607 ★ ターニャ 出会い
んー、ちょっとぶらぶらしてみよっと。
おじ達と別れて、私はこのミスリル村を目的もなく歩き回ってみた。
やっぱり採掘場で働くおじさん達が多いね……む!?
鼻が利く私は近くに食材屋の気配を察知する。匂いに釣られるようにそこに入っていく。
するとそこは食材屋というより村の配給所みたいな場所だった!
おおー。料理が直接出されるんだ、なんかヤマッハのレストランみたい。
もちろんあんな高級料理じゃないとは思うけど……。
鉱夫のおじさん達がそこでスープやパンを買って食べている。
大きな業務用の窯の方からは、私の大好きな焼き芋の匂いも一緒に漂ってきた!
うはー。
ああ、なんかお腹減ってきた……おじ達は、多分時間がかかると思うし、買って食べよっと!
――ゴソゴソ。
丈の短いズボンのポケットに手を突っ込む。が、財布がない。あ、そっか! 自分のカブのリアボックスに入れてるんだった……。
「おっちゃん! 焼き芋ちょうだーい」
すると、横から声がした。私と同じぐらいの歳の男の子だ。
「スコットか、ちょうどいいな。最後の2つが焼けたところだ!」
「へへっ、やったぜ!」
スコットとかいう少年はお金を払い、美味しそ〜な芋の匂いと共に外へ出ていく。
――ああーー……。
私は餌に釣られたようにスコットについて行った。
スコットは真後ろにピッタリと付いてくる私の気配にすぐに気づいた。
そしてギョッとした顔で叫んだ!
「うおおおっ!! だ、誰だお前!?」
スコットより芋の方をじっと見つめながら、ちょっと笑顔になって私は答えた。
「うふふ。私、ターニャ。芋大好き!」
「……」
そう言われたスコットは、どう答えればいいか分からんといった顔で私を見つめている。
しかしすぐに持っている芋に目を落として言った。
「な、なんだお前……もしかしてこの芋欲しいのか!?」
「う、うん!! ……あ」
私は反射的にニコッと笑って頷いたが、同時にハッとした。
――これじゃ私、ただの意地汚い奴なんじゃない!?
……ダ、ダメだ。流石にこんなところをおじに見られでもしたら呆れられてしまう。ここは我慢しよう。
私は大きく深呼吸し、スコットに謝った。
「ごめん、やっぱり自分で買う。お金取ってくる……」
「お、おい!」
余程私の顔がしょぼんとしていたのか、スコットは私の手を握って引き止めた。
「さっき食材屋のおじさんが言ってただろ? もうこれが最後の芋だって。しゃーねーなァ、1本分けてやるよ」
そう言って芋を差し出してくる!
「わああああっ、ありがとーーーーっ!」
私は満面の笑みで芋を持つスコットの手を握った。うふふ、スコットいい奴ー!
……。
その辺の岩に座って二人で芋を食べる。
ああ……芋は美味しいだけじゃなくて昔を思い出すから好き。
初めてカブに乗ったおじと会った時のことを、今でも鮮明に覚えてる。
ああ……最高……!
「もぐ、もぐぅ……」
「お前、ホント芋好きなんだなー」
スコットは感心したのか呆れたのかよく分からない顔だった。
私も自覚があるが、芋のことになるとかなりアホになる気がしている。
私は無言で芋の味を噛み締めるとともに、このスコットに感謝の気持ちが湧いてきた。
「ゴクン……ふー。ご馳走様スコット。すごーく美味しかった!」
「……お、おう」
「なんか芋のお礼がしたいなー」
するとスコットはちょっと横を向き、頭を掻きながら答える。
「お礼とかそんなのいらねーよ。俺が分けてやりたくなったからそうしただけだ」
「……そか」
しばらく私は照れくさそうにしているスコットを眺め、そして聞いた。
「スコットはここに住んでるの?」
「……ん、おう。ここの採掘場で親父の手伝いしながら暮らしてるんだ。お前は? ターニャ」
「私はマグナ村だよ。領主館に住んでる。育ててくれたおじと一緒に!」
素直にニコニコしながら話すとスコットは凄くビックリしていた。
「ええええ! り、領主館!? じゃ、じゃあお前のおじさんって……も、もしかして領主様じゃねーか!?」
「うん」
「だからか……」
「え? 何が?」
首を傾げる私。
そしてスコットの次の言葉にビクッとした。
「なんかお前を初めて見た時、ちょっとお嬢さんっていうか、綺麗な感じに見えたからさ……ターニャ」
――フワアァァッ……。
「え……」
そんなことを言われた私は、胸の内で何かがフッと湧き上がってくるのを感じた
同時に気恥ずかしくなって両手で頬を押さえた。何だ? 何だろう??
今まで誰かに可愛いとか綺麗だとか言われた事はたくさんあった。
でも特に何とも思わなかった。正直どうでも良かった。でも今は凄く嬉しい。何で!?
――ドッ、ドッ、ドッ……。
胸に手を当てる。鼓動が早い。どうした私……。
そんな風に私は動揺していたけど、スコットも何となく気まずそう。
うー、ちょっと話を変えよう! 間が持たない。
「ね、ねえスコット。スーパーカブって知ってる?」
機転を利かせてそんな話を振ったらスコットは猛烈に食いついてきた!
「知ってるに決まってんじゃねーか! スーパーカブってあれだろ。あのめちゃくちゃ活躍しまくってるバイクだろ?」
「うん! 私達スーパーカブでここに来たの。見る?」
「なにーーっ!?」
すると、スコットは目を輝かせてこちらに迫ってきた。わっ……!
「み、見せてくれよターニャ!? 俺スーパーカブに乗るのが夢なんだ!!」
私も嬉しくなり、すぐにスコットをカブを停めていた長屋の前まで案内した。
「うっひゃー。す、凄え! 本当にカブじゃん!?」
興奮するスコットをもっと喜ばせたくて、私は自分のベージュカブに跨りシートをポンポンと叩く。
「ほら、スコット。ここ座って! 一緒に走ろう?」
「い、いいのかターニャ!? じゃあ乗るぞ……」
「あ、あの……ターニャちゃん??」
控えめな声でカブが声を掛けてきたけれど、今はスコットと走りたいの。
カブに軽くウインクをして、私はキーを回しエンジンをかけた。
――ドゥルルルルー……。
「わっ、す、凄え! ……これがカブのエンジンの音かぁ!?」
「とりあえず採掘場行くよースコット! 落ちないでね」
そうして私とスコットの乗ったベージュカブは走り出す。私の心は踊っていた。




