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浮気をされた見習い魔女は、今日も元気にポーションを作ります 【第11章完結】  作者: サトウアラレ
12章

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薬師長の夢

「ジェーン様、お弟子さんを取られたとの事。誠におめでとうございます」


錬金釜の隣の狭いキッチンで薬師長と二人で座り、シラヌイ君とルークさんに店を任せて私は薬師長にお茶を淹れた。


お茶の香りが私達を包むと、薬師長は丁寧に手を挙げて勇者の礼をしながら私の前に小さな箱を幾つも出した。


「あら、お土産ですか?」


「いいえ、これは大魔女になられたお祝いで。そしてこちらは賄賂です」


「賄賂。それは怖いですね」


私は笑ってお祝いと賄賂を頂くと、薬師長は「この度、図々しくもジェーン様にお願いがありましてな」と話し出された。


「薬師長から私にお願い?なんでしょう?聞くのは出来ますけど、私に叶えられるかしら?師匠や陛下にお願いした方がいいのでは?」


「いえ、これは宵闇の魔女殿、貴女様しか叶えられないのですよ」


「なにかしら」


「魔女様の土地、『雷鳴の聖域』を私に使わせて頂けませんか?」


「私の土地の一部を薬師長に?」


『雷鳴の聖域』


ご立派な名前が付いた私の土地。


コロン領の中にある飛び地なので私は勝手に、もう、コロンって名前でも間違いないし、いいだろう。と、「名無しの薬局コロン店」と呼んで店を建設していたのだけれど、整備士や、大工達が、「ここはコロン領ではない」とか「魔女様の聖域」とか「悪さをすると雷の罰が当たる」とか話をしていた様で、色々噂が飛び、いつの間にか私の土地は『雷鳴の聖域』という立派な名前になっていたのだ。


土地の整備費用は思ったよりもすっごくお金が掛かったのだけれど、国王陛下から筆頭に私へのお祝い金が沢山届いた。


「何もない土地だったと聞いております。ジェーン様はそれを綺麗に整備され、店まで作ってしまわれた」


「ええ、まあ、お金は師匠が取り立ててくれましたし?」



私はちょっと前の事を思い出して、遠い目になりそうになった。


「あー、整備費用が掛かる。もう、お金がない」と、師匠に愚痴ったら、「金がない?任せろロゼッタ、金はある所から搾り取るもんだ」


「え?師匠、犯罪は駄目ですよ?」


「おい、私は賢いんだぞ?いいか。ロゼッタ。賠償や、見舞金は手続きが面倒だ。でもな、ほいほい金を出す事が出来る事を私は知ったぞ」


ニヤリと悪い顔を浮かべて師匠は煙草を出すと加えながら火をルークさんに着けさせた。


「簡単に?まさか…恐喝…」


「馬鹿、祝い金だ」


「え?」


私が「ん?」と首を傾げた隙に師匠はあっという間に消えた。


その後の師匠の行動はギルちゃん達に聞いたのだが、まずは師匠は陛下の所に突撃し、


「おい、大魔女の祝いに無駄なもんをロゼッタに贈ったのか?あ?ロゼッタは喜んだだと?おい、土地の整備、困ってたぞ?なあ、おい、土地だけか?ちょっと少ねえよなあ?あ?聞こえねえなあ?面倒くせえこと言うなよ?大魔女だぞ?ロゼッタの祝いをお前のポケットからさっさと出せよ、おら、すぐだせ」と、言いお金を奪い取ると、私の顔見知りに同じような事を繰り返したらしい。


例えば…タウンゼンド宰相に。


「マックス、ロゼッタに何がいいか?そんなの金に決まってんだろ?多すぎるって事はないからな、口座番号は知ってるだろう?」


そして王妃様にも。


「おい、今、この世に大魔女は二人だけだなア。王族の祝いでも祝い金を沢山貰うよなア。王族って世界に掃いて捨てるほどいるのになア。大魔女は世界に二人。どっちが偉いんだ?ああ?」


第一王子様達にも。


「おい、お前ら。今回の魔物湧きやその他諸々。ロゼッタのおかげだとか言ってたな?ん?感謝?そんな言葉はいいから金を出せ。振り込めよ」


と、師匠が動いたおかげで空っぽになっていた私の銀行口座には翌週にはとんでもない額が入っていた。


「私の土地はコロンの街からは少し離れていて不便な場所になりますけれど?」


王都の方が便利なのに。そう思って薬師長に訊ねると薬師長は頷いて話し出した。


「私は広い土地がある場所を探しています。薬草などを育てられる大きさのある土地が必要なのです」


「畑を探しているのですか?それなら王都の近くの村なんかの方がいいんじゃないかしら?」


薬草園を作りたいのかと、そう聞くと薬師長は首を横に振った。


()()()()。です。私は若者の勉強の場を作りたいのですよ」


「勉強の場?学園と言う事ですか?」


「左様。村では人が集まりません。ある程度の規模の街ではないと。そう考えるとコロンはとても良い。西のサイパーに次ぐ、大都市です。メリアに向かう街と言う事もあり、人の流れも多い。メリアから我が国に農業や薬師の留学希望者が増えていましてな。私は薬師専用の学園を『雷鳴の聖域』に建てさせて頂きたいのです」


「ふむ?でも、他国の者が増えて、私への迷惑はないかしら?私の土地の制裁は私の権限で決められることをしっかり知って貰わないと」


私はお茶を一口飲んで、薬師長を見ながら魔力を小さく練って、釜の方に向けてパチッと魔力を散らした。


「勿論。『雷鳴の聖域』内に入ると言う事はそう言う事です。それでも、私は薬師達に宵闇の魔女様の加護を与えて頂きたいのですよ。我が国に薬師専門の学園というのはありません。王立学園に薬師科はありますが、薬師専門の学園と言うのはございません。騎士や軍団を目指す学園、魔術専門の学園、文官を目指す専門の学園、商人等の学園はありますが、薬師専門はない。なぜなら、金と土地が掛かり、そして貴族の者達は薬師の地位を低く見ているからです」


私はコクンと頷いた。魔術科、文官、騎士、これらは貴族の中でまず目指すところだ。魔力があるなら魔術科を、賢い者は文官を、そして運動能力や家柄によっては騎士を志す。それ以外の職業は一段下に見られている。

職業にどちらが上、どちらが下、なんてないと思うが。薬師長のもどかしさも分かる。私自身、魔力があるのに、なぜ、薬師を志すのかと嫌がらせも受けた事がある。


私が黙って頷くと薬師長は話を続けた。


「土地だけなら他の領にもありますが、ただ田舎に学園を作っても生徒の士気も上がりません。が、宵闇の魔女様のお膝元にある薬師学園、『雷鳴の聖域の中にある薬師学園』となると話は違う。大魔女様のお名前を使わせて頂けませんか」


私は黙って薬師長を見て、ゆっくりとカップを置いた。薬師長はそんな私を見ると、また話を続けた。


「私には夢がありました。薬師達の学園を作り、国中の薬師が連携を取れる場所を王都以外に作りたい、と。しかし、その為には私は地位を得る必要があった。薬師を纏める必要があった。その為に私が薬師長と言う職に就いたのですが、今度は薬師長という立場の為好きに動けなくなりました。いつの日か、この夢は叶わぬと思って諦めていました。自分で、自分をよくやった、と思っておりました。『薬師長という職に就けた。もう十分ではないか』と。しかし、ジェーン様を見ていると、諦めてしまった自分が恥ずかしくなりました」


「私を見て?」


「ええ。貴女は絶対諦めない。夢を掴むまで杖を振り続けていた。どんなに困難な事でも、無理と言われた事でも、夢と諦めず、夢を見続ける事の素晴らしさを私に思い出させてくれたのですよ」


薬師長はそう言って真っすぐに私を見た。


「私も夢を叶えます。何がなんでも死ぬまでに学園を作ってやります」


「ふむ」


「薬師長の座を譲り、私は新しく薬師学園の学園長になろうと思います。私の知識を一人でも多くの若者に残したい。しかし、やるからには絶対に成功させたい。素晴らしい学園を建てたい。どうか、土地をお貸し願えませんか」


薬師長は私に頭を下げ、勇者の礼を再びすると自分の杖を出して私の前にゆっくりと差し出した。


「どうかこの杖を。貴女に私の全てを捧げましょう」


薬師長迄上った人が私に杖を差し出した。


私は薬師長の杖を受け取った。この杖で今迄どんな薬を作って来たのだろう。魔女は勿論、魔力を使い、杖を振る者にとって杖は自分の命の様に重い。


勿論、杖が壊れる事はある、新しい杖を作る事も少なくないだろう。しかし、自分の魔力をなじませ、使い込んだ杖は自分の目のように、腕の様に、声の様に大切な物だ。


普段、自分の杖を他人に触らせることは絶対にさせない。


例外があるとすれば…師弟関係を持つ時…。後は、自分の全てを賭けると相手に分かって貰う時だろうか。


「薬師長。良いですよ」


私はゆっくりと杖を薬師長の手に戻すと、自分のポケットから石を一つ出して、魔力を込めた。


「薬師長、私は薬師長に憧れていました。そんな薬師長から杖を渡されるような人になれたのね。私は大魔女になれた。でも、それは薬師として頑張ってこれたから。私を大魔女にしてくれたのは多くの人達のおかげ。その中には薬師長、貴方もいます」


コロンと光った石も薬師長に渡すと、薬師長は黙って頭を下げ続けた。


「素敵な学園を作って下さい。ただ、私は面倒事は御免です。教えるのは今はシラヌイ君で手一杯ですからね。ああそうそう、ついでに私の薬局に薬草を卸してくれますか?」


「勿論。毒草、目薬草、他にも新しい薬草をお渡ししましょう。宵闇の魔女様の手を煩わせることは致しません」


「それはよかった。賑やかになりそうだわ」


「コロンは今、メリアとの窓口の街ですが、薬師の街と言われるようにしたいと思っております」


「薬師長、夢を叶えるのに年も性別も関係ないと思うの。私自身、何度も人に無理だって言われたもの。だから、薬師長の夢が叶うのを側で応援させて下さいね。私も後輩が大勢出来るのを楽しみにしています」


「…大魔女様の、期待に添えるように」


薬師長は目をギュッと瞑り、深々と勇者の礼を私にした後中々頭を上げる事はなかった。




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