第十七話
第十七話
葵と一緒に予約した店に向かっているのを、柊さんに見つかってしまった。
「あれ〜二人とも、あたしを置いてどこ行ってるの?」
「どこって、そんなの決まってますわよ。ご飯ですわ!!」
「そういうことだよ、ひ……」
ちょっと待って、今柊さんと呼んだら葵に焼肉屋の話そうとしていた件で気づかれてしまう。
あのことはちゃんと私自身の口で言いたい。
「私と葵はご飯を食べに行くだけだから気にしないでミコト」
……そもそも柊さんにとって私の感情が戻ってきているのは、柊さんの計画に好都合なのではないか。
「ふーん、そういうことなんだ。面白いことになってるじゃん」
「何が面白いのですかミコト?」
葵それ以上はやめた方がいい、その言葉が喉元に詰まって出てこなかった。
柊さんは私を見て満足した笑顔をしていた。
私はその意味を理解して柊さんを全力で殴った。
「もう美月危ないよ、身体無くなっちゃったじゃん」
「ミコトが口を開くとろくなことがない」
「心外だなぁ、そんなに元相方のことを信用出来ないの」
「っだから口を開くな!」
「何よそれ、美月……何かの冗談ですわよね?」
「うん、そうだよ冗談だから安心して葵」
上手く嘘がつけているか分からない。
感情を取り戻してきたのに、なんで葵に嘘をつかないといけない。
「事実なのですわね、美月の顔を見れば分かりますわ。まっ、まあ美月が魔物なのでしたらあり得る話ですわよね」
「へー、そこまで話してるんだ。それなら葵、これは知ってるの?」
まさか……ダメ、それ以上は。
「葵は復讐相手に会えないって嘆いてたけど、実はもう会ってるんだよ」
柊さんのこの言葉を聞いた葵の表情は今まで見たことのないもので……私は伝えるのが恐ろしくなった。
「そいつは今どこにいますの、今すぐ教えなさい!!」
柊さんは、私を指差し「そこ」とだけ答えた。
私を見た瞬間の葵は柊さんのことを信じてなかった。
「美月がそんなことするわけありませんわよ。ついていい嘘といけない嘘の区別もつきませんの?」
私は、葵の信用に応えられない。
葵のお母さんを殺した事実は絶対に消えない。
「あたしは嘘なんてついてないよ。最初に伝えたでしょ『契約すればお母さんを殺した相手に復讐出来る』って、だから美月を連れてきたんだよ」
「アンタそれ以上美月のことを貶める言葉をほざいてみなさい、私が殺すわよ」
「貶めるなんて酷いなぁ、あたしは事実を伝えてるだけなのに……そうだよね美月」
「嘘だということぐらい、私にも分かっています。こういう時は否定なさい」
「わっ、私は……」
こんな形で伝えるつもりじゃなかったのにどうして。
「殺した。私が……私が、葵のお母さんを殺した!!」
「本当……ですの?」
「そうだよ美月は"嬉々とした表情"で葵のお母さんを殺したんだから!!」
……葵と一緒に過ごせるのもこれで最後かな。
「分かりました。私は美月の言葉を信じます。そしてミコト、アンタが嘘を言っていることも分かりました」
「あたしが嘘だって? 何を根拠に」
焦っている柊さんを横に葵は私を庇い始めた。
「アンタは美月ことをな〜にも分かってませんのね。美月が感情を取り戻し始めたのは最近ですわよ母上を殺したのが事実だとして、嬉々と殺せる状態ではないことぐらい想像できますわよ」
葵の表情を見て私は理解した。
葵は復讐したい気持ちを押し殺しながら私を庇っている。
私はこんな時に蛍の言葉を思い出していた。
『人間らしく死にたい』
葵と接しているうちに感情を取り戻して罪悪感で押し潰されそうになった。
分かっている。感情を取り戻したばかりなのにそんな状態になるわけがないと私自身が理解している……はずだったのに。
葵は私が魔物と知っても『些細なこと』と言ってくれた。
だったら、私の願いは……これしかない。
"葵の願いを叶えて人間らしく死ぬこと"
「葵、それ以上庇わなくていい。私が葵のお母さんを殺したのは事実だから。それと葵の一番したいことを聞かせてほしい」
葵は涙を流し言葉を詰まらせながら『復讐』と答えた。
その後も何か言っていたけど、それが聞ければ私には充分だ。
「今から叶えさせてあげる」
「美月、何をする気……そんなの今じゃなくても……それに復讐の方法は色々と」
「葵ははなから復讐相手を殺すつもりだった。そうでしょ? だったら躊躇う必要はないよ」
「美月が相手なら、殺す以外にも方法はありますのよ!!」
見かねた柊さんが、懐かしい魔法を葵と私に使った。
「惨め惨めに曝け出せ混沌たる欲を、惑い惑いて崩壊せよ、"幸福への想い(ヴァニテアビサル)"」
柊さんのこの魔法は対象が人間だと、割合の強い欲望を曝け出しその欲望のままに動かし自己を壊す魔法だ。
魔物相手だと生きていた時の夢が叶った風景を見ながら成仏出来る。
柊さんの魔法は魔物にとっての安楽死だ。
幸せな状態で逝けるのだから……でもそれは私の望みじゃない。
「柊さん、私にも葵と同じ効果にして」
「……どうして美月は、いつも誰かのために動くの? 私は美月の夢が叶ってほしいの!!」
柊さんの魔法を受けた葵は殺意を曝け出し私に向かってきている。
「柊さん、いつもありがとう」
「……こんな時にお礼なんてやめてよ」
柊さんは魔法の効果を葵と同じにしてくれた。
今の私の欲望それは一つしかない。
グサリ
葵は私に魔法を使いながら身体を切り刻んだ。
「私は葵とずっと一緒にいたい。たとえ生まれ変わっても」
……これで葵の願いを叶えて人間らしく死ねる。
満足だ。
柊さんの魔法の効果が切れた葵は私の様子を見て膝から崩れ落ちて泣いている。
膝から崩れ落ちるって文字通りだよ。
葵は身体を崩しながら私に近づこうともがいている。
「美月、ごめんなさい。私がしたんだよね…………私も美月と同じ想いだよ」
「ですわを忘れてるよ」
「いいの、遅くなってごめんなさい。ほんとはね、私"ですわ"なんて言わないんだ」
私と葵は最期の会話を楽しんだ。
葵にとって復讐心が一番強かったみたいだけど……葵の私と友達になりたい気持ちが強いのは分かってる。
未練を叶えてくれてありがとう、葵……貴女に出会えて良かったと心の底から思うよ。
読んでいただきありがとうございます!!
更新は出来る時にするからね




