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憂う彼女
あれから数日、部室にはもう用がないと言っていた紺野はんに空き教室の廊下の前で会った。
「紺野はん」
「いや、後輩に貸してた本、返しにもらいにね、じゃあ……」
「じゃあ」
去り際の彼を見送る、ずっと。気付いた時にはアカネちゃんが近くにいて、その目をずっと見られていた。
「アカネちゃん」
「私ね、言っちゃった、紫桃君にも、紺野君にも」
「え? 何を?」
「二人は言ってないんだね……瑞穂ちゃんに」
彼女はそっと言った。
「瑞穂ちゃんの好きな人は誰なの? 紫桃君? 紺野君? 私にはどちらも好きそうに見えるよ」
「それは……」
紺野はんだ。もうそうなっている。決まっている。
「紺野はん」
彼女はとても驚いた顔をした。
「だって、そうなってしまったんだもん。仕方ないでしょ」
吹っ切れているように無理にでも、心にあるぎこちなさを隠して笑った。
「瑞穂ちゃん、本気なんだね?」
「うん、そう。私は紺野はんが好き。紫桃君よりずっと」
そう言うと彼女は納得したように笑った。
「良かった……これで安心して受験に集中できるよ」
にっこり微笑み返す。
その笑顔が少し痛かった、辛かった。




