないから!!
その色々が知りたいし!けど、そこ言ったら絶対…私の色々も聞かれちゃうんだろうなぁと思う。
…いや、もう分かってたりするのかな。うーちゃん先輩のことだし。あ、待って…私うーちゃん先輩って呼んじゃってるよ!流石にこれは……
「うーちゃん先輩って良いですねぇ〜!」
「え、あ…」
「これからもそう呼んでくれて良いですよぉっ」
「あ、ありがとうございます!?!!」
流石にこれを許すのはうーちゃん先輩が過ぎる。もう最高。
一生付いていきます姐さん。前世から付いてってました。生まれ変わってもついていきます。
「…おれのことはスピリットって呼んでくれないのに…」
「…呼んでるじゃないですか!スピリット様、って…」
違うの!スピリットのみかもしくはあだ名かで呼んでほしいの!!と駄々をこねる精霊王。
それを呆れた目で見つめる四大精霊が一人。
どうやらスピリット様は、あだ名とかはなんか格好良いじゃん!という理由だけで呼んでもらいたいみたいだ。…まあ、考えとくか…。
そんなことを思っていると、不意に誰かが立ち上がる音が聞こえてくる。振り返れば、アスタさんがこちらを見ていた。
やべぇ…と言いながら焦ったような顔だった。私も不安になってしまう。リスクがどうしたの兄さん!?と慌てたように聞けば、更に顔を真っ青にする。そして…
「またフランに怒られる…!?!!」
どこまでもマイペースな人なんだなぁと。
リスクは固まってしまうし、ロータスさんは立ち上がって首の根っこを掴みアスタさんを強引に座らせた。
小声で、今怒ってる天変地異の出来事が見えてないのか、とお説教するので、アスタさんはだってぇでもぉとしょんぼりモード。
…そうだよね、精霊なんて今の時代天変地異よね。うん、私も前世の記憶無かったら驚くどころか倒れてるよ多分。
「アボイ!!!」
アボイドもアスタさんを攻撃する。
自身の尻尾でポコポコとアスタさんを殴っている様子は実に微笑ましい。
「ギャッっ!?!!」
………微笑ましい…? なんか、うん。
思った以上に攻撃力ありそうかもしれない。
そうだよね、そうなるよね!?だって第三作目ではガッツリメインで出てきてた種族?なんだもん!ゲームではリスクの隣に無かった筈だし、ここは第一作目の世界だから絶対絶対居ないと思ってた!なのにここに居るなんて思わないじゃん。
しかも、第一作目隠しルートにして復讐系ミステリアス男子ことリスクルビダ・カモミート様の隣にっドラゴンへの復讐を第一に考えていたリスクの隣にっミニドラゴンのような子がいるなんて…! 流石……
「「クンペル…」」
これはさすクペとしか言いようがない。
もう復讐通り越して親友相棒過ぎる…。クンペルっていうのは、第三作目にメインで登場した種族のこと。
厳密にはどんな種族なのかは明確ではなく、単なるマスコットとして描かれていた部分は否めなかった。
けれど、クンペルか居ることでその能力は一気に跳ね上がる。クンペルと自分の器が似た物であればその分野が飛び抜けて使いやすくなるし、違ったとしても2つの分野を扱えるっていうお得感満載なのだ。
第三作目の主人公達は全員居たんだよね。
それから第四作目以降もちょくちょく登場していた。流石に全員ってわけじゃなかったけど…。
とにかく、クンペルは素晴らしい子なのである。ルーツは未だよく分かってないけども。
そして、クンペルのことを知っているのは私だけではなさそうだ。
ティーアちゃんもカモミート兄弟の方を向いてそう呟いていたし、スピリット様とうーちゃん先輩もなんだかんだで楽しげに笑っている。
クンペルに精霊にクリスティーナ様…同時に生で拝める日が来ると誰が夢に見ただろう。
今日はなんて良い日なのだろうか。
オトチカ第一作目だとしか思っていなかったのに、第三作目以降の設定も出てくるとか嬉しすぎて萌えるべ…。
「ふーん、時代遅れの王女様に異世界少女、異次元の魔力にクンペル持ち、見慣れない体質に…」
「ちょちょちょ、ストップ!待ちなさいウンディーネちゃま!!」
「えぇ〜あの時みたいにうーちゃんって呼んでくれるまで待たないで〜す…えっとそれから、可愛らしい妊婦さんに混血エルフ、あとは…」
「分かった!分かったから!うーちゃん!これで良い!?」
うん!と言いながら可愛らしく笑い、ティーアちゃんをお膝に持ってくるうーちゃん先輩。
ティーアちゃんは嫌々ながらも、母性の塊…みたいな様子でそれを見上げる。…あれ、ティーアちゃんの方が年上に見える…
「あの…はい、精霊様は一旦置いておきましょう。クンペルも置いといて、問題は…」
私達からしたら問題はそこなんですよ!?!!と言いたい。
ティーアちゃん、平然としないで。いや、正確に言えば私からしたら精霊様もクンペルもゲーム内に出てきてるからそんな驚き!!って程ではないけど、確実に設定が第三作目以降なのよ!しかも迷宮魔法は第二作目…ここ、もしかして全シリーズ繋がってる? 第一作目第二作目の間だけでも大いなる矛盾が生じているというのに?
「………レオンハルトさん、責任は取りますから」
そしてティーアちゃんは何故そうなる???って言葉をお兄様に向かって述べる。
何の責任なのかお兄様も分かっていないようで、そのまま首を傾げていた。ティーアちゃんはそう言い、更に…
「暫く会わない方が良いですよね」
という始末。更に混乱してきた…なんでそうなるの!?
お兄様も、「え…?」みたいな反応だし、皆も意味が分かっていない様子だけど、ティーアちゃんだけは視線を逸らして、“当然ですよね”みたいに済まし顔である。
「…さっすがです、ティーナちゃん…」
というか、うーちゃん先輩今もさっきも完全にティーナちゃん、って呼んでるよね。
うん。これはもしかしなくても間違い…でも何でも無く、本当にティーナちゃんってことなのでは…?
私は知ってるから良いけど、皆だいぶ困惑するのでは…と思いキョロキョロしてみるが、多分皆それどころでは無さそうだった。
「ティーア、何故そうなるんだ?」
「…覚えてないなら構いません。私が個人的に申し訳ないと思っているだけなので、学園を卒業したらフルール村で暮らしますから!」
「???」
本気で訳がわからない、と言った調子のお兄様を尻目に、ティーアちゃんはそう述べる。
ティーアちゃん、今日はなんだか凄くおかしい気もする…、いつものようにキレがないっていうか、なんというか…疲れてるのかな。
そう思い、皆がシーンとしている中、唯一声を上げたのは…
「チッ…どうなっていやがる!!」
モヤシだった。あ…全然忘れてた。
そういえばモヤシも一丁前にテーブルの座席に座ってるんだった。まあ、魔法封じの縄で縛られてる+衛兵の隣にいるで何も出来ない状態なんだけどね。
「テメェら全員バケモンかよ…」
と、そういえば、さっきまで珍しく大人しげに黙っていたモーセが口を開く。
「ネーちゃんがバケモンなわけあるか!撤回しろよ!」
机を台パンした後、バチバチと睨み合う2人。
そーだそーだ!私はともかく他皆は普通でしょ!と心の中で応戦するけれど、そんなもんは伝わらず…グチグチと文句を言っている様子。
「そーいえば、なんで縄で繋がっているんですかぁ〜?」
「魔法を封印してるんです!」
うーちゃん先輩が物珍しそうに聞いてくるが、ティーアちゃんは黙りっぱ。なので私が答えることに。
すると、へ〜と言いながら、パチンッと指パッチンをした。何かな…と思って見てみたら、モヤシの縄が外れていたのである。
「「「え??」」」
物凄くピッタリと合わさった声。皆出していた。
出していないのは…ティーアちゃんとうーちゃん先輩、スピリット様くらい、だろうか。
皆、モヤシを見て固まっているし、モヤシ本人も信じられないと言った調子で固まっている。
そんな中、当の本人はティーアちゃんの髪を弄りながら、こちらは見向きもしていない様子。
「あら?これが普通じゃないんですかぁ〜?」
「知らなーい、けど別に好条件なんじゃない?…ウンディーネは鬼畜だと思うけどね」
「あらやだ。王子の方が外道じゃないですか〜!」
精霊様は2人で首を傾げ、若干バチっている気がした。
すぐにスピリット様もティーアちゃんの隣に来て、そのまま髪の毛を弄りまくる。色んな髪型にされてるなぁとか思いつつ、私は「ふぅ…」と一息ついた。
「…帰ろうかな。フランが心配してるだろうし…」
それから、ボソッと呟いたアスタさん。
…うん、私もお父様とお母様の所に帰ろうかな。
キャンディさんが居るとは言え心配かけていることに代わりはないだらうし。馬なら外だからね〜と笑いながら呑気に言い放つスピリット様。
すると、カランカランと扉が開いた。そこにいたのは…
「ネフェル!!!」「お、お父様…!?」
恐らく、タリティ男爵家の当主様。そしてその後ろには…
「王国騎士団…」
我が国ソレイユ王国が誇る、王国騎士団の人達が数人来ていたのだった。
うん、またまた厄介なことになりそう。




