≪終極の魔眼≫
魔力の融合。
魔力の波長が限りなく近いもの同士のみに行えるものだ。融合させることで、その者の身体能力、魔力が飛躍的に向上する。
俺がセリナに魔力を与えたり、魔法祭にてバルドが使用した≪強制魔力強奪≫とは全く違う。
これらはあくまでその場しのぎ。一時的に能力を向上させるものだが、ユウリが施されたであろう魔力の融合は、その効果が永久的に持続する。
シヴァは、バハルの魔力をユウリに融合させたと言った。家族間での魔力融合。当然、波長は似ているため、融合そのものはそんなに難しいことではないだろう。
「むー」
ユウリは頬を膨らませて、不満そうに唸った。
「じゃましないでよ!」
そう言って、魔法陣を展開する。
「≪黒炎連弾≫!」
幾つもの黒い炎が出現して、ユウリの周辺に浮かぶ。俺を焼き尽くさんと、黒炎の魔弾が放たれる。
俺はカリュエヴァマを一振りすると、無数の斬撃が宙を飛び、≪黒炎連弾≫を切り落とした。
「ユウリ。三百年ぶりに力を使うんだ。最初は軽めの魔法にしておいたほうがいいよ」
「だって!あのひとつよいんだもん!」
ベルネルの忠告に対して、ユウリはプイッとそっぽを向く。
「ユウリ!」
シヴァが少女の名を呼ぶ。
「なーに、おにーちゃん?こわいかおしてどーしたの?」
その声に反応して、ユウリは屈託のない笑顔を見せた。
「もうこんなことはやめよう。いい子だから。アムルやセリナさんは、俺の友達なんだ。ユウリや父さん、母さんを助けるのに三百年も経ったけど、ようやくこのときがきたんだ。だからーー」
「いやだよ」
「え……?」
「いやだよ。おにーちゃん」
ユウリは兄であるシヴァの言葉を拒んだ。
「わたし、ちいさいころからびょうじゃくだったでしょ?それがほら。いまはこんなにうごけるようになったんだよ」
病弱と言っていたがそうは思えないほど、ユウリはその場で華麗なステップを踏んでみせる。
「それにねおにいちゃん。たすけるってロクにまほうをつかえないのに、どうやってたすけるつもりだったの?ベルネルはね。わたしのからだを治してくれたよ」
「それは……」
シヴァは口籠る。
魔族の敵である人間。ましてや魔王の息子が≪剣聖≫に助けを求めていたとは、言えないのだろう。
「あまりお兄ちゃんをいじめるな。身を削る思いをして、こうしてユウリに会いにきたんだから」
ベルネルはそう言って、ユウリを宥めた。
ユウリとは直接面識はないが、本来の少女のの意思で話していないというのは見て明らかだ。
おそらくユウリにも洗脳を施している。それもかなり高位の。
「べつにおにーちゃんをせめてるじゃないんだよ。ユウリはね。おにーちゃんがきてくれてとてもとってもうれしかったんだよ。いままでみてることしかできなかったけど、いまはこうしておにーちゃんとあそべるんだから。だから、おにーちゃんはさいご」
「最後……?」
「うん。ここにいるおにーちゃんとおねーちゃんをやっつけてから、おにーちゃんのあいてをしてあげる。いままであそべなかったぶん、たっっっっくさんあそぼーね」
あくまでも本心。純粋なユウリの想いだろう。
だとしたら、ユウリはこうとも言った。
ーー俺とセリナを殺すと。
「みてみて。からだがげんきになってからね。これがもっとじょうずにつかえるようになったんだよ」
ユウリはそっと目を閉じて、再び目を開くと、その瞳は黒く変化していた。
≪終焉の魔眼≫ーーいや、その黒い瞳になにやら群青色の魔法陣が浮かび上がっている。
「まずはしろふくのおにーちゃんから……ね」
俺のすべてを崩壊させようと、鋭い視線を向けた。こちらも≪創始の聖眼≫で迎え撃つ。
ほぼ互角。いや、若干こちらが押されている。
面白い。俺はカリュエヴァマを振るい、斬撃を飛ばした。ユウリはその斬撃に目をやる。瞬く間に、その斬撃はその場から存在しなかったかのように、跡形もなく消滅した。
「その瞳。≪終焉の魔眼≫ではないな?」
ベルネルは不敵な笑みを見せる。
「あぁ。元よりユウリは、≪終焉の魔眼≫を十歳にして完璧に操っていた。バハル様の魔力をユウリに与えたことで、身体能力の向上のみに限らず魔眼そのものも強化された。そうだな……≪終極の魔眼≫とでもいうべきだろうか。いやはや、これは嬉しい誤算だ」
≪創始の聖眼≫と≪終焉の魔眼≫。この二つが衝突しても、互いを相殺する。
ユウリが持つ≪終極の魔眼≫は、≪終焉の魔眼≫の上位互換だろう。
「ベルネル。お前が≪終焉の魔眼≫を持っているも、エベルスメイを扱えたのも、バハルの魔力を取り込んだからなのか?」
「わたしのは不完全だ。ユウリは魔力融合が百年で定着したが、わたしのは二百年経っても定着しきらなかった。最低限、≪終焉の魔眼≫とエベルスメイを扱えるほどには定着したがな。だが、それももう終わりだ」
ベルネルが≪終焉の魔眼≫を使おうと、瞳に魔力を集中させるが、もう浮かび上がらない。
≪終焉の魔眼≫と神滅魔剣エベルスメイは、魔王と認められたもののみが扱える。
バハルの娘であり、≪終焉の魔眼≫を完全に使いこなせるユウリの出現により、≪終焉の魔眼≫とエベルスメイの所有権は、ユウリに譲渡されたのだ。
だがベルネルにとっては、それこそが狙いだったのだろう。≪終極の魔眼≫で全てを崩壊させ、エベルスメイで神々を殲滅する。
それを以て、ベルネルの目的は果たされるのだ。
「しろふくのおにーちゃん。あーそぼ」
笑顔で言いながら、≪終極の魔眼≫を発動する。
≪創始の聖眼≫で対抗するも、やはり押し負ける。カリュエヴァマの斬撃を飛ばすことで、一瞬そちらに意識を誘導し、相殺する。
「≪白銀彗星≫」
魔法陣を展開すると、白き輝きの星がユウリに向かって降り注ぐ。
ユウリはエベルスメイを出現させる。少女よりも大きい魔剣だ。迫り来る≪白銀彗星≫を一振りで、叩き斬ってみせた。
「≪白銀流星群≫」
幾つもの星々が四方八方、ユウリを襲う。
ユウリはそれすらも防いだ。エベルスメイを完璧に操っているのだ。しかし、斬っても斬っても星々はユウリに降り注ぐ。
「きりがないなー」
≪終極の魔眼≫で魔法陣を睨むと、たちまち術式が崩壊する。
俺は一気に距離を詰めて、カリュエヴァマの一閃を放つ。エベルスメイを重ね、そこを中心に衝撃波が発生する。
「ほう。これも防ぐか」
俺は目にも止まらぬ剣撃を放つ。
ユウリは巧みなステップを踏んで躱す。
再度、カリュエヴァマとエベルスメイが衝突した。
「いいの?そのきんいろのけんがなかったら、このめにたいこうできないよ」
「ふん。やれるものならやってみろ」
ユウリは≪終極の魔眼≫を発動した。
初めて、ユウリは不敵とも取れる笑みを見せた。俺を殺したと思ったのだろう。
だが、俺を崩壊させることはできなかった。
「……なんで?」
俺の瞳には≪創始の聖眼≫が浮かんでいる。
先ほどまでなら押し込んでいたはずなのだが、今は互いに拮抗している。
「魔眼が進化したぐらいで、勝った気でいられるのは困るな。聖眼も魔眼も、魔力がなければ使えない。いくら眼の性能が優れていようとも、それ以上の魔力量で上回れば、どうとでもなる」
ユウリはたまらず距離を置いた。
「魔力量だと……?≪剣聖≫……まさか今まで本気ではなかったと……」
「バハルの魔力を融合させたというのなら、話は変わってくる。俺も少し力をいれなければ、さすがに敵わない」
俺は歩を進めようとする。
「アムル」
シヴァが俺の名を呼んだ。
折れたノヴェンレビィアを強く握りしめている。
「ユウリとは、俺がやる」
「あいつは強い。おそらくバハルと同等かそれ以上だ」
「それでも、やらなきゃいけないんだ。俺はあいつのお兄ちゃんだから、妹の遊びには付き合ってやらなきゃだろ?」
俺はしばらく考えて、言った。
「分かった。だが危険と判断したら、俺とセリナも加勢する」
「うん。ありがとう」
シヴァはゆっくりと歩き出す。
「あれ?おにいちゃんとはさいごにあそぶっていったでしょ?」
「お兄ちゃんな。早くユウリと遊びたいんだ。お兄ちゃんのわがまま、聞いてくれるか?」
優しい笑みを見せる。それは妹に見せる兄の表情だった。
「うん、いーよ」
ユウリは純粋な笑顔を見せて、言った。
※追記
申し訳ありません。
見直しをしていたところ、シーナという人物が二人出てきていました。(バハルの妻と魔法学院の二年の担任)
ただいま修正を行なっていますが、見落としているところもあると思うので、誤記を見つけた方いらっしゃれば教えていただきたいです。
変更するのは魔法学院の担任の方で、シーナ→ローゼへと変更しています。
本当にすみません!




