第十一話 超えるべき壁
宵の国に到着した炎帝たちは兵士たちを待機させ、刃だけで城の内部に侵入していく。
「やあやあ」
城内を走っていたところで物陰からコウとキュウが現れる。
「少数精鋭なのかな」
「お前ら」
「ヴェスペロ様のところへは行かせない!」
炎帝が少しずつ前へ歩く。
「事の発端はすべてお前らだ」
「減らず口だな……いいよ。死ね」
コウとキュウは腰から剣を抜く。
「時のあか……」
力を開放しようとしたとのときだった。炎帝は目にも止まらぬ速さで二人を斬り伏せていた。
「邪魔だ……雑魚はそこのけ」
刃たちは再度城の最奥部へ向けて走り始めた。
「ヴェスペロ様」
「どうしたスキア」
「殿を務めます」
それだけ告げると、出口へ歩いていった。
「死ぬつもりだな」
振り返るととぼけた顔で「はて」、と言う。
「とぼけるな。俺の知ってるお前はそんなことを言わない」
バレたかという笑みとともに告げる。
「路頭に迷っていた私を拾ってくださったのはあなた様です。あなた様に見つけられていなければこの命はすでになかったでしょう」
「スキア」
「私の命はとうの昔に終わっています。ただ、ようやく死に場所ができたといったところでしょうか」
もう、何を言っても止められない。
「わかった。お前の最期、死にざまを見守ろう」
スキアは遠くの闇の中に消えていった。
「待て!」
先行していた炎帝が皆を静止させる。だだっ広い道の真ん中で守護者のようにスキアが佇んでいる。
「久しぶりだな」
「……」
炎帝は後ろのみんなに先に行けと指示を出す。みんなは戸惑いながらも先へ進んでいった。
「おい、俺は先に行けといったはずだ。なんでいるんだ風漸」
「安心しろ。お前の敵討ちの邪魔をするつもりはない。だが、お前が死ぬのは全力で邪魔させてもらう」
炎帝はその言葉に鼻で笑う。
「私は別に2対1でも構いませんよ。炎帝」
「ちゃんと覚えてくれていたのか。光栄だな」
「貴方が覚えていてくれたからにはこちらも覚えていなければ無作法でしょう」
「そうかよ。卑怯な手は使わない。あの世の氷刹に顔向けできないからな」
「そうですか」
炎帝は剣を抜く。その剣は彼のものではない。今、目の前にいる者が命を奪った彼のものだ。
「お前の主が国民に慕われていても。そしてお前が苦しんでいる人を無償で助ける聖人だとしても。俺が殺す」
「いいでしょう、来てみなさい。炎帝」
「”炎の証”」
炎帝は力を開放し、スキアとの間合いを詰める。
「焔」
「”陰影の証” 昏天黒地」
炎帝の攻撃を正面から叩き潰す。
「あついですね」
「まだまだ序の口だ」
間髪入れずに炎帝は攻撃を繰り出す。
「そう……あついからこそ、分かりやすい」
するとスキアは一瞬で炎帝の背後を取る。
「日輪赫赫!!」
剣に炎をまとわせ突き技を繰り出す。
「は……」
手応えがない。炎帝はただ空を突いていた。
「粉塵爆発!!」
炎帝を中心として爆発が起こり、周囲の視界が悪くなる。
「視界は塞いだ……」
炎帝がスキアの頭上を取る。
「とった!!」
まっすぐに剣を振りかざす。切っ先がスキアに触れかけた一瞬。炎帝の剣はスキアが振りかざした剣に弾かれてしまう。
「おかしいな……いまのを防いだのはお前が初めてだぜ」
「失礼しました。私は……生まれながらに目が見えないのです」
「どうりで」
「はい。ですから、私に目眩ましをするのは意味がありませんよ」
そう言いながら剣を高く掲げる。
「伏魔殿」
スキアの足元を中心にして円状の陰が出現する。まるですべてのものを飲み込んでしまいそうな暗く、深い黒。そんな漆黒の空間から無数の柳のような陰の手が現れ、周囲のものを暴れて破壊し始める。炎帝は柱などを盾にしながらスキアの周囲を回る。
「目が見えないなら一体どうやってるんだよ」
向かってくる攻撃を躱したり、剣で防いだりしながら考えをまとめる。
「思い出せ。やつの行動、言動のすべてを」
炎帝は自分の中に眠る記憶のすべてを探る。氷刹の処刑から今の戦闘。それらすべてを探る。
―あついですね―
炎帝は攻撃をかいくぐり、スキアとの間合いを詰める。
「熱か!」
「コレクト」
両者の鍔迫り合いで火花が散る。
「熱とわかったからには!」
スキアを跳ね返す。
「簡単だぜ!」
「それはどうでしょう!」
スキアは剣を地面に突き刺す。
「ノイテ」
暗黒空間が生み出され周囲の空間を飲み込みながら広がっていく。
「そんなしみったれた技が通用するか!我慢は毒だぜ。やけどしちまわないようにな!」
剣を空中で振る。
「神文鉄火!!」
スキアの暗黒空間を消し去るほどのまばゆい光が周囲を照らす。そして蜃気楼が発生するほどの熱が周囲に立ち込める。
「ここから反撃だ」
「望むところです」
炎帝はあちこちを飛び回りながら攻撃していく。スキアのからくりを理解してそれ相応の対処をし、自分に有利は場を作った炎帝は戦いを有利に進めていく。スキアも対応しようとするが、先程よりも動きの精度はよくない。
「以前に比べれば位置が分かりづらくなった……だが、動き続けている分、体温は上がり続ける」
次第にスキアは炎帝の剣戟を受け流し始めた。
「ここで終わらせる!」
スキアとの距離を取った炎帝はスキアに向かって再度一直線に突き進み始めた。
「やつとの距離……」
スキアは剣を振りかざす。
「炎柱!!」
斬撃を上に躱し、地面に炎を放ち反動で自身を空中に吹き飛ばした。
「視えている!」
スキアは再度剣を振るう。
「シュヴァルツシャッテン」
その時、スキアの左頬を中心として体が凍り始めた。スキアは凍る身体に抗おうとしているが氷を砕くどころか、むしろ凍結を加速させてゆく。みるみるうちに身体が凍っていき全身が凍結され身動きが取れなくなった。
「氷刹……」
最期の一太刀が最大の局面で一矢を報いた。
「お前……ずっと近くにいたんだな……」
炎帝が手に力を込めると剣から有り余るほどの炎が猛る。
「”炎の証” 極 天道真炎流星火!!」
「体は無事か。炎帝」
「問題ねぇよ。ここでくたばっちゃ、本末転倒だ」
「心配は無用だったようだな」
「当たり前だ……ここで話してる暇はない。急ごう」
「あぁ」
炎帝と風漸は城の最奥部へ向けて走っていった。




