第三十二話
第三十二話
「……ここは? 朱莉、朱莉はどこ!?」
意識が途切れたはずの僕の隣には朱莉ではなく先ほどの先輩が立っていた。
「目覚めたみたいね。それじゃあ訓練を始めるわよ」
僕は訓練のことより朱莉の場所を聞いてしまっていた。
「安心してあの子なら、こことは別の夢の中だから」
それなら良かったと胸を撫で下ろしたのも束の間、僕の首は飛んだ。
「……え?」
「安心してここは夢だから、何度死んでもやり直しが効くから! 感情のコントロールなら夢が一番なのよ。現実で身体をバラしたりするより夢ならなんでも出来るんだから!!」
先輩の艶やかだった雰囲気は一変し、狂気を感じ震えが止まらなかった。
首がないのになんで分かるんだと思うが、くっついてるんだ、首と胴体が。
「目が覚めたらこの訓練の記憶は無くなる代わりに身体が感情のコントロールは覚えてるから安心して死んでね」
先輩が呼んだのは、朱莉だった。
「最愛の人に殺されることほどコントロールに適したものはないわよね!! 好きなように殺しなさい!」
「本当は私、風香ちゃんのこと殺したくて仕方がなかったんだ。何度も朱莉、朱莉って気持ち悪くて呼ぶよね。ほんっとウザいんだけど……アンタが利用出来そうだと思ったから一緒にいるだけなのが分かんないかなぁ」
なんだこの偽物は、朱莉はこんなことを絶対に言わない!
「真似るならもっとしっかり真似ろ、この偽物が!!」
僕の口は僕の知っている朱莉の全てを話していた。
すると先輩が突然ニタァと笑みをこぼした。
「本当に最高だよ風香!! 最愛の人の偽物に貶されながら愛を語る。最高に良い!!」
この人狂ってる。
「その表情、良いよ。最高だよゴミ箱に堕ちた鳥を見るようなその瞳、咎様にそっくりだよ!」
咎様、今この人は咎と言ったのか。
「咎って荒川咎のことであってるのか!?」
僕は焦りのあまり声を荒げてしまった。
「思い出すよ、咎様が私の声が小さいって怒鳴ったのを」
一体何の話をしているんだこの人は。
「風香は知らない話だったね、謝るよ。それと自己紹介が遅くなったけど、私は香取雛……魔物だよ。魔法を使ったら性格が変わっちゃうから、あんまり当てに…………」
魔物って言ったのか、もし本当ならこの人は魔法を使う魔物といことになる。
『魔物の中には魔法を使う輩も存在する。そいつらは元魔葬少女であり、大半は正式勢だと思っておけ』
高槻さんの言葉が頭をよぎる。
勝てるわけがない、正式勢の人たちの加減に負けている僕が……朱莉、朱莉は無事なのか!?
様子を見に行きたいのに
「様子を見に行きたんだね、見せてあげる。ほら今こんな感じだよ」
朱莉の夢の中では、知らない男に囲まれて……これ以上は言いたくない、絶対に。
嫌だなんで、なんで朱莉が……違うこれは夢だそうに違いない。
……そうこれは、夢……だとしても、嫌だ朱莉は朱莉は、僕だけの朱莉なのに。
「その表情良いよ、最高ぉぉぉ。風香が恐怖で朱莉が愛なのは知ってるから、訓練にはなるでしょ……ね〜、ふ・う・か」
耳から聞こえてくるのはこの女の笑い声ばかり、いくら耳を塞いでも腕もがれ、見たくないと目を逸らせば首をもがれる。
「朱莉はどう思うんだろうね、知らない人に愛されるのは……風香はどう思う? 聞かせてよ感想愛してる人が犯されてる光景をただ眺めてるのは……まあ夢なんだけどね。何度も言うけど朱莉と風香がいるここは夢だからね、安心して……ね?」
何なんだこいつは何なんだこいつは……本当に……何なんだよ!!
「朱莉がなにをしたって言うんだよ!!」
「何をって幸せに生きただろ? 私はその幸せを知らない。風香には分からないだろ? 知ってる人たちが肉塊になるのを見守りながら自らの生に喜びを感じてしまうのを、肉塊になった愛した人が化け物になって襲ってくるのも、そして化け物を葬らないといけないことも……次は自分かもしれないと怯える日々も……それに今の君たち魔葬少女はまともな状態で死ぬことが出来る、私たちはそれが許されなかった。分かるわけないだようね〜、平和な君たちには!!」
「分かるわけないだろ!! 僕だって死にたくないし、堕ちたくもない! 朱莉と……幸せになりたいだけなのに……好きな人と幸せになりたいってそう願うことぐらい許してよ」
僕は何を言っているんだ、口が勝手に動いてしまう。
「そう願うことは許されるし、別に私が許すような立場じゃないことは風香にも伝えておく。私だって毎日そう願った。だけどそれとこれは別……だけど今回だけは感情のコントロールの感覚を身体で使えるようにしてあげる。そうすれば正式と同じような医療にはなるはずだから。ここでの二人の記憶は全て消すよ。今日はただの暇つぶしだったんだけど、咎様に報告しなきゃいけないことができたから」
この人は僕と朱莉を夢の空間から消した。
「……僕たち眠ってたのかな?」
「そうなんじゃない? 寝不足だったのかもね」
あれ、先輩がいない。
「ねえ朱莉、さっきの先輩どこ行ったんだろう」
「分からないけど、依頼とかじゃないかな?」
あの優しそうな先輩なら感情のコントロールの仕方を教えてくれるかもしれないって思ったんだけどな。
読んでいただきありがとうございます!!
更新は出来る時にしますね




