狼と刃、刹那に相撃つ【4】
そして背を向け、山の中へと歩いていった
「驚嘆に値する!無比にして絶倫!一番選手、圧倒的な勢いで決勝戦に進出!同じく絶対的な支配力を持つ九条綾選手と相まみえる!」
大熊の声には少し疲れが混じっていたが、それでもなお情熱に満ちていた。
「初優勝以来、一度も敗北を知らず、周知の通り人気を博する三連覇の支配者、九条綾!!!」
観客は沸き立つ。
「そしてもう一方は、異軍突起、知られざる過去を持ち、環境を巧みに活かした華麗なパフォーマンスを見せる、孤鍵!!!」
「本来であれば異名で呼ぶのは適切ではないかもしれませんが、彼らにはこの栄誉が値します!!!」
大熊の声がドームの下に響き渡る。
観客席では、二つの応援の波がぶつかり合い、まるで二つの海の波が打ち寄せるかのようだ。
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「実に見事だ。」
大熊の後ろから声が聞こえた。
大熊は気づかず、隣のアシスタントが振り返った。
「バイセック氏!どのようにお?……」
「どうした、前線を見に来てはいかんのか?」
その声は歩み寄るアシスタントを遮った。
「い、いえ……もちろん構いません。」
バイセックは拍手をしながら、自然に解説席の隣の席に座った。
「取締役、これは……」
バイセックの声はとても軽く、隣にいる者にしか聞こえないほどだった。
「気にするな。ただ、育てる価値のある良い芽を見つけただけだ。」
アシスタントは一瞬呆けた。
「もしかして、あなたは——」
「『ブラッドレイジ』は確かに古今無双だが……」
バイセックの視線はその黒い影に留まっていた。
「この芽には、その素質がある。」
彼の口元がわずかに上がる。
「誰もあまり変わってないな、はは。」
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{誰もあまり変わってないな、はは。}
「今回釣れた魚は、思ってたよりずっと大きいな……」
由夢は頭を掻きながら、すでに浸透済みの監視インターフェースをスクロールしていた。
「なんでこんなに使い勝手がいいんだろうね、K?」
彼女は軽く笑い、不満は一切なく、むしろ嘲弄と興奮に満ちていた。
そして彼女は振り返り、アレクサンダーを見た。
「Alex、考えは決まった?」
アレクサンダーは椅子の背にもたれ、とっくに冷めたコーヒーを手に持っていた。
「……断る理由は何もない。だが……」
アレクサンダーは珍しく複雑な表情を見せた。
彼は一瞬間を置いた。
「……完全に、世界の全てを敵に回すことになるのか?」
「その覚悟がないなら、私の方から突き返そうと思ってたところだよ。」
由夢は画面から視線を外した。
ほんの一瞬、アレクサンダーは何かが自分にのしかかってくるのを感じた。
もっと原始的な、もっと理不尽な何かが。
かすかに、翠緑の瞳が彼女の前髪の下で一瞬光ったように見えた。
「父親の名前を頼りに続けていくのは、ただ巨大な企業の中に、あってもなくてもいい痕跡を残すだけ……」
由夢は突然近づいた。アレクサンダーが彼女の瞳の中に映る自分の姿をはっきりと見ることができるほど近くに。
「……それとも、一暴れして、成敗の如何を問わず、世界に刻まれる歴史になるか?」
彼女は体を椅子の背に預け、口調はまた軽やかになった。
「もちろん、成功すれば英雄、失敗すれば罪人。ハイリスク・ハイリターン。」
アレクサンダーは長い間黙っていた。
そして何かを悟ったかのように、
「ハハハハハハハハハ!」
笑い声が空っぽの個室に響き渡り、大熊の実況よりも大きかった。
狂笑の後、彼は少し身だしなみを整えた。
「何言ってるんだ。リターンしかないじゃないか。」
アレクサンダーはこれまで見せていた取り澄ました態度を完全に捨て去った。
「どうあっても、君の技術を学べる。それに……」
「人生、退屈することはないだろう?」
由夢が残りの言葉を引き継ぎ、手を差し出した。
アレクサンダーは一切の躊躊躇なく、その手を握った。
二つの手は個室の影の中で握り合わされた。証人も、拍手も、フラッシュもない。
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「なんだか気持ち悪いな……」
孤鍵は後首を撫でた。何かがそこを這ったかのように。
「そんな風に見つめられることにか?慣れればいい。」
九条綾は向かいに立ち、刀を空中に浮かべて回していた。
「はぁ……」
孤鍵はため息をつき、改めて構えを取った。
「約束だ、手加減はしない。」
「望むところだ。」
九条綾は一気に刀を掴み、腰に据え、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「それでは!!!——」
関節を鳴らす音と刀がぶつかる音が、静まり返った競技場に響き渡る。
「始め!!!」
九条綾はその場から消えた。黒と赤の影は速すぎて、その場に残像を残すほどだ。
二秒足らずで、彼女は右足で蹴り出し、「V」字の軌道で孤鍵の左側に突進した。
刀鞘による横薙ぎ。
孤鍵は瞬時に反応し、左手で襲い来る刀鞘を迎え撃ち、一気に掴んだ。
「やはりな。」
孤鍵は左足で右足を蹴り、重心全体を右にずらす。彼は刀鞘の支点を借りて、体を振り子のように揺らし、頭を下にしてその刀の上に逆立ちした。
そして孤鍵が元いた位置には、地面に刀痕が現れていた。
この非常に速く、角度も厄介な奇襲はあっさりとかわされた。九条綾も微塵の狂いもなく、刀を引き抜いて体を入れ替える——
しかし、完全に抜き出せたのは刃だけだった。
刀鞘は孤鍵にしっかりと握りしめられていた。
彼はそれを脇に投げ捨てた。刀鞘は地面に叩きつけられ、二回跳ね、廃墟の中へと転がり込んだ。
「見たとおりだ。必ずお前に刀を抜かせると言っただろう。」
「つまらない挑発だが、その挑戦、受けて立つ!」
九条綾は縦に一振り。刀鞘に纏わせていた空気刃よりもはるかに鋭く、はるかに速い斬撃波が孤鍵に向かって襲いかかる。
孤鍵は体を回転させて移動し、センチ単位の精度で斬撃をかわす。
彼は右肘を上げ、九条綾が続けて放った二刀目を防いだ。
全体の動作と次の動きへの繋ぎは1秒にも満たない。九条綾の口ではすでに詠唱が始まっていた。
「【空刃・襲鷹】」
後方に跳び、もはや空気を刃に纏わせるのではなく、全力で推進力を強化し、突き出した。
「ちょ、ちょっと待って待って!!!?」
大熊は完全に呆然としていた。
「始まって30秒じゃないですか!?」
構わず、九条綾は左足で地面を踏みしめ、右足を引きずって体をドリフトさせ、その場で一回転し、突き出した方向とは逆に折り返す。
「本当に厄介な相手だな。」
孤鍵はその一瞬で吸収した空気の運動エネルギーを頼りに、空中へと跳び上がり、先ほどの攻撃をかわした。
彼は看板の鉄棒にぶら下がり、地上の九条綾を見下ろしていた。
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「こ、これは……」
「今、何が起こったんだ?!」
「速すぎて全く見えない。会話の時だけスロー再生で追える……」
「これぞ強者同士の対決だ!死んでも観る価値がある!!」
「おおおおおおおお!!!」
「おおおおおおおお!!!」
「おおおおおおおお!!!」
……
「刀の上で舞う!」
大熊は慌てて、交戦の合間にスロー再生された映像を実況しようとした。
「これはもはや戦術の対決ではない!芸術の体現だ!!」
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「これは正常な状況なのか?」
アレクサンダーが尋ねた。
「ただKが自分から遊びたくなっただけでしょう。」
由夢は十七の端末ウィンドウを切り替えながら、適当に彼に応えた。
「好きにやらせておけばいいよ。ふふ——」
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「判断力はなかなかだな。」
「君もな。」
九条綾は身をかがめて刀を収め、脚を弓歩に構えた。
深く息を吸い込み、
「【空刃・刺隼】」
孤鍵は両手で鉄棒を掴み、振り子のように後方へと飛び出した。
二人は空中で擦れ違った。
あまりにも近かった。
孤鍵が彼女の睫毛のカーブをはっきりと見ることができるほどに。
しかし今回は、落下の時間が孤鍵の想像よりも長かった。
「命中しなくても、空気を俺に纏わせることができるのか?」
風が空中で彼を引き摺っているのを感じた。
「【空刃・飛雀】」
二人とも空中に浮かび、九条綾が先に次の攻撃を仕掛けた。
無数の斬撃が彼女の周囲を包み込み、孤鍵に迫る。
「さあ、今のをどうやってかわすのか、見せてもらおう。」
孤鍵は煙幕発生器を【零域コード】の中に押し込み、内部でその装置全体を分解した。
内蔵された圧縮煙幕が一気に放出される。白い濃煙が一方向に噴出し、その反動で彼は反対側のビルの屋上へと押し出された。
攻撃は空を切り、九条綾は再び刀を収め、空中で一歩を踏み出す——空気が彼女の足元で一瞬凝固した——そして屋上に着地した。
「物を有効に使うとは……ところで、君たちはこういうものを使わないのか?」
「必要性はあまりない。だが、そういう使い方は確かに新鮮に映る。」
孤鍵は手元の【零域コード】を調整し、九条綾に向かって一本の指を差し出した。
「ならば、もっと驚かせてやろう。」
冷気。
身を刺すような寒風。
それは別種の圧迫感なのか?
いや……
九条綾は見た。
空気中の水蒸気が凝結している。彼の周囲の熱が奪われているのだ。
孤鍵の周囲では、気温が急激に低下し、氷の結晶さえも現れている。
冷たい空気と暖かい空気が出会い、光は曲がり始める。
彼の姿はぼやけ始め、風に揺れる水面の映り込みのようだ。
そして、この冷気の源は動き始め、徐々に彼女を包み込んでいく。
「まったく……」
九条綾は構えを取り、どの方向からの奇襲にも対応できるように備えた。
「これに応えてやる価値はあるな。」
気流の変化はさらに激しくなり、迷彩そのものは微塵も揺るがない。
「出力変更:60%、第一層閾値ロックを解除、継続的に強度を引き上げる。」
平静な空気は疾風と化し、彼女を中心に高速で回転する。
そして、風はすべて刀に吸い込まれ、彼女の腕の赤い紋様がより一層鮮明になる。
「【大空刃・入雲渦】」
竜巻が彼女の体から炸裂した。
屋上のそこかしこに、あらゆる方向からの斬撃痕が現れる。
そしてこの、大気さえもかき混ぜる斬撃が、孤鍵の作り出した幻影を切り裂いた。
孤鍵はまだ空中にいた。拳には冷気が凝縮されている。
九条綾は刀の先を彼に向け、地面を蹴って突き刺さった。
「しまった!」
孤鍵はモードを調整する暇もなく、手のひらで刀身を受け止めるしかなかった。
「はあっ!」
一閃が放たれる。
刀は手のひらを切り裂き、皮膚を切り、筋肉を切り、骨にまで達した。
血が指の間から溢れ出る。
そして九条綾は攻撃と同時に、孤鍵に刀身を握られ、さらに彼が身をひねって放った蹴りを食らう。
二人は距離を取り、再び対峙の段階へと戻った。
「エネルギー出力:70%、過剰損傷警告は無視する。」
九条綾の口から指令が紡がれる。鮮紅の紋様がさらに輝きを増す。
「再コンパイル、生物質変換による一時ユニットを許可する。」
孤鍵の声も同時に響く。掌から流れる血が、【零域コード】に呑み込まれているようだった。
九条綾の刀は身の前に構えられ、赤い紋様が刀身に流れ始める。
彼女は孤鍵の目を見つめる。
孤鍵は彼女の目を見つめる。
風が黒と赤の影のほとりで咆哮し、灰黒の影の血はより多くの黒へと変わる。
そして——
「かかってこい。」
「なぜ技名を大声で叫ぶのか?」
それは【コード】の特殊性により、音声による入力指令が必要だからです(意識起動機能もないわけではありませんが)。決して、そう書いた方がカッコいいからではありません!
「【零域コード】は今のところ運動エネルギー変換と熱吸収だけなのか?」
100%効率の力学的エネルギー変換という時点で、その下限は示されています。上限については……
「九条家の流派信条」
「勢を以て敵を震え上がらせ、刃未だ到らざるに彼は既に崩れ去る」(物理的に)
なんかあの和風な感じがなかなか訳せないんだよな……
「翠緑の瞳?……」
厳密に言えば、少なくとも七人の意識が【奇点协议】に焼き付けられています。
【特異点プロトコル】=【奇点协议】
以前の章でこれが出てきたら、同じものだと思ってください(後で直す時間を作ります……)




