そして卓越少女は兄を想う。
「『舞うは宵闇 初日の出!」』
精霊の儀を終え、私達が戻るのが礼儀。彼らが最後まで残っているのが正しい儀式。
……でも…
毎回ここですぐに消えちゃう所、貴方らしいわね。
恥ずかしがり屋さんなお兄様の契約精霊にして唯一神精霊王、ガイスト様。
『……気づいて、おられたのですね』
「貴方、わざと声変えたりしてたでしょう?うーちゃんが教えてくれたから確信できたけど、教えてくれないなんて水臭いじゃないの!」
もう何年だったと思ってるのかしら、5年くらい?
教えてくれたって良かった筈なのに、教えてくれなかったなんてあんまりだわ。
『無茶言わないでくれ、俺はこれでもごろーたいなんだ、敬えご令妹』
「なーにが御老体よ、スピリット様から察するに、500年は王の座についてたでしょうに!」
『…う、うるさいな! そうだよ!……アイツが居なくなってから枷が1個減っちまったけどな』
「人間なんだからそれくらい承知の上だった癖に」
『むしろ想定より長く生きてくれたのは感謝してるよ、…お前と違ってな』
……それ、結構心に刺さるのだけれど。
『……ガイスト様、酷いです』
『そーだよ父さん、もっと女の子には優しくしないとモテないぞ〜?』
そして一方的に非難されまくるガイスト様。…それはそれでかわいそうね。でも助太刀はしないわ。
だけど、久しぶりに見たガイスト様の姿は、記憶よりも衰えていた。……1000年とは全然違う姿。…それでも、その眼差しは変わらない。
恥ずかしがり屋さんだけど、その優しさは伝わってくる。その強さは、まだ残っている。
「驚いたわ、枷がなくなって戻っていると思ってた」
『……馬鹿にするな、奴の凄さはお前も知っている筈だろう。……まだここにいるんだよ、俺の中に』
その言葉に、私は笑ってみせる。
……お兄様が亡くなって、契約は強制解除され、……元々の弱々しい精霊王に戻っていると思っていた。だけれど、その強さはまだ残っていた。お兄様と共に過ごすことで芽生えた勇気が、まだ残っていた。
そう、彼の強さは私がよ〜く知っている。
まだ、私達の心の中に…お兄様は生き続けている。今までも、これからも、ずっとずっとず〜っと。
『……でも、流石でしたよ、クリスティーナ様』
「………ありがと。」
クリストファーの次くらいにはな!と言ってくるガイスト様に、思わず笑みがこみ上げる。…そっか、それなら…お兄様を超える為にも頑張らなきゃならないね。
『さあお行き、君には仲間が待っている』
そう言って背中を押してくれるガイスト様。
……後ろを振り向けば、殆どの人が不思議そうな顔をしている。そっか、見えないのだったかしら。
勿体ないわね、こんなに近くに居るのに、それを感じることが出来ないだなんて。
『……人間はすぐに消えてしまう、そして我々には力がある。……関わらない方が幸せだったのかもしれないな』
―「何も知らずにすれ違っていれば、こんな気持ち無かっただろうに。」
……そう、言っていたのを思い出した。
お兄様が、自然と口にしたその言葉は、今の私達の心に酷く重くのしかかってきた。
別れを知っているからこそ、…力を悪用された過去があるからこそ、…その事実が心に響く。
でも…
『それでも一緒に居たいと思うから、だから更に上で待っている幸せを掴めるんでしょ』
……そういうこと、なのよね。
私達は顔を見合わせ、それからぶっきらぼうにそう言い放ったスピリット様の方を見つめる。
『その綺麗事を諦める奴より、最期まで足掻き、叶えた奴の方が…何倍もかっこいい。だから関わる、そうなんでしょ』
『はっはは!分かってるじゃないかスピリット』
ほんと、……よく分かってるじゃない。
それでも一緒に居たいから、例え一時の時間だったとしても、一緒に居ることを選ぶから。だから、その瞬間は…生きている中で、人生の中で最大級の幸せとなる。
『王に相応しくなってきたんじゃないか?』
『そうかな』
愉しそうに微笑むガイスト様と、珍しくまだ素っ気ない態度のスピリット様。レオンハルトさんがいないとこうなるみたいね…。
私は少し呆れたような顔をしてしまうのだが、うーちゃんはふふふ、と笑いながら、私の所にくっついてくる。
『確かに、私がティーアちゃんに会えたのだって、そのお陰だもんねぇ』
「まぁ…そうね。」
そういえば、どうしてうーちゃんはあんな所にいたのかしら。
聞きたくなったけれど、なんとなく聞いてはいけない気がしてずっと黙っている。…うーちゃんが話してくれないということは、触れて欲しくないんだろうな、と。大方恥ずかしいのかなって思ってるのよね。
精霊様って大体恥ずかしがり屋さんだし。
『『『そんなことないよ!!!』』』
「……あるわよ、3人共恥ずかしがり屋さんじゃない」
……まあ、何でも良いけど。
「それじゃ、また来年会いましょう」
『……おう! スピリット、うーちゃん、クリスティーナ様を護れよ、全力で』
『ん、』『もちろんです!』
……あら、私、やっぱりまだ守られる対象なのね。
なんだか複雑だわ。…お兄様にはまだまだ及ばなさそう。
そんなことを思いながら、私は来た道を辿って教会へと戻っていく。……まぁ、うーちゃんも後ろから付いてくるし、スピリット様もスキップしながら来てくれるので、あまりお別れ感は無かった。
それから、今年は戻って来るの遅かったね?とレアンさんやセラフィーナさん含め会った人皆に言われたが、適当に誤魔化しておいた。
「凄かったぁ…! 凄いよティーア!ほんっと凄い!……やっぱ、本物の神子かもね」
「ありがとうございます???」
今年はフランさんも見てくれたらしい、アスタさんとリスクが交代してくれたんだって。アスタさん一人だと心配だけど、リスクが居れば大丈夫でしょう、とのこと。…アスタさん、気にしちゃだめよ。
「……これが、精霊の儀…」
「1000年以上前は王家の近くで行っていたようですが、現在はここで取り仕切らせていただいております」
ぼーっとしているイグに向かってロータスさんが声をかけた。
「へぇ、…あ、そういえば今日は謝りたかったんだよね」
「とんでもないですお」
「それから俺はイグだから、よろしくな?ロータス??」
「アッハイ」
そのニッコリとした微笑みは心からの物なのか、それとも有無を言わせぬ圧なのか…。少なくとも私には後者にしか見えなかった。
「……今年も変わらず中々だった、」
「あら、それはどうも。貴方の物言いも変わらないわね」
「ふっ…どうだか」
レオンハルトさんの言葉にはいつも通り返しておく。そして、何故かとてもニコニコと楽しそうにこちらを見てくるヴァレリアン隊長にチラッと目を向けることに。
「あらあらまあまあ…確かにティーアさん、とても素敵だったわぁ〜」
「あ、ありがとうございます?」
「所で、レオンハルト様とはどんなご関係なの…!?」
「……イグと同じく知り合いって所でしょうか」
「ただの…?!」
「はい、ただの知り合いです」
ヴァレリアン隊長は前と同じく「ほんとに?」と詰め寄ってくるわけだが、……本当のことなのでそれ以上何も言えない。
あと、どうしてセラフィーナさんまで「ほんとに!?」と詰め寄ってくるのよ。
「ほんと、ほんとだから!貴女私達の何を見てきたのよ、レオンハルトさんも何か言って!」
「ただの知り合いではないだろう」
その言葉に、ワイワイとしていた空間がシーンと静まり返る。え、ただの知り合いじゃないの…?と思いながら、少し目を見開いてレオンハルトさんを見上げる。
レオンハルトさんはなんてことなさそうに私を見て…セラフィーナさんの方を見つめた。
「妹の友達だからな」
「「「……………」」」
……何よ、仲間って言ってくれると思ったのに。
やっぱり、血が繋がっている?であろう子孫から蔑ろにされるのは気に食わないわね。仲間とまでは行かなくても…友達とは言ってほしかった。何よ、妹の友達って。セラフィーナさんの友達と認めてくれるのは嬉しいけれど、私が貴方自身の友達と思われていないということじゃない!!
「むむむ…」
「な、なんだ…何もおかしくないだろう!」
「ハルト、もっと考えなよ……」
「お兄様ぁ、ティーアちゃんんん…」
イグとセラフィーナさんがレオンハルトさんに何かを言い放つ。私もまたレオンハルトさんに目を向けながら口を開いた。
「そうよね、どうせ私はセラフィーナさんの友達よ!」
「何怒ってるんだ…?」
「怒ってないわよ別に!どうせ大好きな大好きな妹さんの友達ですよーだ!」
「ティーアちゃんそれはツンデレ超えてデレデレだと思うけども?????」
……絶対仲間って言わせてやるわ。
そんな思いと共に、私は彼らから目を逸らして教会の天井を見上げる。
(……どうしてここにいるのか…)
それにはきっと、理由があると思う。…だから、頑張らないとね。
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「あんま調子に乗ってっと地獄見せるよ?」
「ヒッッ」
「あ〜、ダリィ〜」
「閻魔様、今日は絶好調ですね」
目の前の机に突伏する閻魔様を見下ろしながらそう言い放てば、珍しく閻魔様が口を開く。
「絶好調なわけあるか、これから天界で会議なんだよ」
オメェも知ってるだろと言い放つその姿は、先程の冷たい視線とは打って変わり、マジで嫌々期の子供かのように不貞腐れている。…まあ、知ってた。
だから溜まってた裁きをさっさと終わらせたのだろう。会議後に面倒臭いことはやりたくなかったのかもしれない。
「ご安心を。会議後にも死人は出ます」
「クソヤロウ」
だが、この作業は終わりはない。それこそ良い感じの後継者を見つけない限りは。
「そーいやあいつどうしてる?」
「あいつとは?」
「神に直談判して死の国残ってるあのアホタレ」
お可哀想に。閻魔様にそこまで言われるなんて。
「知りません。ご自分でご確認ください」
「クソっっ…」
というか、私も暇じゃないので。
「あいつさあ、マジで馬鹿だよなぁ。」
「そうでしょうか、いざとなれば【加護】で何でもできるのでは」
クリストファー・ラグジュアル・サンスベリア。
彼は恐らく、この世界…いや、この天界の中で最も最恐となれる可能性を秘めた男だろう。地位も名誉も能力も、全て最初から生まれ持った才能。神様は「漫画読みながら作業してたらこんなことに…よよよ」と仰っていたが、若干棒読みだったので反省はしていらっしゃらないかと思われる。
【加護】持ちというだけでも厄介なのに、その魔力の器は“聖”。
しかも、見た感じ目的の為なら手段は選ばないという残酷さを持ち合わせており、自身の信条は必ず徹底。何事にも公平な目線で判断する優男で、その中身に美しさを持っていれば、どんな悪党でも手を差し伸べる所は彼の良さだ。
だが、だからこそ、それはあまりにも“完璧”過ぎた。
「だからって神様に歯向かう?普通」
「それはそうですね、理解は出来ません」
数年前、彼がここに立っていたのを思い出す。
『どんな窮地も好機に変える。それが俺のやり方さ』
自信満々にそう語っていたクリストファーさん。
閻魔様も負けじと言い争っていたが、結局神様案件になったんだよな。魂を転生させる前に黄泉の国に残ることになってるし、何がしたいのかさっぱり分からない。
そもそも目的ってなんなんだよ、あの男の目的は。
「どーせアレだろ、大好きな妹の手助け」
「…基本的に黄泉の国と外界は天界と同じように独立した存在なので、行き来出来ないのでは?」
「知らねーよ、でもほら、あいつ行き来してるじゃん」
『俺はただ、会いたいだけだから』
ああ、あの小童か。
実際にここには来てないけど、向こうの2つを行き来してるんだっけ。んで、それを止めてもらう為に転生?転移?させたんだもんな、クリスティーナさんを。
「でも、あの子もう“死んでいる”のでは?」
それから、閻魔様は「はぁぁぁあああ…」とどデカいため息をつく。
「だからハイトの野郎とグレイブに文句言いに行きてぇつってんの」
「お言葉ですが閻魔様、今はノイトラール様に交代なさっておりますよ」
「はぁ!?でもハイトこっち来てねーじゃん」
「ええ、ノイトラール様はグライヒハイト様と人間との子供。『可愛い可愛い娘ちゃんが産まれてくれたので、政権交代をして暫く死の国で引き篭もるぞ☆』だそうです。」
「チッ…ふざけやがってあの野郎…」
外界から黄泉の国への案内人、アルバイデンの血を受け継ぐ、グライヒハイト・アルバイデン様。そして、そのお子さんであるノイトラール・アルバイデン様。
グレイブ様はまだ交代していらっしゃらないみたいだが、実際どうなっているのかは定かではない。…まあでも、
「……ざまあありませんね、閻魔様」
「だから俺の方が上だよね!?!!」
この人神と人間の板挟みである中間管理職に就いているような物だからな、可哀想っちゃ可哀想ではある。だからって同情はしないけれども。
「んじゃまー、いきまーす、司録来ると思うけどさ、適当にしといてよ」
「分かりました。閻魔様が会議をやっていらっしゃる間、こっちはこっちでのんびり寛いでおきます」
「え、マジで交代する?今なら無料だよ?」
「しません」
私が閻魔様の代わりなんて…務まるわけないではありませんか。




