第十話 出撃
「どうだった雷轟」
雷轟は静かに首をふる。
「体調はどんどん悪化している」
「やはり国王は行くべきではなかった。お身体のこともあった。ここで安静にするべきだった」
悔いる風漸の肩に雷轟が手を置く。
「お前のせいではない。これは国王にあまえ甘えてしまった自分の責任でもある」
「あぁ……」
「そういえば、炎帝はどこに?」
「炎帝は自室にいる」
風漸が淡々と告げる。
「主が炎帝を呼んでいたのだ」
雷轟と風漸の炎帝の自室に向かった。
戸を叩きながら風漸が声を掛ける。すると、すぐに中から炎帝が出てくる。
「炎帝。何も変わりないようだな」
「あぁ、てっきり塞ぎ込んでるものかと」
炎帝は少し微笑むと二人に告げる。
「確かに、少し前の俺ならこの世界に絶望して身投げしていただろうさ。だがな、今の俺には生きるための理由がある。こいつとともにあの宵の国を打ち砕く」
剣を掲げる。
「氷刹の……」
「あいつの意思、魂、力……すべて俺が継いだ」
「意気込んでいるところ悪いが、貴方には主から呼び出しがかかっているんだ。言ってくれたまえ」
炎帝は静かに驚いたがすぐに承諾し、ルシファーの自室に向かった。
「国王様、入ります」
丁寧にノックし扉を開ける、中にはぽつんとベッドがあるだけでほかはなにもない。それもそのはず、ルシファーは自分の私物は基本的に書斎においているからだ。炎帝は静かにルシファーの横に立つ。
「炎帝」
「我はもう長くない」
「わかるのですか。いや、そんなことじゃない。どうしてそんなことを」
「まぁ、病には誰も勝てないな」
「国王様」
「お前に我が持つ統帥権を譲渡する。お前が我に代わって兵士たちを、刃を導くのだ」
「どうして、俺なんかに」
「お前は自分が戦いながらも、他の兵士のことを気にしていただろう。大丈夫だ。この俺が直接選んだのだ。自信を持て」
炎帝はしばらくうつむいていたが、顔を上げるとルシファーの手を取り胸に当てる。
「炎を司る者。炎の証の炎帝。この度、全兵力を持って宵の国を攻め落とします。長き戦いに終止符を!」
ルシファーは部屋を出ていく炎帝を笑顔で見送った。
「総員、戦の準備を!これより最後の戦だ!決戦の日時は5日後!新月の闇に紛れて宵の国を奇襲する!」
5日後、炎帝率いる明けの国の全兵力は宵の国に向け馬を走らせた。
「俺の刃を……侮るなよ……ヴェスペロ」
わずかに繋ぎ止めていた糸がぷつんと切られたようにルシファーは息を引き取る。
「ふふふ……あははははははははは!!」
どうしようもない笑いがこぼれ落ちてくる。滑稽でも面白いでもない。何から来るのかわからない笑い。驕りでも恐怖でもない。頬にあつい何かが伝う。
「ようやくだ。ようやく。この長き戦いに終止符が打たれる。生き残るのはそちらか。それともこちらか」
知っている。そう。知っているさ。この感情の正体を。殺せなかった。絶対的な隙がありながら、チャンスがありながら。手に持っていた剣を首筋に振り下ろすことができなかった。でも、殺さなくちゃいけなかった。殺す必要があった。だから、頼んだ。呪いに。自分の知らないところで殺した。幼いときからの友達、かつての仲間。そして今の敵。彼の死を感じる悲しさ、彼の死の喜び。だから知っている。この感情の正体。




