白見の訪問
高校二年生の三学期、二月中旬、彼女はこの部室に初めてやって来た。
*
ガラガラと部室の扉を開けてイラスト部に入って来たのは、隣の空き教室を使っている同じクラスの女子、白見瑞穂だった。
「紺野はん」
ピクッと皆の耳がこちらに動いた気がした。
「どうしたの? 白見さん」
「鍵知らない?」
「鍵? 空き教室の」
「うん、見当たらなくて……、アカネちゃんが持って行くわけないし、どうしよ」
「いつも置いてある所にないの?」
「なくって」
「ふふふふふ」
この笑いは!
「ねえ、紺野はんって何?」
「黙秘します!」
「何で! 何で片手上げて、そう言うの!」
リーダーめ、白見さんの大事な話、聞いてなかったのかよ!
「これ以上、近寄って来ないでください」
マジメ! かなりマジメに返されたー! うわーん! と泣いた。
ああ、そうやって仲間達の中で泣くが良い。
「で、見つけられそう?」
「うん、紺野はんに頼っちゃダメだよね。もう一度自力で探してみるよ。ごめんね、お邪魔しちゃって」
申し訳なさそうに彼女は帰って行く。
後日、空き教室の鍵は白見さんの友達の赤根留衣の制服のポケットの中に何故か入っていたそうだ。
それを伝えに来た彼女にわらわらと部員達は追い詰めた。
「ねえ、何で『紺野はん』なの?」
「何で、何で? 何故?」
「それは……」
「何で?」
「私の落ち度ですー」
赤面しながら彼女は走り去ってしまった。
ギロッと全員がこちらを向いた。
「いや、だから言ったでしょ、黙秘します! と」
「どんなシチュエーションで決まったか、くらい教えてくれても良いんじゃないかな?」
皆の先輩的な存在、ロリに優しく言われると怖い。
「で、電車の中です」
それだけで充分だと知っていたから、それ以上口を割らなかった。
電車? 何それ? どういう状況よ? 彼、紺野大希君が『紺野はん』になった理由?
ほら、皆集まって盛り上がって来た。彼女達のキラキラと輝く目がどんどん在らぬ世界へと走って行く。




