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友達以上恋人未満ではないけれど  作者: 雲花エマ
紺野はんとイラスト部員達Ⅰ
55/145

本名

 高校一年生の時からイラスト部だった。

 この部室に初めて入った時は皆真剣に絵を描いているな……と思ったが、今ではうるさいだけの部活動だ。


 *


 その日、部室に入るなり、いきなりリーダーに言われた。

「紺野はん、私達の本名知らないでしょ?」

「は? 知ってるよ」

 リーダーは栗生くりゅうさん、メガネは犬山いぬやまさん、手影絵は影岡かげおかさん、ロリは草木くさきさんだ。

「栗生さんに、犬山さんに、影岡さんに、草木さんでしょ。まあ、先輩と後輩とはそんなに仲良くないからよく知らないけど」

「それ、いつもの呼び方じゃん。そうじゃなくてフルネームで、ってことなんだけど」

「フルネームね……、変な名前ということしか覚えてないな」

 高校一年生の時に聞いて以来、聞いてないし、覚えてない。覚えようとはしたが途中で挫折し、面倒になって名字だけは覚えた。それ以来ずっと独自のあだ名で呼んでいる。だけど、彼女達と普通に喋る時は礼儀として名字にさん付けだ。これが普通である。

 リーダーの目は、今、目の前のこの男が二枚目で三枚目じゃなかったら許していなかった! という感じだったけれど、気にせず喋り続ける。

「そう思って、呼んどいたの」

「誰を?」

「いつも、この部室に来る彼女を」

「彼女って、まさか」

 そうです! という風にメガネと一緒に部室に入って来たのは白見さんだった。

「どうして」

「いや、歩いてたら捕まっちゃって」

 照れる白見さんとほくそ笑むメガネ。

「じゃあ、もう揃ってるから自己紹介ね。ちゃんとした方が良いでしょ。えっと、あなたは白見さん?」

「はいっ」

 え、知らないで連れて来たの?

「皆、あなたと同級生……なんだけど、科は違うから分からないよね」

 微妙な微笑みでキャラ崩壊し始めている。ぜひ、今のリーダーには『私もそうなんです』と言ってほしい。っていうか、前に白見さんを個人的に紹介したはずだ。隣の空き教室使っている子として。

「じゃあ、紺野はんからにしようか」

「何で?」

「だって、ここに連れて来たのは紺野はんでしょ?」

 いやいや、違いますよ! あなた方が連れて来たんですよ! 白見さんを。

「でも、私が」

 ごにょごにょと白見さんが呟いている。

「そうか……、じゃあ、紺野はんからで」

 勝手に決めんな。

「言わないの?」

 リーダーがして来た。

「え、だって、オレ、白見さんと同じクラスだし」

「でも『キレイ系美人』が好きな紺野大希です! イラスト部唯一の男子です! とは言ってないんでしょ?」

「え、それに近い感じのは言ったけど……。まあ、はっきりとは言ってないか」

「そんな感じの人です! じゃ、次、ウチね!」

 勝手にリーダーに進められた。

「ウチはポニーテールが目印! 栗生鶴羽くりゅうつるは、正義感が強いキャラに惹かれる女子です! よろしく!」

 これ一言、二言多い感じの自己紹介だ……。

犬山泰利いぬやまたいり、女です。メガネキャラが好き過ぎて『メガネ』って陰で呼ばれてますが、本当のことだし、校内では伊達メガネ禁止でショック中です。そうじゃないと視力良すぎてメガネできないので。髪型ちょっとカブっちゃってごめんなさい! でも、うちの方がさっぱりショートボブだし良いよね」

 うん、うん! と言うリーダーに支えられてるな。

「あたしは手で影絵するのが好きです。というか、します! 影岡鈴夕かげおかすずゆです。えっと、呼び方は出来れば、鈴夕が良いかな。お団子ヘアは好きですか?」

 緊張からなのか、いつもの語尾伸ばしがない。

「じゃあ、最後はわたしね、ゆるい三つ編み二つ、草木奏子くさきそうこです。わたしはクラシカル系ロリータファッションが好きで、マンガに出て来る」

「だから、皆の先輩! なんて言われてるんだ。ほら、上から穏やかに言って来るあたりがそんな感じがするっていうね」

「はあ……」

 あまり分からない子で良かった。

「こんな感じのイラスト部なんだけど、どうかな?」

 リーダーの問い掛けに白見さんは答えた。

「私は、白見瑞穂です。紺野はんと同じクラスで隣の空き教室使わせてもらってます。今後ともよろしくお願いします」

 ぺこんと律儀にお辞儀した。

「あと、こちらこそミディアムボブでごめんなさい!」

 そこは言わなくても良いと思うが。

「あ、あと、私は絵描くの苦手なんですが、見るのは好きです」

 素直に微笑んだ。可愛らしい。けど、こんなの嫌なはずなのに白見さんは何故か、この中に馴染もうとしている。しなくて良い努力をしようとしている。これはどうしたことか、知られたら、しとーに怒られるかもしれない。

「白見さん、ちょっと」

 あ、逃げた! なんて言われないように白見さんを自然と廊下に連れ出した。後は勝手に盛り上がるだろう。

「ごめんね、なんか変な人達だったでしょ」

「ううん、無視されるよりは良いよ。それに私から頼んだの」

「え?」

「私が仲良くなりたいって頼んだの」

「リーダーに?」

「うん、これからはそうしなくちゃなって思ったの」

 どこでそうなったのかは分からなかったが、とにかく良い事の第一歩だ。

「それ知ったらきっと、しとーは喜ぶね」

「そうかな」

 彼女はそう言って廊下の窓を見た。皆、部活をしている。特に目立つのはやはり運動部だ。

「でも、ここではイジメの話、禁止ね」

「犬山さんが言ってたこと? なら、気にしてないけど」

「そうじゃなくて、白見さんの口からも、皆の口からもそういう話題をできるだけ出さないってこと」

「イジメダメってこと?」

「そ!」

 にっこり笑うしかない。彼女に向けてはこれしかない。

「皆、仲良くがあっての嫌みだから。許せる範囲は人それぞれだけどね。それで楽しくなることもあるけど、過剰なのは良くない」

「うん、分かった」

 言ってるこっちはよく分からない言葉だったけど。素直に聞いてくれるところは嬉しい。これが白見さんを好きになる一歩となるように、皆がそう思うように願って、オレは一人部室に戻った。きっと、今頃彼女は空き教室に居る。

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