はぐれて
一緒に来ていたスズユちゃん達とはぐれてしまった。だから、こうして紺野はんと二人、並んで……ではないけれど、無言のまま、紺野はんの後ろを歩く。
だけど、そろそろ黙ったままではいられない。夜はもう、打ち上げ花火の時間になっていた。
パーン、バラバラ……。
始まりの音はいつもびっくりする。あの賑やかな夏祭りの中にたくさんあった煌々としたオレンジ色の暖かそうなちょうちんの色に似ている。
この場所の打ち上げ花火は、高校のある町の打ち上げ花火より劣る。だけど、それ以外が賑やかなのだから、良いではないか。私は何となく口を開いていた。
「私、私ね、卑怯だった」
ぽつりと呟いた言葉は、パーン、バラバラ……という音と共に消えたと思っていたのに、良いんじゃないの……という幻聴が聞こえて来た。
もう一度、バラバラ……と音がする。うるさい、大きな音。パーン、バラバラ、その中で、もう一度、「良いんじゃないの? 卑怯でも」と言う確かな紺野はんの声。
夜空の打ち上げ花火だけが光る瞬間、彼の全身半分がその打ち上げ花火の色に染まる。きっと私もそう、かなり遠くまで来たのに、近い。
彼は歩きながら言った。
「それで誰が困るでもないんだし」
今度はわざわざ振り返って、私の顔を見る。
「そうだよね」
そうだ、困る人はいない。
紫桃くんにも伝わらない。紺野はんだけにしか伝わらないで終わってしまったその気持ち。もうあの涙も出なかった。
「だからってわけじゃないけどさ、少し意識しちゃったりしてた」
「何に?」
「白見さんのこと」
え? とも言えない。静かな沈黙。
「ふふ、バカだな、オレ。そんなわけないの知ってるのにね、バカだな、オレ」
今まで二人の人と付き合ったことがあるという紺野はんでさえ、こんな風にしてしまう言葉。
それでもまた、言ってしまっていた。
「私ね、最初から紺野はんのこと好きではなかった」
「知ってた」
パーン、バラバラ……間に入る音。
「接してるうちに、紺野はんに魅入られてた」
パパーン、バラバラバラバラ。少し数が増えて来た。
「それは知らなかった」
紺野はんの声が聞こえる。
「紺野はんの笑顔とか、気さくさだとかに」
本当にそうだ。
「あの修学旅行的なのに行った時だって、そうだった。ほわんほわんしてた、一人で」
もう音がしない、まだ始まったばかりなのに、少しの休憩か?
「雨の日の時も、一人で感謝してた。よく私をあそこから止まらせないでくれた……とか」
紺野はんは何も言わない。
「七夕の時も」
「それで終わりじゃないから」
紺野はんがびしっと言った。
「今もこうして話してるんだし、終わりじゃないでしょ? 可能性は無理に摘み取らない方が良いよ、せっかくのキレイ系美人が台無し」
茶々を入れられた。
早く、次の花火の音が聞きたくなった。
「やっぱり、紺野はんは私の太陽みたいな人だ。すぐに私を明るくしてくれる」
この言葉が伝わったかは知らない。だって、紺野はんは突然また響いた音と光にびっくりして、思わずそちらを向いたから。
花火らしい赤、オレンジ、黄色。全部暖色系。少しくらい寒色が入ったって良いのに……と思っていたら、次の花火が青から始まって、黄色に変わって、ピンクになって水色になった。それもスマイル。笑顔の花火。
良い演出だ。
「紺野はん」
私はまた何か言おうとしたけれど、彼はこちらを見なかった。花火に魅入られてた。
「何かまた今度、描いてね」
あ? ああ……。やっとこちらを見た紺野はんは普通の顔をしてた。暗くてよく分からなかったけど、そう見えた。
「白見さんって、本当、素直だよね。隠し事とかできないでしょ?」
笑った笑顔の人に少しムッとした。
「出来るよ! たくさん、して来たし」
「どんなこと?」
彼はすぐに聞き返して来る。
「紺野はんが知ってること、全部!」
「何かなぁ? 桜あんぱんが好きなこととか?」
「何故、それを?」
うーん、何かで聞いたのかな……彼は記憶の中の私を探してた。きっと、あの七夕の帰り道に話題に困って、すぐに言ってしまったんだと思う。
また黄色く光って、白くなって、パパーン、バラバラバラバラ……と鳴った。




