三百年ぶりの再会
切り裂かれたフードが修復される。
だがベルネルは、そのフードを被ることなく殺意と憎しみが篭った鋭い目を向けていた。
「ベルネル……」
「シヴァ様……いや……シヴァ。魔王の息子とあろう者が、何を情けない顔をしている」
ベルネルは吐き捨てるように言った。
「≪剣聖≫。わたしの正体を知ったところで何になると言う?この戦争は始まってしまえば、どちらかの種族が息絶えるまで、終わりはしない」
彼はそう言い切った。
自信持って言えるのは、この三百年間、ベルネルはこのときを待ち続け、そのために入念な準備をしてきたからなのだろう。
「三百年。俺を、そして人間を憎しみ続けてきたのは分かった。だが、こんな馬鹿げたことを起こし、関係のない人間と魔族すらも巻き込んで、本当は何が目的だ?」
ベルネルの頬がピクッと引き攣らせる。
「馬鹿げたことだと……?ふざけるのも大概にしろっ!!」
奴は声を荒げる。それと同時に、膨大な魔力が溢れ出した。
落ち着きを取り戻すかのように、深く息を吸った。
「言っただろう。人間を一人残らず全滅させ、魔族だけの世界を……」
「嘘だな。魔族だけの世界を作ろうというのなら、ゼルレタの魔力で創られているシンベルファルスから、魔力を吸い取ったりはしないだろう」
つまり、奴がフェルメイトで言った魔族だけの世界を作るというのは、あくまでも魔王代理としての発言。この戦争を起こしたベルネル・ヴァーンとしての発言ではない。
「本当は何が目的だ?」
再度、俺はベルネルに問う。
「……この三百年。わたしはまるで生きた心地がしなかった。ぽっかりと心に穴が空いていて、どれほどの年月が経とうとも、それは埋まることはなかった」
奴は白フードを脱いで、大事そうに撫でる。
「この虚無感はなんなのだと、ずっと自分に問いかけていた。そしてあるとき、気がついた。ただ人間が憎いだけじゃない。この世界が憎いのだと、そう気づいたのだ。あの子たちがいないこの世界に、もう用はない。すべてをリセットし、新しい世界をもう一度創り直す」
「それがお前の真の目的か?」
「あぁ。気が遠くなるほどの月日が経ったが、そのたびに憎しみの種が育ち、わたしの原動力となったのだ」
「哀れだな」
「……あぁ?」
俺の一言に、ベルネルはギロっと視線を向ける。
「聞こえなかったのか?ならば、もう一度言ってやる。哀れだと言ったのだ。お前一人の願いのためだけに、人間も魔族も命が失われようとしているんだぞ」
「そもそもの話。貴様ら人間が悪いのだろう。幾たび続く戦争で、一体どれだけの尊い魔族の命が失われていると思っているのだ?」
「失っているのは、お前だけじゃないぞ。この先の未来を作る子供たち、愛を育もうとしている恋人たち。俺の大切な存在。一体どれだけの失ってきたと思っている。一方的に被害者ヅラをするな」
≪剣聖≫として、俺は多くの人類の命を救ってきた。だが、すべてを守りきることなどできない。死んでいった同胞や人類も当然いるのだ。
俺が言うと、ベルネルは呆れたようにため息を漏らした。
「もう良い。元より、≪剣聖≫なんかと話が通じるとは思ってもいない」
瞬間、王座の間の奥の部屋から、禍々しく膨大な魔力が発せられた。王座の間は、凄まじい圧迫感に包まれる。
「どうやら完成したようだな」
ベルネルは奥の部屋に視線を移すと、不敵な笑みを浮かべていた。
「な、なに?この魔力……?」
セリナはそう呟かずにはいられなかった。
「これは……まさか……!?」
何かを察したかのように、シヴァは驚いたような声を上げる。俺もどこかで感じたことのある魔力だ。
「そのまさかだ。シヴァ。お前はバハル様によって死後も魔界で起きた出来事を見ていたのだろう。だったら思わなかったのか?何故わたしが、バハル様や奥様、そしてお前の妹を殺さず捕らえたまま、三百年も動かなかったのか」
ギギギッ!と奥の扉が開く。
そこからは一つの人影が現れた。圧倒的存在感と、押し潰さんと言わんばかりの威圧感が、より一層強くなる。
その影は、ベルネルの横に立った。
幼い少女だった。身長は百六十ほどあるが、見た目からして年齢はミレとそう変わらないだろう。白い肌に桜のような桃色の髪。髪留めなのか、一輪の青い花が付けられている。そして同じ色の瞳。ただし、その瞳には光が宿っていない。
簡易的な青藍色のドレスを身に纏っている。
幼い見た目にも関わらず、それを着こなしており、優雅さすら感じられた。
「……ユウリ……ユウリなのか……?」
シヴァが問う。
彼には妹がいると言っていた。反応からして、この少女がシヴァの妹なのだろう。
「うん。そーだよ。おにーちゃん」
少女はにっこりと笑ってみせた。
「……一体どういうつもりだ?俺の妹を使って」
「決まっているだろう。ユウリを使って、この世界を壊す。お前と違って、彼女は魔法適性が高いからね。さてユウリ」
ベルネルは指を指す。
「試しに、彼女を壊してみよう」
その指の先にはセリナがいた。
ユウリがゆっくりと足を踏み出す。その刹那、ユウリが消えた。
「バイバイ。知らないおねーちゃん」
気がつけば、セリナの目の前にユウリはいた。
零距離で魔法陣を展開し、放った。
セリナも咄嗟に魔法障壁を張ろうとするが、間に合わない。
「……っ!!」
彼女は死を覚悟した。
「……あれ?」
ユウリは可愛らしく首を横に傾げる。
俺の手を少女の手と重ねて魔法を相殺したのだ。
俺はユウリを軽々しく持ち上げて、投げ飛ばす。空中で態勢を立て直し、上手く着地する。
あの膨大な魔力を完璧に操るとは。戦い慣れているというレベルではない。≪創始の聖眼≫で、ユウリの魔力の流れを読む。
二つの魔力が複雑に絡み合っていた。
ユウリの一瞬の動きを見ただけだが、シヴァは何かを理解したように、唇を噛んでベルネルを睨む。
「ユウリに、父さんの魔力を無理やり融合させたのか!?」
シヴァは声を荒げて、そう言った。




