七夕の短冊
もう着いてしまう。それが嫌で言ってしまった。
「こっちじゃなくて、もうちょっと歩きたい。だめ?」
彼はちょっとどきっとしていたけれど、良いよ、と言ってくれた。
「そっちの方だと、商店街の七夕飾りが見れるね。確か、巨大短冊のさ、寄せ書きやってた気がする。まだ書けるかな?」
彼はちょっと楽しそうに言った。
彼の言う通り、その商店街の巨大短冊の寄せ書きはまだやっていた。明日で終わりのようで、良かった! と彼は明るく少し騒いでいた。
私は冷静に考えた。こんなにごたごたとした飾りの中では私の願いなんて、本当に小さいものだ。
紺野はんの妹さんが書いた赤い短冊には、黒いマジックペンで『イケメンが目の前に現れますように』だったけれど、私は何と書こう。
やっぱり、考えても紺野はんに言った『受験合格しますように』しか出て来なくて、それをそのまま、その巨大な布で出来たピンク色の短冊の寄せ書きする所に書くしかなかった。
*
商店街から数分もしない所に駅はある。
いつも使っている駅と同じなのに、こちら側だと少し、人が街が派手な気がする。
紺野はんは駅のホームに行くと、すぐに空いていた椅子に座った。
「白見さんも座れば?」
「うん」
ちょこんと座った。私達しか高校生はいないようだ。こんなことはあんまりない。だけど、だからかな、書けたんだ。
紺野はんが無言で一度は返した二つの短冊をまた手渡して来て、私はそのうちの一つをもらうことにした。
黄色い短冊。カバンから黒いボールペンを出した。
もし、ここに、もう一人の彼が居たら、こんな願いは書かない。
『しとーくんと話が出来ますように』
紺野はんに見られないように書いたけど、きっと彼は見ているだろう。
別に恥ずかしいことではないけれど、彼の名前をちゃんと書くのが、何だか恥ずかしくなってしまって、わざと、皆が呼んだり、書いたりする書き方をした。
「書けた?」
「うん」
あの時の『うん』よりは良いはずの、何だか吹っ切れた「うん」が言えた気がする。
それを紺野はんは何も言わず、受け取ってくれた。
「紺野はんは書かないの?」
「オレはさっき、ちゃんと書いたから」
「キレイ系美人に会えますようにって?」
「そう!」
彼の言葉が合図になったみたいに、電車がやって来た。
本当は、きっと家に帰ってちゃんと書くんだと思った。




