文化祭の中の後ろ姿
旧校舎の二階、右階段近くで見慣れた後ろ姿があった。彼女だ。
「あれ、白見さんじゃない?」
紺野が言うよりも早く見つけていた。こんなに人が多い中で彼女はぽつんと居るようだ。
声をかけたかったが、少し遠過ぎて無理だった。そのうちに彼女の姿が人混みで見えなくなった。目の端に赤根っぽい姿が見えたが、確認は出来なかった。その日はそれぐらいしか良い事がなかった。
*
ぽつんと居る、だから来たくなかった。
帰ろうか、と思った時だ。ぽんぽんと背中を軽く叩かれ、振り向いた。アカネちゃんだった。
「どうしたの? 来ないって言ってたのに!」
それは同じでしょ、とアカネちゃんは言う。
「紫桃君に頼まれたから来たんだー、遅刻扱い」
「私も」
えばって言うアカネちゃんがかわいかった。
「ぐるっと回ったら帰ろうと思うの」
「そうかぁ、じゃあ、私もそうしよう」
アカネちゃんと回れるのが嬉しかった。
*
十三時近くの体育館で焼きそばを食べながら、アカネちゃんは言った。
「本当はね、この食べ物を食べに来たの」
確かに勢い良く食べている。
「瑞穂ちゃんは?」
「私?」
たこ焼きを食べる手が止まった。
「私は……、もしこのまま行ったら、大学とか進学するかもしれないなって思ったの。ほら、一応うちの科は進学前提だし。就職する人は少ないから。親は高校だけは卒業しなさいって言うけれど、うちのお兄ちゃん見てたら、高校よりも楽しいのかな? って思って、もし、紫桃くんみたいな人とまた話せるようになったら、楽しいだろうなって。だから、その時の為に文化祭とかの話になったら、話せるようにしたいなって」
「ふーん」
アカネちゃんは話よりも焼きそばを食べ続けていた。
「紫桃君も進学かな?」
「たぶんね、友達の人とそう話してたの聞いたことあるよ」
「でも、体育祭は行かないよね?」
「そうだね、体育祭は無理かな……。勇気が出ない。出来上がってる輪に入ると怒られそうで怖いんだ。アカネちゃんは行く?」
ぷるぷるとアカネちゃんは首を振った。
「そんなことしたら、またどんくさいと笑われちゃうよ、怖や怖やだよ」
ふふふ……、アカネちゃんの言い方に笑ってしまった。
ゴミを片付けて体育館を出た所で何故か紫桃くんの声が聞こえた気がしたから振り向いた。けれど、たくさんの人混みでどれが紫桃くんなのか分からない。本当に居るかも分からないのに、見てしまった自分に笑ってしまった。そうしたら、アカネちゃんが不思議そうに見て来た。
「紫桃くんにお礼言わないと」
「良いんだよ、言わなくて。彼ならきっと分かってるはずだから」
すたすたとアカネちゃんは行く。まだ見る所があるからだ。
「今度はどこに行く?」
アカネちゃんにそう言われて、笑った。
普通の事が普通に出来てるのが嬉しかったからだ。




