第七十七話
第七十七話
数分泣き疲れた僕は眠気に襲われてしまった。
泣き疲れて眠るとか、子供かって嘲笑わられるだろうが、素直になった結果がこれだ。
雛に朱莉を踏みつけられた時に、源綾音のようだと拒否した方法で今回は自らを殴り右肩を消し飛ばした。
まさかあの時雛に開けられた右肩を消すことになるとは思いもしなかった。
もしあの時に掻っ切った血液で雛を攻撃出来れば、あのナイフの少女の親子を傷つけずに済んだのに。
血液操作ならば僕が傷ついた際の攻撃手段が増えて朱莉を守りやすくなるのに。
「治るからといっても風香ちゃんが傷つくのはみたくないんだけど」
「そうは言われても眠たくなったから、消し飛ばしただけだよ。……でも朱莉が嫌な思いするのに勢いでやってごめん」
「ちゃんと謝ってくれるなら許します。風香ちゃんにとっても私にとっても大切な身体なんだから次は私にも伝えてほしいな」
「次からは気をつけるよ」
血の匂いと黒が増えたんだ、何かが起こったのは確かなはずなんだ。
そんな時に眠ってなんていられない。
人魚の肉を食べてから普段なら回復魔法を使って回復する傷さえ治るようになっている。
ならば消し飛ばしても身体は戻る。問題なのは、それを朱莉が見ることだ。
「朱莉のおかげで気持ちが晴れたよ、ありがとう」
気持ちが晴れたおかげで頭が冴える。
あの時僕がおかしくなったせいで雛に朱莉が傷つけられた。
もう二度とあんなふうにはさせるわけにはいかない。
そう考えていたら、なぜか学校中の流れた血液の位置が分かる。
指を動かすと、目の前に溜まっている僕の血液を動かすことが出来た。
今できる段階といえば、血液の操作と探知だ。
探知で相手を見つけ出し、操作を攻撃手段とする。
これならば、香澄さんの言っていた基礎の補助・攻撃を補える。
回復は人魚プラス魔法で、補助と攻撃よりは扱える。
防御はまだなのが一番の課題だ。
「風香ちゃん、血液動かせるなら、なんかこう、強そうな武器とか作れないのかな? たまにアニメとかで出てくるでしょ……かっこいいじゃんアレ!」
「やってみるけど、上手く出来るか分からないよ」
頭に思い浮かんだものを試してみると血液操作で武器を生成することが出来た。
「どう朱莉の想像してたのと近いかな?」
「想像以上にかっこいいよ! それなら次は爪みたいなのもやってみてよ」
こんな状況を見られたら学校生活は破綻するのは目に見えている。
だけど、これ以上誰か傷つけさせるわけにはいかないんだ!
朱莉の要望に応えていたら、鏡に映った自分が猫みたいになっていた。
「ねえ朱莉、鏡見たら猫みたいになってるんだけどもしかして狙った?」
「……そっ、そんなことないよ。風香ちゃんのきっ、気のせいじゃないかな~」
口笛を吹きながら気を逸らしている。
「“血液操作・マタタビ” こんな名前にしようと思うんだけど、どうかな?」
せっかくなら二人で名前を決めたい、そう思っての提案だ。
こんな状況で何してんだって話にはなるけど、少しでも気を紛らわせたいのが本音だ。
さっき増えた黒を治しに行く前に、少しでも気持ちを落ち着かせたかったのだ。
「朱莉、そろそろ行こう。今度は三年一組の人たちの黒が濃くなってきてる」
たとえ学校生活が破綻するとしても見殺しにしてのうのうと過ごすよりはマシだ!
廊下には微かにお酒の香りが漂っている。
おそらくは僕の頭を撫でたあの女性だろう。
この先には教室以外に、屋上へ向かう階段も存在している。
待たせているのだから、治療は早々に終わらせなければならない。
「朱莉、複製を屋上に向かわせたいんだけど出来るかな?」
複製ならば僕と同じ魔法は使えるはずだ。
「それなら治療も出来て、約束も守れて良い方法かもね。任せて風香ちゃん」
朱莉が僕の複製を生み出したのは良いのだけど、三人もいた。
「どうして三人なの朱莉?」
尋ねた際の朱莉の言葉は納得に値した。
「三人なら、もし何かあっても二人で足止めして一人が私たちに知らせてくれるでしょ。警戒するならこれぐらいはした方がいいと思ってね」
そして三人の複製を屋上に向かわせた足で、僕と朱莉は治療に向かっている。
治療が終わったらミカエルさんから海外のこと聞いてみよう。
咎を殺すためには世界を見聞きしなければならない、それもあるけど……朱莉と旅行に行った時におすすめの場所を知っておきたい。
今とは関係ないことを考えて落ち着くことがもはや癖みたいになっている節がある気がする。
教室に近づくほど、黒と血が見える中一点だけ黒や血が何一つない穴がある。
「朱莉、まだ元気な人がいるから僕が治してる間にその人を逃して」
「出来る限りやってみるけど、状況次第では風香ちゃんを優先するからね!」
朱莉ならば、そうすることは分かりきっている。
「その時は僕が逃すように頑張るから、朱莉は素直に行動してくれる方が、嬉しいよ」
他の人に入り込まれないように、結界として僕の血液を動かし、監獄のようにした。
今回は監獄と称したけど、実際の形としては棺桶を想定している。
元の生活に戻ったあとに、僕と朱莉が眠るための棺桶を先に用意したということにはなるけど、いつかは眠る場所は他人ではなく僕自身で用意したい。
魔法が使えなくなる前に先に眠る場所を作れるようにするための応用とでも言おうか。
今の出来では守りより閉じ込めて血液罠を張り、治療を終えた人たちを外に出すための移動だ。
香澄さんみたいな防御にも、追加効果にも、毒にもなっていない。
改良の余地ありなのは、開発初期段階としては当然なんだ。
「朱莉、この教室には穴がある。もしかしたら”元気な人(魔法の元凶)“かもしれない。だから警戒は最大限にしておいてほしい」
最悪の想定はしておいて損はしないし……源綾音だった場合、死よりも恐ろしいことになる。
僕と朱莉の身体は自動で再生するけど、融解されては再生の度に溶けて原型を保つことが出来なくなってしまう可能性すらある。
そんな懸念を扉を開けながらしてしまった。
「早かったね。風香、それに朱莉も。外の棺桶の美しさには咎様と出会っていなければ入ってみたいとさえ感じてしまう程の良い出来だよ」
扉の先に肉塊を喰らい再生させ動作を繰り返し立っている、顔を歪めた源綾音だった。
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