そして伝えられる。
―「聞きたいことがあるわ、控え室で待ってる」
……セラフィーナさんにそう言い放った私は、そのまま謁見の間を出て元の部屋へと戻っていった。
ロータスさんからは「一人で大丈夫か?」と問われてしまい、「大丈夫」と答えたのだが返って心配させてしまった。
どうしようか考えている所部屋に入ってきてくれたのは…セラフィーナさんの侍女であるキャンディさん。
「ロータス殿もお仕事があることでしょう、セラフィーナ様はレオンハルト様と一緒におられますので、私がティーアさんの面倒を見ますよ!」
「そうですか…ありがとうございます!」
キャンディさんならば、と安心したのか…一礼をして部屋を出てくれるロータスさん。
部屋を出てくれる、とか追い出す、とか…まるでロータスさんを除け者扱いしているみたいなのは申し訳ないわね。でも、言えないものは言えない。……言ったら巻き込んでしまうもの。
「助かったわ、…セラフィーナさん達と合流する時まで居座られたら…流石に話せないもの」
「いえ、そんなことは…私も色々お聞きしたいことはございますし!」
曰く、セラフィーナさん達が騎士団の元にいたのはたまたまらしい。
たまたま視察に来ていて、たまたま緊急事態に遭って、たまたまモグラを覚えていた、と。全て偶然なのか、……それともセラフィーナさんは分かっていたのか。ゲーム【オトチカ】でその話があったのであればたまたまとは言い難い気もするわね。
「それで?……貴女確か家の方にお手紙送ったのよね、半年程前の男爵領での一件で。何か返事はあった?」
「……はい、…ですが…弟もまだ全ての本を読んでいるわけではないので目星い情報は得られず……」
「あら?でも…貴女の父は全て読み終わってる筈じゃなかった??」
気の所為だったかしら?と思い聞いてみると、キャンディさんは少し固まって「そうでしたっけ」と言い放った。……あれ、怒ってる??どうしてかしら…怒らせちゃった?
「まぁ、どうせ忘れてるのでは?もう年ですし、」
「……まさかとは思うけれど、親子喧嘩してる?」
私の言葉に何も答えずそっぽを向くキャンディさん。
年上なのに子供っぽい所は…私の専属侍女だった彼女にとても良く似ている。……まあ、それもそうよね、当たり前だわ。
いや、そんなことよりよ。……そんなことより、こんな所で親子喧嘩されたらたまったものじゃないわ。
「今回の一件で判明したことを話しても良い?後でセラフィーナさん達にも話す予定なのだけれど…」
「あ…はい、お願いいたします!」
「この前の一件も今回の一件も、…大罪魔導師独特の魔力の揺らぎを確認したわ、まあ、微量ではあったけれどね」
元々死んでいたらしい屍兵達からも、そしてモグラからも。……なんなら…今回の奇襲者達からもね。全員ではないけれど。
「恐らく、大罪魔導師は…人間をも操れる、」
「っっ…洗脳…?」
「それに近いわね、…洗脳魔法は禁断魔法の一つだった筈、しかも大昔から。そして使わなくなり…忘れ去られた筈よ」
「…それが、復活したとなれば………」
1000年前の知識で行けばの話だけれど。
王城の奥の方にあった忘れ去られた禁断魔法の書物の中に、洗脳魔法も載っていた筈。ただ、呪文や使い方は墨塗りされていた。……本当に名前以外は忘れ去られた…筈だった。
何よりも引っ掛かるのは、大罪魔導師が洗脳魔法を使っているかもしれないこと。
洗脳魔法は大罪魔導師が生まれるよりも前からあるとされている。それなのに、禁止されたあとの時代に生まれた魔導師が…復活させることなんてできるのかしら。
「分かりました、大罪魔導師についても詳しく聞いてみましょう」
「ええお願い。なんならそうね…すぐにとは言わないけれど、私も園に行くべきよね」
「そうですね…クリスティーナ様の杖が大樹に還っていた筈ですから」
「そう、それなら尚更行かないと!」
私達は顔を見合わせ笑い合う。
すると、すぐに扉が開き…廊下からセラフィーナさんとレオンハルトさんが入ってくる。あら、イグはついてこなかったのね。……まあ彼も忙しいでしょうし、むしろあの場に居てくれていただけでありがたいものだわ。
「ティーアちゃん!お待たせ!!」
「ごきげんよう、お疲れ様」
抱き着いてくるセラフィーナさん。……頑張ったものね、と思いながら頭を撫でてあげる。
レオンハルトさんは私のことを知らんぷりしてソファに座る。
「で?何故居たんだ、あんな場所に。まさか本当に陛下からの命令なわけがないからな、一人で行ったんだろ、」
「…当然でしょ、この私が陛下の命令大人しく聞くわけないじゃない」
あっかんべーをしてみると、レオンハルトさんもこっちを睨んでくる。
貴方には関係ないじゃない!と言ってやりたかったけれど、……正直恐らく…関係なくはないのよね。言い切ったら嘘になってしまう可能性がある。憶測だけれど。
「落ち着こ、2人共…!」
落ち着けるわけないでしょ、と思いながら睨み続ける。
とはいえ睨んでばかりいた所で聞きたいことが分かるわけじゃない。
「でも、行って正解だったわ。貴女、嫉妬の魔導師がどうとかって言ったわね」
そう、聞きたいことっていうのは嫉妬の魔導師の話。
……セラフィーナさんはキョトンとしながらも「あ…うん」と頷いてくれた。
「嫉妬の魔導師…エセリンダ・ラーヴァ・フリジッド。……正直、めちゃくちゃ強い」
私達が戦うつもりだから強さを言ってくれたのだろうけれど、……正直そこは問題ではない。大罪魔導師というだけで強いのだから。
「強さはどうでも良いわ、……嫉妬の魔導師…少なくとも、私の時代にそんな魔導師は居なかった」
「えぇっっ!?」
私の言葉に間髪入れず驚いてくれる。
……今回の一件に大罪魔導師が関わっているということは確実。それをセラフィーナさんの言葉通りに受け取るのであれば…私が知らない、嫉妬の魔導師が関わっている。流石に私だけでは対処しきれない。
「お前が知らないだけじゃないのか、」
「……でもお兄様も、大罪魔導師は8人って言ってたのよ?起源は8人、間違えない」
「どうしてそう言い切れる、」
「……お兄様は特別だったから」
レオンハルトさんの言葉には目をそらしながら答える。
恐らく見られているだろうけれど、……目を合わせたら負けたようなモノだもの。お兄様は確かに特別だった。だから、……起源である初代大罪魔導師が8名であることは……紛れもない“事実”だ。
「つまりまとめますと、恐らく嫉妬の魔導師は、ここ1000年間で誕生した…新たな大罪魔導師なのでしょう。クリストファー様が知らないとしてもおかしくはありません」
「そうよね、……でも…そしたら大罪魔導師は9名の筈でしょう?どうしてセラフィーナさんの認識だと7名になるのよ」
……そしたら、2人消えたということになるじゃない。
そんなのあり得る?…大罪魔導師の倒し方はお兄様でも分からなかった。だから、“封印”することしかできなかったっていうのに。それとも、封印されている為にセラフィーナさんのゲームには登場しなかった、ということかしら。
「8が、7に…。あ…名前は…?何の魔導師??」
「…暴食、色欲、強欲、憤怒、憂鬱、怠惰、虚飾、…そして傲慢〜、」
「……憂鬱と虚飾がなくなって嫉妬になってる、……丁度、八つの枢要罪から七つの大罪に変わったんだ。それが正しいなら、虚飾が傲慢に統合されて、憂鬱が消去されたんだと思う、多分…!」
セラフィーナさんは「確証はないけど」と言いながらそう言ってくれる。憂鬱が消去、か…
「それはないわ、虚飾は知らないけれど、憂鬱の魔導師はまだ生きている」
「どうしてわかるの?」
「うーちゃん言ってたじゃない、憂鬱と色欲の、って。うーちゃん一人で憂鬱の魔導師に勝っているのなら大したものだわ、真っ先に私に報告してくれる。何も言わないってことは…そういうことなのよ、」
要するに、憂鬱の魔導師は倒せていない。
「で、でもほら…誰かが憂鬱の魔導師を倒したから封印が解かれたって可能性も…」
「大罪魔導師の倒し方はまだ解明できていないわ、この1000年間でどうなのかは知らないけど…一般人がたまたま倒せる程大罪魔導師は甘くない、……ってか、大罪魔導書は甘くないのよ」
「………そっか…ごめん…………」
セラフィーナさんは謝ってくれるが、別に謝ってほしいわけじゃない。
「で、貴女が知る大罪魔導師が現れるのはいつ?」
「……作が丸ごと違うからそもそも現れるか分からないんだけど………」
「はいぃ?!」
そんな不確かな情報だけでよくもまぁ…。
作が丸ごと違うってことがどう影響するのかは知らないけれど、平行世界として別の時間軸で動いている可能性がある。そしたら今までの話全部なかったことになるじゃない!
どうしてくれるのよ!!と叫びたくなる気持ちを必死で抑える。
「……そう、それで、…そうね、……うーん…」
「あっでも、クリスティーナ様が亡くなった年に生まれたハーフエルフの少年が……」
「ンンンッッッ?!??」
「??キャンディさん?」
私が何を言うべきか考えていると、セラフィーナさんが話してくれそうになる。……が、その言葉を遮るようにようやくキャンディさんが声を上げた。
……そうね、まあ…反応したくもなっちゃうか。
「どうした?大丈夫?!」
「…あ、はい……その、……クリスティーナ様が亡くなった年に生まれた…混血、でございますか…」
「え?うんっそうだよ!混血、人間とエルフの!」
どうするのかしらこれ。
悪いけど私は知らないわよ、と言う思いを込めてキャンディさんから目を逸らす。セラフィーナさんは善意の塊でキャンディさんを心配そうに見つめていた。
そんな中、レオンハルトさんは静かに私を見てくる。
「水精霊様も分からないとなると、……倒せるのか?そんなの、」
「それでも倒すか…もしくは封印するしかないわよ。放っておくわけには行かないし、大罪魔導師を超える力を持っているわけじゃないでしょうし」
正直、大罪魔導師を超える力を持っているのであれば…お兄様とマリアージュお義姉様のように魔導書から引き剥がすことは出来るだろう。でも、その場合魔導書は離れ、新たな魔導師を作る為の準備を始めてしまう。
それに、次に作られる魔導師がどれだけ強くなるか分からない以上、下手に動かないのも一つの策だとは思う。
「とりあえずセラフィーナさん、今後もそれらしき魔物や…ないとは思うけれど、本人がいたとしても下手に刺激しないで一度相談しなさい」
「わ、分かった…埋め合わせで更に強くなったら意味ないもんね…」
セラフィーナさんの言葉に頷いておく。そして、自分のことではなさそうな顔をしているレオンハルトさんに身体ごと向き直る。
「貴方もだからね?」
「……分かってる、そもそも俺は全員知らないからな。会った所で気づけない」
当然のようにそう言い切るレオンハルトさん。
知らないからって何よ、知らなくても鉢合わせる可能性は0じゃない。そうなった時…この人は一人で戦おうとする筈。
そうしてほしくないからわざわざ言っているというのに、全く。
「まぁ良い、私は帰るわ。今回の件で大罪魔導師の存在の本格化を確認できたのは大きいわね、…陛下に言うべきかは判断に迷うでしょうけれど、そこは任せたから」
「任せて良いのか、陛下に言えば…お前がその場に居たことも自ずと話さざるを得なくなるかもしれないんだぞ、」
「……その時はその時よ、本当に言わなきゃならないのなら言えば良いわ。また私が降臨すれば良いだけだもの!」
レオンハルトさんは私の言葉に困ったような顔をする。
……そんなに困らないでよ、別に困らせたいわけじゃないのよ?ただ…陛下には会いたくない。そして…その取り次ぎを任せたい、……それだけ。
「ティーアちゃん…」
「ん?」
「……ものすぅ〜ごく我儘なの、…傲慢の魔導師みたいだね………」
「……………」
傲慢と我儘って意味は少し違う筈なのだけれど。
「じゃあ私が無自覚魔導師なのかもね」
「さらっと言わないで!?」
「あら、でも…良いじゃない」
「なにが!?!?」
大罪魔導師ってことは、大罪魔導書に選ばれたということ。
そう簡単に選ばれるものじゃない、特別な者しか選ばれない。……無自覚魔導師であればあるほど、想いが強いということ、…それだけ…本人が特別である証拠。
……無理だけどでも、できることなら…選ばれたいモノね。
ーーー
「……誠仁しておるようじゃの、お主」
「長老?……まあ…はい、姉さんからの手紙なんでね」
「はっはは!仲良いのぉ、お主ら姉弟は!」
その言葉に少年―キャラメーは片眉を上げる。
「そりゃどーも、……父さんがあの情けない男だと結束力もアップですよ」
「はっはっは!あやつ…まだ意地を張っておるようじゃな、なっさけないのぉ〜」
長老、と呼ばれた少女はそのままキャラメーの隣に座る。
「どれ、妾も手伝おう。ここには多くの本がある、星詠みや勇者、天才が遺していったモノじゃ。ある程度であれば妾も内容を覚えておるからのぅ!」
「……ありがとうございます」
その言葉に、キャラメーは心強さを感じる。
「おろ?この本懐かしいのぅ〜!」
「………」
「やや!?これは…まさかなくしたと思っていた!?」
「……………」
「んぉ?これは…しまった!この漢字読み方を忘れてしまったわい」
「…………………」
「うぉお!?!?このい…」
「………………………」
……一物の不安と怒りを抱えながら。
「…チッ……邪魔するなら出ていけよ?長老」
「わ、わーわー待て!邪魔はせぬ!邪魔はせぬから!……ケチンボ、」
「何か言いました???」
「わ、わかったからそん…笑顔はやめい!!そもそもここは妾の家じゃぞよ!?!?」
キャラメーは「冗談です」と笑いながらも、本を読む手を止めることはなかった。




