紺野はんの基準
このイラスト部に入部して一か月が経った頃。
前部長と呼ばれるようになる高校二年生の先輩と高校一年生のリーダーが何かについて熱心に話していた。
「栗生ちゃんはどういうのが好きなの?」
「正義感が強いキャラです!」
はっきりした受け答えだった。
「じゃあ、紺野君は?」
「キレイ系美人ですかね?」
その先輩はそれに全然当てはまらないけれど、口元にホクロのある先輩だった。
「なに?」
「いえ、別に」
――そんな事を思い出したって、今の状況は変わらない。
あの時は追究されなかったことを今、されている。
「そもそも『キレイ系美人』って何?」
「可愛いが前提にある綺麗系な美人です」
「え……」
リーダーの質問にメガネが反応した。が、構わず言おう。
「キレイ系美人の中に『かわいい』が入ってるのは当たり前じゃないですか」
「当たり前なの?」
「普通ない」
ロリより手影絵の方が厳しい。
「まあ、笑ったら、もっとかわいくなるんですよ」
だからって、皆でにたーっと笑うことはない。
「言っときますけど、この中に『キレイ系美人』は居ないんで悪しからずです」
「あ、そうなんだ」
何故か、リーダーの元気がなくなったような。
「その、順位とかあるのかな?」
「順位?」
「そう、この部活の人達の中で一番ないな……って思うのは!」
リーダー、自分から訊くなんて勇気ある!
「そうですね、栗生さんが一番」
「ない、と?」
「そうですね。ないです」
ぶわっと涙が溢れて来た。
「かわいい子なら、ここでぐっと来るんでしょうけどね。日頃のあなた達を見てると、まあ、きれいな涙だとは思いますが」
「ないんでしょうー!」
うわーん! という感じで部室を出て行ってしまった。
「じゃあ、続き発表して」
「は?」
「絵を描く前に、発表して」
手影絵がいっぱい喋ってる! そして、終わらせない気か!
「良いですけど、ない順ですよね」
こくんと手影絵は頷く。
「んー、犬山さん、草木さん、影岡さんですかね。イラスト部の同級生の中では」
ほほう……、と眼鏡のないメガネの目が光った。まあ、良い。絵を書こう、オレは。
「じゃあ、あの子を入れたら?」
「あの子?」
まだ何かあるのか手影絵。
「ほら、この前来た白見さん」
「彼女は……最後です。皆の最後、表情が出て来るとかわいくなるんですよ。ああいうキレイ系美人の人は」
「キャラとしては?」
何だ? そんなに気になるのか、手影絵。カブってないぞ、お互いのキャラ。
「そりゃあ、かわいい子が良いですね!」
「はっきりしてんね、その基準が私達には分からないよ」
「先輩に言われたくありません」
突如、現れた前部長に驚いた。
今もあのホクロは健在だ。
「もうすぐでさ、卒業でしょ。ほら、もう二月も終わっちゃうし。悲しいよね、皆も来年は三年生、これはすぐにでも時間を止めてほしいよ」
オレは止めてほしくない。そんな事になったら、やっと出来た計画が終わってしまう。いや、終わる前に始まらない。
三月こそ、待っているのだ。彼女は、やっと歩き出そうとしていた。それなのに妨げる訳にはいかない。
「良い出会いがありますよ、生きてれば」
「そうだよね! ステキな良いキャラになりそうな男性に会えるよね!」
その方向は間違っているが、何も言わずにいた。
皆笑って、楽しく過ごす。それがこのイラスト部に居る人達の意義だからだ。




