第十二話 主人公
出血した部位を押させて地面に膝をつく。それが5人。圧倒的な力を魅せられてなお、闘志が消えない。
「まだまだ!」
毒魔と雷轟が連携を組んで向かってくる。自分の力を活かしきれていない。攻撃も単調。
「(弱いな)」
剣を大きく振るうとその衝撃に2人は飛ばされた。
「強すぎる……」
白狐が言葉を漏らす。
「ああああぁ!」
龍昇が立ち上がって向かってくる。剣筋を読み、それを防ぐ。そして、攻撃をする。龍昇は防ごうとするが、わずかに速度が足りず攻撃を受けてしまう。
「くそ……」
「(そろそろか)」
「”炎の証”」
「”風の証”」
部屋の奥から炎帝と風漸が飛び出してくる。
「日輪赫赫!!」
「裂葉風!!」
「(高威力)」
2つの攻撃を弾くが彼らは間髪を入れず攻め続ける。
「炎帝!風漸!」
「雷轟悪い!遅くなっちまった!」
「やつは!」
「殺った」
「左様で……」
「遅れちまって悪いな。主人公は遅れてやってくるのが上説ってもんでよ」
「(主人公?)」
炎帝は剣を構える。
「行くぜ。お前がこの世界を歪めた諸悪の根源だ」
「……」
「焔!!」
一瞬視界から消えたかと思うと、次の瞬間には直ぐ側に来ている。剣で弾くがそのまま攻撃を続行する。
「凶風」
風漸も加勢する。息のあった連携にこちらが押されてゆく。
「これで終わらせる!行くぞ風漸」
炎帝が渾身の力を込める。
「火炎!!」
「大旋風」
風漸が出した竜巻に炎帝の火が交わり、炎の竜巻となって迫ってくる。
「2人共!」
遠くで雷轟が叫ぶ。
「気をつけろ! あいつは!」
自分の手に力を込める。
「”証”の力を使っていない!」
炎帝と風漸が雷轟の方を振り返る。
「”月の証”」
力を開放した衝撃波で目の前の炎が消える。壁にもき亀裂が入り、瓦礫が倒壊する。瀧昇、白狐、雷轟、毒魔、風漸、炎帝、地海は声を出すこともできないようだ。
「さぁ……誰から来るか?」
炎帝が歯を食いしばる。
「行くぞ……お前ら。俺達が明けの国の希望だ。命に変えても打ち取るぞ」
彼らは一定の距離を明けながら、四方に散る。
「鑽火の神事」
「塵旋風」
「界雷」
「蛟竜毒蛇」
「震天動地」
「不知火」
「龍吟虎嘯」
各々が同時に技を繰り出す。
「朔」
一瞬七斬の攻撃をするとみんな散り散りになって弾き飛ばされる。
「舐めるな!!」
瓦礫の中から炎帝が飛び出す。
「粉塵爆発!!」
それの攻撃に合わせて雷轟も距離を詰める。
「建御雷神!!」
「三日月」
炎帝と雷轟の攻撃を弾く。しかし、絶えず他の刃が剣を向けてくる。
「毒霧!!」
「天地天頂!!」
毒魔と地海が来る。このまま長々と相手をするのは時間の無駄だ。
「(一気にかたをつける)」
剣に力を込める。
「十六夜」
まばゆい光が周囲を包み、刃たちは皆光に弾き飛ばされる。
「ま、まだだ!!」
瀧昇が馬鹿正直にまっすぐ走ってくる。
「孤月霧幻」
向かってくる龍昇を正面から叩き潰した。瀧昇は攻撃の直撃を防いだものの壁際まで弾き飛ばされ、その場にうずくまる。
「まずはお前からだ」
切っ先を瀧昇に向けて力を込める。
「弓張り月」
剣をおおきく振りかぶって斬撃を放った。周りの刃はそちらを向く。
「瀧昇!」
思わず目を瞑った瀧昇が目を開けたときは周りが血だらけだった。龍昇は一切の傷を負っていない。そして、すぐ目の前の状況を見て声を荒げた。
「白狐!」
白狐が瀧昇をかばっていた。白狐は腹の中心から右半分にかけてが右腕もろともバックリ裂けている。傷口から溢れんばかりの血が流れ出る。
「白狐!しっかりしろ」
「瀧昇……」
そんな中でも炎帝、雷轟、地海、毒魔、風漸は攻撃の手を緩めてこない。
「体が動かねぇよ……」
「白狐!待ってろ今すぐに止血して!」
「瀧昇。無駄なことをするな、俺はどうせ助からない」
「そんなこと言ったって!やってみなきゃ!」
「いいから……落ち着け……俺の話を聞いてくれ……」
「白狐」
「覚えているか……俺達が初めて国王様に会ったときのこと」
「あぁ。昨日の事のように覚えている。片時も忘れたことがない」
「その時国王様が言ってたこと覚えているか」
「言ったこと?」
「”証の力”はこの世に同じものはただ一つとしてない。俺の力は九尾。お前は龍。どちらも”生き物”の力だ」
「白狐……何を言ってる……」
「もともと俺とお前の力は1つだった……けど、その力が2つに別れた。それが龍と九尾だ」
白狐は左手を瀧瀧昇の目の前に持ってくる。証を持っている証の刻印が刻まれている。それを見た瀧昇は自身の左手を見る。そしてそれらを重ね合わせる。
「違和感が……あるだろ……なんでお互いの刻印が……」
そこまで言いかけたところで大量の血を吐血する。
「白狐!」
「……時間が……ない」
白狐は瀧昇の左手を強く握りしめる。
「俺の力をお前に移す……倒せ……必ず……」
白狐の左手がかすかな光を灯す
「受け取れ!瀧昇!」
白狐の全身が光り輝いたかと思うと細かい粒子となって瀧昇の左手から彼の体内に取り込まれていく。
「力が……」
瀧昇の体の中に白狐の力が取り込まれていく。
「……任せろ、白狐……」
瀧昇は体の中にいるであろう白狐に向けて囁くように言う。
「俺が必ず!」
地面に落ちている白狐の剣を左手に持ち、自身の剣は右手に持ってある歩いてくる。ゆっくりと、けれど簡単に攻められないような威圧感を感じる。
「残月」
周囲に斬撃を放って刃たちを弾き飛ばす。
「お前が奪った命。そのすべての責任を取らせる。覚悟しろヴェスペロ」
「お前にはお前の正義がある。俺には俺の正義がある。ただそれだけのことだ」
瀧昇は左の剣を強く握りしめる。
「行くよ、白狐」
九尾の刻印が新たに刻まれた。
「”妖の証”!!」
瀧昇が証の力を開放する。瀧昇の力の奥に別の力を感じる。
「妖艶妖星」
予備動作なしで繰り出された攻撃は以前までのものとは比べ物にならない威力だった。だが、攻撃は逸れ後ろの柱にあたった。
「どうした?」
「いやぁ、初めての技だからよ。力の入れ方がわからずそれちまった……でも、もう慣れた」
「期待しておこう」
両者互いに剣を構える。
「(相手の力の根底がわからない以上、こちらから手を出すわけにはいかない)」
「丑寅・艮」
相手が先に攻撃をする。体の数倍の大きさがあるだろう広範囲の攻撃。避けるのは無謀だ。
「青月」
こちらも攻撃を放ち、威力を相殺させる。生じた爆風。あたりを舞う砂煙の間から瀧昇の表情が伺えた。彼は浮かべていた。不敵な笑みを。こちらもなぜだかわからないがつられて笑ってしまった。その最中、瀧昇は連続して攻撃を放ってくるので、それを捌きつつ距離を徐々に詰めていく。弾かれて行き場を失った斬撃が周囲の瓦礫を切り刻む。
「りゅ……瀧昇……」
剣撃の衝撃で目を覚ました炎帝が瀧昇の表情を確認する。
「だめだ……このままじゃ」
もともと1つだった力が本来の形を取り戻した。ただそれだけに過ぎない。それでもおな、ただの付け焼き刃のようなもの。
「どうした。先程よりも勢いが弱まっているぞ!」
「うあぁああ!」
瀧昇が咆哮を上げて勢いを取り戻そうとする。しかし、それも一時のものに過ぎず、さっきのように威力が落ちていく。
「なんとかして……瀧昇の助けを……」
炎帝が立ち上がるが、口から血を吐き出して地面に膝をつく。
「内臓を……やられたか……」
炎帝は左右を見る。そこには満身創痍ながら立ち上がろうとする刃達がいた。
「俺達では、あいつに太刀打ちできない。できるとしたら瀧昇だけだ」
「我々で全力で隙を」
「作るぞ!」
炎帝、雷轟、風漸の発言に総員頷いた。
「行くぞ!ここが正念場だ!」
炎帝、雷轟、風漸、毒魔、地海が一斉に向かってくる。
「”炎の証” 極 天道真炎流星火!!」
空中に飛び上がり、上空からの攻撃を試みる炎帝の攻撃をかわす。しかし、あたり一面火の海になり視界が遮られた。
「”雷の証” 極 雷神雷撃霹靂神!!」
一瞬スパークが頭上に走ったかと思うと体中に切り傷ができる。
「”風の証” 極 天籟天津風」
それと同時に風に紛れた斬撃でび微小のダメージが蓄積される。
「”毒の証” 極 瘴毒蛇花!!」
美しい深紫色の花が周囲に咲き、あたりの視界を更に封じる。
「”大地の証” 極 天上天下争乱震天!!」
地面が激しく鼓動し、亀裂が生じ足を取られる。周りを見ても激しい衝撃と砂煙で何も見ることができない。
「く……」
剣を振りかざし砂煙をかき消す。
「白狐……行くよ……」
砂煙が晴れるとそこには剣を構え、力をためている瀧昇の姿が確認された。
「”妖の証” 双極!!」
切っ先をまっすぐこちらに向け地面が割れるほど足を大きく踏み込む。
「瀧嵐昇白炎狐!!」
瀧昇の10倍ほどもある巨大なエネルギー波が発せられ、周りの地形を飲み込みながら進んでくる。龍のような荒れ狂う嵐。九尾が吐いたような白い炎。次第に自身との距離が縮まり、そのエネルギーの塊に体が飲み込まれた。するとエネルギーが大爆発を起こし、あたりに一瞬の閃光を散らす。周囲には砂煙がたつ。瀧昇はその周りにいる他の刃たちと顔を合わせると膝から崩れ落ちた。ほんのりと笑みをまとった表情となる。
「月とは何かを説明できるか?」
そう告げると一同、顔から血の気が引く。まるで恐怖に打ちのめされたかのような、絶望の縁に囚われたかのようなそんな顔をする。
「月は自らの力で光っているわけではない」
一歩一歩、歩みを進める。
「月は太陽の放つ光を反射しているだけ……」
刃たちはジリジリと後退する。
「太陽が紅く激しく輝くほど、月もまた強く、明るく自らを照らす」
剣を頭上に掲げる。破れた天井から空が見える。空を隠していた雲が晴れ、大きな満月がその姿を表した。
「あ……ぁ……」
「お、おかしい……今夜は!新月のはず!」
再度絶望する刃たちには見向きもせず剣を構える。
「ありがとう。お前たちとの戦いは楽しかった……」
時間がゆっくり流れるようなそんな感覚に陥る。
「望月」
剣を伝う赤い鮮血。それが滴り、地面に浮かぶ血の池に大きな波紋を作る。あたりには見るも無惨な死体が6つ散らばっている。すると、遠くのほうで足を引きずって歩くような音が聞こえた。
「ヴェ……ヴェスペロ様……」
失った右腕を強く縛りながら瀕死のコウが部屋の入口から声をかけてきた。
「……どうした……」
「キュウ……が……俺を……かばって……」
体を見ても確かに損傷自体は少ない。おそらくキュウが自らの身を賭して双子の兄をかばったのだろう。
「わかった。キュウのことはこちらでできる限り手を打っておこう。お前も休め。浅い傷ではない」
コウは一礼するとこの場から姿を消した。コウがいなくなったのを確認すると振り返り玉座へ向かう。
「太陽はその明かりですべてを照らせるわけではない。その何処かには必ず陰影が存在する。その陰影は光に忌み嫌われ、虐げられてきた。その陰影が集まってできたのがこの”宵の国”だ。そして、この国の国民の恨み、妬みは膨張し、明けの国を飲み込もうとしている。それは誰にも止めることはできない」
玉座に深く腰掛け、頬杖をつく。するとどこからともなく笑みがこぼれる。
「正義が勝つ? 勝った者が正義? 違う。勝つのはすべて主人公だ」
誰に話しかけるわけでもなく部屋中に行き渡るような声。
「この物語の主人公は……この俺だ……」




