Ⅰ25.高揚令嬢は頑張ります。
ヒソヒソ話を聞いていれば、どの世界でも背中が痒くなる。…まして、自分のことであれば尚更だ。
「………はぁー…」
「セラフィーナ様、どうかされました?」
初めの頃は後ろの方の席に居たネフェルちゃんだったが、今は私とモーセの間に座っている。
そんな彼女がため息をついた私に口を開けば、その隣にいるモーセもこちらを見てきた。
「なんだ?セラフィーナ・エンシャンツ!俺と戦う気になったか!?」
その一言で周りは更にざわめきを増している気がしてならない。
…昨日のやらかしを見た人なら当然か。直接見ていなくとも、噂で聞いていたらそうなるに決まっている。昨日やらかした私達3人…主に私1人が原因なんだけど、あんなヤバいのを見せられて噂にしない方がおかしい。しかも、そんな私とモーセが彼の言葉通り戦ったりなんてしたら、それこそこの学園が崩壊しかねない。
正直、モーセの力を見くびっていたのかもしれない。
ゲームで全然出てこないから未知数だったとはいえ、攻略対象者ではないから油断していたのだろうか。魔法の技術なら彼の方が上だろうし、知識ならアドラ様、剣術なら彼だし、奇想天外さはリスク、権力ならイグニス様だし、他の分野に至っては恐らく全ての分野でお兄様がトップに君臨する羽目になる。
だからモーセなら大丈夫〜って思ってたけど、全然そんなこと無いわ。むしろ、特異体質…いや、加護持ちだってことで危険視すべき人物なのかもしれない。
確証はないけど、これ絶対加護な気がするんだよね。
「戦わないし、良い加減諦めてよ」
「断る!!!俺は強くなってネーちゃんをお嫁さんにするからな!」
ドヤ顔でそう言われても、そのご本人今目の前にいらっしゃるんですけど。そしてネフェルちゃん、その顔はどんな感情???めちゃくちゃ真顔でモーセを見つめているんだけど、モーセはそれでええんか。
それにしても…
「なんで2人共そんな自然体で居られるの…」
思わず呟けば、2人共私の方を見て、そのまま顔を見合わせた。
だってさあ、陰口って怖くない?なんて言われてるか分からないしさ、自分のことじゃなくてもなんか言われてるかもしれないって思ったら、なんとなくいたたまれなくなるっていうか…。
でも、第三作目の主人公ちゃん言ってたからなぁ、やっぱ三作目って凄い現実味帯びてるよ。
「……私は克服したので。」
ネフェルちゃんがポツリと言い放つ。
物凄く小さな声で、多分私にしか聞こえていない。彼女の後ろにいるモーセには聞こえてるのか分からないけど、少なくとも周りの人達には聞こえていないだろう。
私が聞き返せば、少しだけ目を逸らして「あの時もモーセが居てくれたから」と言い、その後黙りこくる。…あの時“も”?前にも同じような事があったのかな、と思い聞いてみるも、ネフェルちゃんはそれ以上話してくれない。
代わりに、モーセはケロッとしたような顔で口を開く。
「関係なくない? だって2人が凄いのは事実だし、俺は魔法初めて使ったんだし、」
そう言えば、モーセは魔法初めて使ったんだっけ。
でも、それすらも皆に「え…?」という反応をされるということを、彼は分かっていない。…生きてて魔法を使わないとなると、それは結構な希少パターンなのだろうから。物凄く発展しているわけではないし、めちゃくちゃ使うってわけじゃないけれど、……少なくとも皆、一度は何かしらの魔法には触れている筈だからね。
例えば魔力器測定する時とかさ。それを考えると、モーセはその時何してたんだろうって気になる。……あの時は自分の出番が終わったらすぐにイグニス様に会いに行ってたからなぁ。
「あんな間近で見れたのも初めてだしなぁ、…ほら、俺がいると魔法使えないじゃん?」
ティーアやレオンハルト・エンシャンツは使えてたけど!!とあっけらかんとして言い放つモーセ。なんだか表情が少し泣きそうで、…それでも微笑んでいた。
「…だから嬉しかったんだ。」
そっか、そうだよね。
もしその体質が加護で、生まれつき持っていたのだとしたら。…彼は魔法を身近に感じることは常人より少なかったのかもしれない。そんな中、魔道具で“普通”に近づくことが出来たのだ。…いつも私に突っかかってきて変な奴を極めてるモーセだけど、それでも立派な“普通の少年”、普通の男の子なんだ。
「…セラフィーナ様が素晴らしいという事実に変わりはありませんから。私達もよく知っています、…自信をお持ちになってください!」
ネフェルちゃんは私の手を取りながらそう言ってくれる。…少し気恥ずかしそうに目をそらしていたけれど、その手はとても温かい。
「ネフェルちゃん…、…うん、ありがと」
…うん、私は凄い。凄いんだ。
だって、私の心の中には初代主人公が眠っているのだから。
初代主人公、セラフィーナ・エンシャンツの名において。
…必ずこの世界をハッピーエンドに導くという使命があるのだから。オトチカを知っておいて良かったって胸を張って言えるようになりたい。前世の家族に、私は一人でもやれたんだよ、って…心の底から安心してもらいたいから。
「…ありがと!なんか勇気出てきたかも!」
「セラフィーナ様…。良かったです!」
だから、私頑張るよ。…あと1年も無い、もうすでにスタートしている、乙女ゲーム【古の乙女と永遠なる誓い】第一作目。
攻略対象者を手助けして、周りを導き、そして…
闇に飲み込まれているラスボスを救出しないと。
それが、私に出来ることなのだから。
「はーい、皆さん席についてください!」
それから、私達は今日も見聞きしたことの無い新しい授業に耳を傾けたのだった。
……私は今、一人じゃないから頑張れる。
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……ひとりぼっちがこんなに怖いとは思ってなかった。一人でも大丈夫だし、私は生きていけるし、寂しくなんかないって思ってた。
だけど、……大切なことは失ってから気づく。
よく言われる言葉だし、知ってたし、……ただ理解できていなかっただけなんだろうなって思う。
「あの子が天羽さんの?」
「そうそう、秤さんや社城さんだけでなく、心瑚くんまで…」
私は一人、教室で座り込む。…ダメだよ、天羽心愛、こんな所で立ち止まっていちゃダメ。
約束したでしょ、世界一のピアニストを目指す。そしていつか、皆で一つの曲を作ろうって。
約束したでしょ、心瑚はプロのサッカー選手になる。そしていつか、私もボールを蹴ろうって。
一緒に世界を目指そうって誓ったじゃん。……拳をくっつけ合って、……オトチカ一作目の誓い、やったじゃん。セラフィーナ様とレオンハルト様のように、誓いあったじゃん。
なのにもう、……二度と出来ない。
誰もそのボールを蹴ることはない。だから、私は二度とピアノは弾かない。二度と果たすことは出来ないその約束を胸に秘めて。
……呪いのように心に残り続けると思う。心瑚がそれを望んでいないこともちゃんと理解している。お父さんとお母さんは私にこれからの人生を最期まで全うしてほしいって思ってるだろうっていうことも理解している。
だけどもう、……無理だよ。
…私はもう、一人では頑張れないと思う。
「…大丈夫、大丈夫…」
私の心の中には、いつだって大切な家族が居てくれた。だから私は大丈夫。……だった筈なのに、今はもう居ない。
大切に育てられた過去を知っているから、大好きという感情を知っているから、家族からのかけがえのない愛情を知っているから。……だから、辛い。
でも、それでも……
【彼らは誓う、…どんな時も…力の限り戦うと。
「この立場は、民に希望を約束する為のモノだからな!」
どうしようもなくなった時、希望を見せてくれた。
「この知識は、周りの方に夢を与える為の物ですから!」
夢の欠片を大切に育ててくれた。
「この歌は、誰かを幸せにする為にある!」
幸せにしてくれた。
「この剣は、大切な人を守る為にあるから!!!!」
例え、生命の炎が危ぶまれたとしても、
「この想いは、君達が教えてくれた物だよ」
恩人へ、憧れへ、
「この光は、手を伸ばした全ての人に届ける為にある、」
そして全ての人へ、光を灯す為。
「この誓いは、皆の想いが形作った物ですから!」
どんな時でも、彼らは教えてくれる筈です。「あなたは一人じゃない」と。
心に問いかけてみてください。
君達の名前はなんですか。
「俺様の名前はイグニス・ラグジュアル・サンスベリアだ!」
「俺はアドラ・ヴィジェアと申します!」
「お初にお目にかかります、僕は、ライラ・ミスリルと申します」
「あっ、俺は…俺は、アーサー・ペンドラゴン、ですっ!!」
「私は…リスクルビダ・カモミートと申します、」
「レオンハルト・エンシャンツだ、そしてこっちにいるのが……」
「セラフィーナ・エンシャンツと申します、ごきげんよう!!」
これは、未来を守り、皆の憧れとなった、…そんな、普通の少年少女達の物語。】
……それでも私、頑張るよ。…これから先の未来、もう既にスタートしている、私の人生。
【「ここが、嘘も偽りもない、正真正銘、私の生きるべき本当の世界だから!」】
その隣に、家族の姿はないかもしれない。お母さんやお父さん、心瑚の姿はないかもしれない。多分、姿はない。
……それでも良い。例え姿が見えなくても、心は繋がってるって…信じてるから。
【「それでも私は、最期まで信じます!」】
周りと自分を比べるのも良いけれど、それよりもやるべきことをやる。
【「大丈夫さウィステリア、彼女ならきっと…できることを見つけ、力の限り戦う。静かに、見つめて、信じ戦うべきモノを見つける筈さ」】
…私はまず、私に出来ることを見つけないと。
それが、私に出来ることなのだから。
「はーい、皆さん席についてください!」
それから、私は今日もいつも通りの授業に耳を傾けたのだった。
……私は、例え一人でも頑張らなければならない。
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…ごめんなさい、お兄様。
私は昨日、とんでもないことをしてしまいました…。的を壊すだなんて何年ぶりでしょうと、先生方もおっしゃっていたわ。
「あの子がエンシャンツ家の?」
「そうそう、レオンハルト様だけでなくセラフィーナ様も…」
私は一人、教室で座り込む。…ダメよセラフィーナ、こんな所で立ち止まっていちゃダメ。
目から涙が流れてこないように顔を動かせば、後ろに一人座っている少女を見つけた。…あの子は確か…ネフェル・タリティさん。男爵家の一人娘で、お兄様が管轄するギルドに彼女の父上の名前が載っていたわ。
「………」
話しかけたい、…けど、きっと私なんかが話せば迷惑よね。
この前一瞬目が合ったような気がしたけれど、同時に目をそらしてしまった。それから一度も目を合わせたことはない。…話したことも、近づいたこともない。
どうして私はこうも、勇気が出ないのかしら。
ただ話に行くだけなのに、私にはそれが出来ない。お兄様はゆっくり出来るようになれば良いと仰ってくれたけれど、私はそれが嫌なのです。
お兄様は凄いから、私なんかとは比べ物にならないくらい凄いから。
…私だって、少しくらい一人で頑張りたいのです。
「…大丈夫、大丈夫…」
私の心の中には、いつだってクリスティーナ様が居てくれる。だから私は大丈夫。
【辛い時、苦しい時、悲しい時。
いつでも傍に居てくれる救世主様。どんな時でも、救世主様は教えてくれる筈です。「あなたは一人じゃない」と。
心に問いかけてみてください。
救世主様、救世主様。貴女の名前はなんですか。
「クリスティーナ・ラグジュアル・サンスベリアよ!」
これは、未来を守り、皆の憧れとなった、…そんな、普通の王女様の物語。】
だから、私頑張ります。…これから先の未来、もう既にスタートしている、私達の人生。
周りと自分を比べるのも良いけれど、それよりもやるべきことをやる。
…私はまず、私に出来ることを見つけないと。
それが、私に出来ることなのだから。
「はーい、皆さん席についてください!」
それから、私達は今日もいつも通りの授業に耳を傾けたのだった。
……不安だけれど、……一人でも、頑張らないと。
もう一人ぼっちじゃないですね。
ということで、100話達成でございます!
ここまで来ることができたのも、一重に読んでくださる皆様のお陰です!
ここから物語の展開的にはハイペースに進んでいく予定ですが、一応投稿頻度はあまり変わらず進めていこうと思います。代わりに、陛下の過去やクリストファー様の時代、それに心愛ちゃんの弟心瑚くんのその後とかとかも書きたいなぁって思っているので、気長にマイペースにゆる〜く進んでいくと思われます。(大学も忙しいので週一投稿以上は厳しいですが…ちょこちょこ進めているのであります。)
改めてありがとうございました!これからも応援よろしくお願いいたします!!




