608 ★ ターニャ 川遊び
――ドゥルルルルー……。
私は今、ベージュカブのシートにスコットを乗せて走っている。
ちなみに私は二人乗りは初めてだ。乗せてもらった事はあるけどね。
慣れていないこともあって速度を出さないとフラフラして正直……ちょっと怖い! 怖いけど楽しい。あはっ。
「おいおいお前大丈夫かよターニャ!?」
「……だい、じょーぶ……! 心配いらん」
右手でアクセルを捻り、ギアを2速に入れれると、私のベージュカブはやっと安定して走り始めた。良かったー!
「うおおおお! す、すっげー!! ひゃー速ええーっ!」
後ろでスコットがはしゃいでて私は嬉しくなった。でも姿が見えないのが惜しいね……。
そんな風に私が満足していると、後ろから大きめの声が飛んできた。
「ターニャー! お前この先に川あるの知ってるかー?」
「え、川? 知らん。どこ??」
「採掘場のちょっと手前。歩いたら遠いけど、このカブなら行けるぞ! 魚がいっぱい泳いでるんだ」
「魚! 食べれる!?」
「い、いや、それは無理じゃね? ……ってか、お前ってもしかしてめちゃくちゃ食いしん坊な奴?」
「うん! 食べるの大好き」
「……お、おう。でも捕まえんのはムズいぞ。とにかく行こうぜ!」
「うん、行こー!」
あんまり遅くなるとおじが心配するし怒られる……でも、ちゃんと謝ったら許してくれるハズ。うん、ちょっとだけ……。
――ドゥルルルルーン!
スピードを上げるとスコットはさらに楽しそうな声を上げた。
「うわーーっ。あははははっ! 本当にカブって凄いぜ。いいなーターニャって毎日これに乗ってんだろ?」
「そだよー。たまに乗らない日もあるけど」
「うおおー代わってくれよ?」
冗談だと思うけど私はキッパリと拒否した。
「無理。おじが悲しむもん」
「おじ、って領主の人か?」
私はチラッと後ろを振り向き、にっこり笑って答える。
「そう。おじは神!」
「はははっ、なんだそりゃ!? でも俺も凄い人だって噂で聞いたことあるぞ」
「うん、凄い。帰るのが遅くなるとおじが心配するから、ちょっと急ぐよ!」
「おー!」
……。
そうしてしばらく走るとスコットから停まれの声がかけられた。場所はやっぱり採掘場の手前。
今走っている道から脇に小道があって、そのままカブで入っていくと、キレイな川が見えてきた。
「あ、あれだね!」
「行こうぜターニャ」
カブを停めて、スコットはすぐ川に向かっていく。私も続いた。
「うおりゃああああ!」
――ダダダッ、ザッパーン!!
豪快に川の深めの所に飛び込むスコット。
「うわっ、飛び込むんだ……」
スコットは胸まで水に浸かっていた。そして笑顔で私に手を振り、こんなことを言ってくる。
「お前も来いよターニャー!?」
「ええ……」
私、今はこういうガキっぽいことはあんまりやらなくなったのに……。
弟のエルドがアホみたいに飛び込んだりするのをガキだなぁ……と冷ややかに笑って眺める。そんな感じ。
「気持ちいいぞー!」
でも、私の心は揺らいだ。その時のスコットの笑顔があまりにもいい感じだったからだ……。
うん、ちょっと言い訳しとこ。
「こ、こういうの本当はやらないんだからね。私!」
腰に手を当てて軽くスコットを睨むが、スコットは笑顔のままだ。
「こねーのか?」
首を2回ほど横に振る。
「いんや。私はやるときはやる! ……ふんっ!!」
決意したらすぐ動く。それが私だ。
――ザッパーン!!
「ひゃああーっ! つ、冷たいいいいーっっ!!」
いや本当に冷たいんだけど!? 川の中で、腕で体を包み込みながら私は悲鳴を上げた。
「スコットは寒くないの!?」
「いや寒いぞ。一旦上がろう」
「なにそれ!?」
なんかやせ我慢してたらしい。
……あ! 川から上がる途中、足元を魚が泳いでいくのが見えた。
「魚いたよ今!」
「よし、待っとけよー」
スコットは得意気に笑うと、川の深い方にまた戻っていった。寒いんじゃなかったの!?
「うおおおおおっ!!」
そのまま川に飛び込んで潜り、スコットはすぐに顔を上げた。
「寒っみいいいいいい!!」
「当たり前だよ。もう、早く上がってきて」
私はちょっと呆れてスコットに手を伸ばす。
……。
岩の上で私とスコットはしばらく陽の光を浴びて体を温めた。
お日様の光ってこんなに気持ち良かったんだ!
十分に体を温めると、また深い所に近づく。今度は冷たい水が気持ちいい……それに、さっきほど寒くないね!
私はちょっと楽しくなってきて、手で水を掬ってスコットの方に放り投げてみる。
「ういーー!」
「何すんだよー。おりゃー」
「あはははっ!」
しばらくの間、私達は小さい子供のように水をかけ合った。
やがて私は、本気で魚を取ってみたくなった。
「スコット、魚とろう! 私も頑張るから」
「よーし。じゃあ両端から追い詰めようぜ」
「ういっ!」
……。
そしてしばらく経ったが、私達は一匹も取れなかった。
スコットは残念そうに呟く。
「あー、悔しいぜ! くぅー……」
「あはは、別にいいよ。村の食材屋で買えるでしょ?」
「いや、そうじゃなくて今お前が欲しがってたからさ」
「……ありがと」
あ、やっぱりそうだったんだ。スコットは本当にいい奴だね。
「うん、でも魚はもういいや。そろそろ帰らないと本気でおじが心配するから戻ろ?」
「う、うん。ところでさ。お前のおじさんって……その、怖い?」
「んー全然。私に対してはだけどね……あ、私弟いるけど、弟には厳しかったりするよ」
「やべっ! じゃあ早く戻ろうぜ」
「うん!」
――ドゥルルルルーッ!
そうして私達二人はまたベージュカブに乗り、急いで来た道を引き返した。
私は今になって不安になってきた……おじ、やっぱりめちゃくちゃ心配してる気がする。今回ばっかりは絶対怒られる気がする。
私はスコットの座っている後ろに左手を伸ばした。
「ねえスコット」
「な、何だよ?」
「握手しよ?」
「え!? お、お、おう。それは良いけど。どうした??」
「あのさ、帰ったら一緒に怒られよ? ね?」
「おい、やっぱり怒られんのかよ!?」
……。
そうして共犯を確保でき、私は少し安心した。
しばらく走るとすぐに村が見えてきた。
長屋の前にクリスと一緒におじが立っていて、こっちをじっと見ている。
ベージュカブを降りる私とスコット。
おじの第一声はこれだ。
「こらぁ! どこに行ってたんだターニャ!?」
ひいっ……私はスコットの右手をつよく握った。




