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嫌な日
どきっとした。
「ねえ、しとー、良いでしょー」
甘ったるい声で勝手に甘えて来る。これがツケなら、これもツケだったのだ。
その様子を見れば誰だって勘違いする。
両腕をその両手で掴まれ、ぶらぶらさせられながら今日の放課後の数合わせの為に一緒に遊びに行こうと高校一年生の時のクラスメイトのカノジョは言う。
正直、彼女の足音だと知っていたら、その手を少しでも早く離させていただろう。
*
十二月初めの放課後、十六時半過ぎ、一階の旧校舎の廊下、私は見てはいけないものを見てしまった。
ドキン! となった。
(紫桃くん!)
止まってしまった。
紫桃くんと知らない女子生徒がぶらぶらとしていたのを止め、こちらをがっと向いた。
彼の困った顔より、その手が気になった。
動きたかったのに、動けなかった。
見続ける気はなかったのに、見てしまった。
まるで本当のカレシとカノジョのようだった。
じっとしてしまった為にカノジョに嫌な顔と声で責められた。
「何見てんの?」
怖い。
キュッという音をさせて来た道をすぐに引き返すしかなかった。
*
彼女は回れ右をして行ってしまった。
「ねえ、良いでしょう?」
何事もなかったようにカノジョは言う。
「悪い、無理」
俺は彼女を追うことにした。
何を言われようと、追うしかなかった。




