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第九話 処刑

「国王!」

ルシファーのもとに仲間が駆けつける。

「ご無事ですか……」

「ああ、しかし中で氷刹が」

雷轟がドアノブに手を触れて、扉を引く。

「っ! あかない」

扉は固く閉ざされている。

「どけ!」

炎帝が割り込み、扉に炎を放つ。扉を破壊し、かつて戦場だった間へ立ち入る。

「!!」

中にあるのはそこかしこに散らばる血とぽつんと地面に落ちている氷刹の片腕。その腕は自身の剣をしっかりと握りしめていた。

「氷刹!!」

彼らはあたりを見回すが、氷刹の姿は見えない。炎帝は氷刹の片腕を持ち、彼の剣を取る。

「おまえ……」

「国王様!!」

ある兵士が駆けつけ、ルシファーの前で前で跪く。

「どうした」

「これを」

氷刹の処刑を宣言した紙を手に取る。

「氷刹」

周りの者達が反応する。

「日程は!」

「6時間後……」

「お前ら!」

炎帝が声を荒らげる。

「出陣だ!」

「何を言ってる!」

風漸が反論する。

「口答えするな。すぐに行くぞ!今すぐにだ!!」

「落ち着け炎帝」

「落ち着いていられるか!仲間がやられて!!」

「理解に欠ける」

「それはお前らの方だ。氷刹がやられて、殺されそうで……そんな状況で冷静にいられるお前らのほうがよっぽど理解できないね」

「行きたいのはやまやまだ……」

毒魔が口を開く。

「けれど、落ち着いて考えてくれ。宵の国の兵力は絶大だ。明の国とは比べ物にならないくらいの。それに、全兵力を投入してしまえば、この国の守りが丸裸になってしまう」

「なら、俺だけでも行く」

「何を!」

「それなら問題はない。お前らは国を守れる。俺は氷刹を連れて帰る。何も問題はないはずだ」

「一人で何ができる!」

「何もできないさ。氷刹を連れて帰ること以外はな」

「諸君」

今まで黙っていたルシファーが口を開けた。

「今回の一件は我の過ちが生み出したものだ」

「主……」

少し口角を上げる。

「これより、明けの国。全兵力を持って宵の国に攻め入る!出陣は10分後!準備をぬかるなよ。兵士、ともに刃は我が直々に指示を取る!必ず、氷刹を奪還する!」


「コウ。状況はどうなっている」

「滞りなく準備が行われております」

窓の外から広場の方を見下ろすと、木で組まれた処刑台が完成している。

「今からここは戦場になる。住民はすべてこの城の地下に避難させろ。現場の指示はスキアに任せる」

「了解しました」

コウは一礼してすぐに立ち去っていく。


「氷刹」

氷刹はゆっくりと目を開ける。

「なんのようだ、コウ」

「これから、あなたの処刑が行われます。ついてきなさい」

抵抗できないので素直についていく。外に出て処刑台に上がった途端、景色が晴れただろう。周りには不自然なほどに兵士が配置されている。

「きたか」

氷刹からおよそ100メートルといったところか。ルシファー率いる明の国の兵士たちが一斉に現れた。

「これより氷刹の奪還作戦を開始する。突撃!!」

ルシファーが指示を出すと兵士たちが一斉に攻め込んでくる。

「……兵士たちよ。迎え撃て」

スキアが兵士に指示を出し、互いの兵士がぶつかった。

「”炎の証”」

「”稲妻の証”」

「”毒の証”」

「”風の証”」

「”大地の証”」

「”九尾の証”」

「”龍の証”」

すべての兵士が力を解放し、人の群れの中へ突っ込む。

「氷刹!!」

「炎帝……」

粉塵爆発(ふんじんばくはつ)‼」

兵士を蹴散らしながら氷刹の下へ一直線に進んでいく。

「ずいぶんと優秀な兵士たちだ……なるほど、これがあいつの言う刃と呼ばれる人物たちか」

ルシファーは馬から降りて戦場に向かう。

建御雷神(タケミカヅチ)

毒霧どくきり

雷轟と毒魔が兵士を蹴散らし、ルシファーの道を作る。

「……」

スキアは剣を構える。

「”◼の証”」

ルシファーの方へ黒い斬撃が飛んでいく。しかし、ルシファーは何食わぬ顔でそれを弾いた。

「ルシファー」

「またもや我の命を奪いに来たかコウとキュウよ」

「ヴェスペロ様の名にかけて」

「ここであなたを食い止める」

「やれるものならやってみろ。青二才」

剣を振り抜き、渾身の力を込めて振りかざす。生じた風圧であたりの兵士は吹き飛んでいく。コウとキュウもまともに動けない。これは……

「国王!!」

氷刹が叫ぶ。縄で繋がれているため身動きはできない。

「みんな……」

スキアが再度剣を構え力を込める。

「させない! 氷霧(こおりぎり)

スキアの体が凍る。しかし、そのまま斬撃を飛ばす。が、斬撃は逸れた

「……」

スキアは無言で氷刹の方を見る。

「く……」

スキアは氷刹に斬りかかる。

「氷刹!!」

間に瀧昇が割り込む。

龍の鱗(りゅうのうろこ)

スキアの攻撃は防がれた。

不知火(しらぬい)

白狐も入り反撃する。

「氷刹大丈夫?」

「あ……あぁ」

瀧昇が氷刹に巻かれているロープを切る。

「ありがとう」

「別に?」

瀧昇はすこしおどけたように告げる。

闇ノ手(やみのて)

地面から闇の手が出てきて彼らを襲う。

「瀧昇!」

白狐の声に気づき、かろうじて防御はできたようだが2人共処刑台から弾き飛ばされてしまった。

「っ瀧昇! 白狐!」

「ヴェスペロ様の命だ。おまえに生は与えない」

「くっ……」

「氷刹!」

遠くで戦闘をしている炎帝が氷刹めがけて剣を投げる。それは氷刹の足元にちょうど刺さった。

「俺の……」

「使え! おまえの剣だ」

「……全く、君に借りを作ってしまうなんてね」

「今に始まったことじゃねぇ!あとでたっぷり、頭数揃えて返金してもらうぜ!」

「望むところだ!」

剣を抜き取って構える。あたりに冷気が立ち込める。

「”氷の証”」


「この気迫、人生の大半を鍛錬に注ぎ込んだかのような……」

「コウ、キュウ。下がれ」

「ヴェスペロ……様……」

ルシファーの前に立つ。

「ヴェスペロ」

「久しぶりだな、ルシファー」

「ヴェスペロ、氷刹を返してもらう」

「おいおい、せっかく感動の再開を果たしたんだ。昔の思い出話にでも花を咲かせようではないか」

「俺はおまえと話をしに来たのではない」

ルシファーの体からオーラが現れる。

「問いただすことはおまえと戦いながら問いただす」

「いいだろう、やり合おう。昔のように」

周囲の大地が揺れる。空気も揺れる。お互いにずいぶんと力をつけたようだ。

「”太陽の証(たいようのあかし)”」

「”月の証(つきのあかし)”」


「よくもまあ片腕で」

スキアが氷刹の攻撃を受け流しながらつぶやく。

氷雨(ひさめ)

スキアの頭上から無数の氷の塊が降り注ぐ。スキアは地面に剣を突き刺し、そこから大量の影を放出、傘のようなものを作り出すことでこれを防いだ。

「このままではジリ貧か……」



「はっはっは……大きな声を出さなくても聞こえてるぞ」

「俺はおまえに説いたはずだ。その力は人を支配するためではなく。人を救済するための力だと!」

「うるさい奴だな! この力をふるうにはいちいちお前の許可を取る必要があるのか?」

ルシファーの踏み込みに合わせ、剣を振る。

「そういうことではない。今は力の使い方を説いているんだ!」

「そうかい。俺から見れば、お前のほうがその力の使い方を間違えているように思えるぞ!」

ルシファーを弾き飛ばすが。やはり、何事もないように受け身を取る。

「もういい……」

ルシファーはそう言い放つと

「宇宙の原始……」

と唱え力をため始める。

「闇夜を打払う一筋の光……」

こちらも正面から技を打つほかない。

「ビッグバン‼」

孤明歴々(めいれきれき)

お互いの奥の手。だが、威力は最低。しかし、激しい衝撃を生み、周囲には砂塵が起こる。

「……この程度の攻撃で戦線が崩壊するなんて、兵士の質が悪いんじゃないか?」

「その言葉。そのまま返却してやる。ヴェスペロ」

一瞬にして数メートルの間合いを詰めたルシファーに対応しきれず、思わず剣をはじかれてしまった。剣は宙を舞い地面に突き刺さる。ルシファーは剣を取りに行かせないようにのど元に剣を突き出す。

「もうやめろ、ヴェスペロ。お前が俺に勝ったことは一度もないはずだ」

「確かにな」

突き出された剣を弾き飛ばし、合気でルシファーを地面に叩きつける。そして、自分の剣を拾い上げルシファーに突き出す。

「おまえが俺に勝ったことも一度もない」

しかし、ルシファーは刃を掴んだ。掴んだ部位から血が垂れていく。

「先刻いったはずだ。俺はおまえにかまっている暇はない!」

掴んだ剣を振りほどく。

世界の夜明け(おるとろす)!!」

ルシファーが技を出す直前に動きが止まる。胸に黒い刻印が浮き出し、心臓を抑えて苦しみ始める。


花氷(はなごおり)

そのころ、スキアと氷刹は激しい剣劇を繰り広げていた。

「あと、10分……」

ちらりと太陽を見やると、静かに呟く。

「よそ見している暇はあるのかな!」

氷刹の剣を軽く躱し、距離を取る。

「このままではジリ貧か……」

目の前で剣を構える氷刹を見ながら呟く。

「”氷の証” (ごく) 氷魔(ひょうま)絶零(ぜつれい)氷塊(ひょうかい)!!」

切っ先から漏れ出る冷気が氷刹全体を包み込む。冷気と一体になった氷刹から膨大なエネルギーを持った一撃が繰り出される。

「ブラックホール」

スキアも技を繰り出す。氷刹の攻撃が相殺されたかのように思えたが、スキアの攻撃は氷刹に届いていた。

「くっ」

傷口を押さえながらスキアの方を振り返る。

「汚い手ですが、致し方ない」

そう告げたかと思うと、処刑台の下の混戦状態にある戦場に技を放った。黒い斬撃は戦場の上空を低空飛行し、はるか先で心臓を押さえているルシファーの地面にぶつかった。

「国王!!」

ルシファーは体制を崩す。周りに散らばっている明けの国の兵士たちは総員ルシファーの方に気を取られる。

「っ!」

地面に血が垂れる。剣を伝って。スキアの剣は氷刹の心臓を的確に貫いた。

「定刻通りに……執行しました」

スキアは静かに剣を抜く。氷刹はあっけにとられたような顔をする。が、じきに口から血を吐き出し地面に片膝をつく形となった。氷刹は声にもならない大声を上げながらなんとか立ち上がり、スキアへ歩み始める。

「こおりの……あかし……」

おぼつかない足取りで、歩いていく。地面には大きな血溜まりができている。人間の失血の許容範囲を大きく凌駕している。

「こ……な……ふぶ……き……」

最期の一太刀。スキアの左頬に切り傷がついただけ。

「氷刹!」

戦っていた宵の国の兵士を吹き飛ばしながら氷刹の下へ駆け寄る炎帝。地面に倒れた氷刹の頭を持ち上げて声をかける。

「氷刹!しっかりしろ氷刹!」

閉じていたまぶたをゆっくり上げながら炎帝の方を見つめる。

「えん…てい…」

「氷刹」

「おれは……も……なかった……」

かすれて何を言っているのかもわからないような声で話し続ける。

「お……の……おも……い……すべて……たく……す」

氷刹から手がゆっくりと差し出される。しかし、炎帝がその手を取る前に地面にぱたりと落ちてしまった。瞳孔が開き、荒い呼吸の音が消える。手に触れてる部分の体温が徐々に失われてゆく。

「うあああぁぁぁぁ!」

耳が張り裂けそうな咆哮を上げ、スキアに斬りかかる。怒りに任せた攻撃は単調であり、造作もなくスキアは回避する。

「闇ノ手」

地面に強く剣を突き刺したかと思うと、黒い樹木のような手が炎帝を襲う。炎帝は応戦するが圧倒的な物量の前に弾かれてしまう。

「くそ!」

炎帝の手元には折れた剣と眠るように死んでいる氷刹だけだった。

「炎帝」

地面に手をつく炎帝に風漸が近寄る。

「炎帝。国王がやられた。撤退するぞ」

それを聞いた炎帝はゆっくり立ち上がると風漸に背中を向ける。

「そうか……お前たちは先にいけ」

「は?」

「こいつはおれがやる!」

「何を言ってる!」

「氷刹が殺された……」

氷刹を指さしながら言う。

「あいつがやった……敵を取る」

「落ち着け炎帝!感情的になるな!」

炎帝の肩を掴み必死になって止める。

「周りをよく見ろ!兵士も俺達も!もう限界だ!これ以上戦えば全滅する!」

明けの国の兵士たちは徐々に撤退していく。

「俺達の目的は何だ!私情を挟むな!今おまえは何をすべきなんだ!」

少しの間あたりを見回していた炎帝は歯を食いしばる。

「俺達の目的は……氷刹を奪還すること……」

なんとか吐き出てくる言葉を少しずつ出していく。

「氷刹の意思は……魂は……回収した……」

それを聞いた風漸は少し微笑んで兵士に撤退の指示を出す。炎帝は再度スキアに向き合い、話す。

「おまえ……名前は」

「……スキア」

「そうか……おれの名は炎帝!覚えていろ!おれは必ずおまえを殺す!必ずだ!」

炎帝は氷刹の遺体を抱え、その場から去っていった。

「……ヴェスペロ様!」

スキアが遠くから叫ぶ。

「深追いはしなくていい!負傷した兵を順番に治療しろ!」

戦場の跡を見るとその激しさが伺えた。

「やつらはもう一度くる」

振り返り城へ歩いていく。

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