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ユウリ・ヴァルベェノ

100話達成しました!

たくさんの方に読んでいただき、とても嬉しいです!

ブクマと評価していただけたら、かずローは跳ね上がります!(車の中で)

 ユウリ・ヴァルベェノが身体が弱いと分かったのは、五歳の頃だった。

 少し激しい運動をすると、毎回のように熱を出してしまい、それに違和感を覚えたシーナが、魔法病院で診てもらったところ、判明したらしい。


 優れた魔法適正、そして≪終焉の魔眼≫を使いこなせるほどの才能を持っていたが、身体が病弱だったせいか、魔力量も並の魔族以下しかなかった。

 それでも当時のユウリは、そのことを不便だとは思わなかった。


 ユウリの一日の生活は、基本的には家で巣篭もり状態である。

 魔城ゼルレタ一階の、三分の一の面積を使用して作られた魔王とその家族が暮らすことのできる部屋だ。一般的な家の三倍ぐらいの広さと言ってもいい。


 歩き回るくらいなら問題はないため、シーナの付き添いで城内を歩いていた。

 それは十歳になった今でも変わらない。

 

「奥様。お嬢様。おはようございます。体調のほうはいかがですか?」


 魔城には兵士や魔導師たちが、鍛錬や事務仕事を行っているため、よく顔を合わせることが多い。

 また、産まれた頃からユウリのことを知っている彼らにとっては、自分にとっても可愛い娘のような存在なのである。

 

 彼女たちに声をかけたのは、これから鍛錬に向かうであろう兵士たちである。


「うん!きょうはだいじょうぶ!みんなもしゅぎょうがんばってね!」


 ユウリのその屈託のない笑顔でエールは、厳しい鍛錬に向かう兵士たちにとっての何よりの癒しであった。


「これあげる」


 そう言ってユウリがポケットから何かを取り出す。飴玉だ。


「よろしいのですか?」


「うん!」


 確認のため、兵士はシーナに目をやった。

 シーナは柔らかな笑みを浮かべて頷いた。


「ありがとうございます!それでは、失礼します!」


 感謝の言葉を述べて飴玉を頬張ると、彼らは走り出して鍛錬へと向かった。


「わたしもあんなふうにはしりたいなー」


 彼らの後ろ姿を眺めて、ユウリは呟いた。


「そうですね。いつか彼らと同じくらいに走れるように、今は少しずつ身体を慣らしていきましょう」


「はーい」


 ユウリとシーナは、ゼルレタを歩き回った。

 

 ゼルレタの地下一階には、兵士と魔導師がそれぞれ鍛錬できる闘技場がある。魔導師たちは的に向かって魔法を放ち、兵士たちは木剣を握って素振りをしていた。


 二人がいるのは兵士たちがいる闘技場。

 鍛え上げられた肉体を持った兵士たちが周りにいる中でただ一人、一回りも二回りも小さな身体の少年がいた。

 青い髪に整った顔立ち。

 ユウリの兄ーーシヴァ・ヴァルベェノである。


「はあっ!」


 気合いの入った声で木剣を振るう。

 汗が滲み、それを拭った。

 

「はい。ここまで。次は対人戦を行います。それぞれ二人一組でペアを作ってください」

 

 手を鳴らして、そう指示を飛ばしたのは魔界十傑雄第一位、リーズガレット・バニッカだ。

 彼は魔界十傑雄であると同時に、技術向上のため兵士たちの鍛錬の教官も兼任している。


 続々とペアができている中、シヴァは相手を見つけることができなかった。


「シヴァ様の相手は、わたしが務めましょう」


「リーズとは前もやったんじゃないか。たまには他の人ともやりたいよー。ねぇ、ペア組んでよー」


 シヴァは近くにいた兵士に声をかけるも、彼は苦笑いを浮かべる。


「仕方ありませんか。なんせこの中で、シヴァ様が群を抜いて強いのですから。おそらく、この場にいる兵士たちが一斉に襲いかかっても、シヴァ様には敵わないでしょう。シヴァ様が今やるべきことは、わたしから一本取ることです」


 リーズガレットは木剣を肩に乗せて、笑う。

 シヴァは不機嫌を示すように、頬を膨らませた。


「ルールは簡単。どちらかの木剣が、相手の身体のどこかに触れた方の勝ちです。それでは……始め!」


 合図と共に、カンっ!っと木剣の乾いた音が響く。

 シヴァがリーズガレットの方を向くと、彼は笑顔のままゆったりと構える。


「いつでもいいですよ。かかってきてください」


「今日こそ勝ってやる!」


 地面を蹴って、突きを繰り出す。

 リーズガレットは余裕の笑みを崩さぬまま、それを避ける。


 シヴァはしゃがみ込んで、リーズガレットの足元を払うと、思わぬ攻撃に態勢を崩された。


「体術使ったらダメなんてルールは聞いていないよ」


「かまいません。良い判断です」


 シヴァは木剣を地面に這わせ、斬り上げを放った。「取った!」と心の中で叫ぶが、当たる寸前のところで、リーズガレットは身体を強引に引いて、躱した。


「このっ!」


 会心の攻撃を放ったと思ったシヴァは悪態を突く。そして再度、攻撃を繰り出した。

 リーズガレットはそれを見切ったかのように、剣撃の雨を潜り抜ける。最後の一太刀を華麗に受け流すと、シヴァの首筋に横薙ぎを放った。

 

 シヴァは目を瞑った。しかし痛みはなかった。

 ゆっくりと目を開けると、リーズガレットは首筋に当たる寸前のところで止めていたのだ。

 笑顔を見せると、シヴァの首筋に木剣をトンと当てる。


「わたしの勝ち、ですね」


「んー!くやしーい!」


 シヴァはバタッとその場で倒れ込んで、悔しさを見せる。


「シヴァ様の放った足払い。あれは良かったですよ。裏をかかれてしまいました」


 周りから手を鳴らす音がする。シヴァの健闘を讃える拍手だ。

 リーズガレットは手を伸ばす。シヴァもその手を掴んで起き上がった。


「次こそは勝つ」


「望むところです」


 その姿を、ユウリは真剣な眼差しで見つめていた。


「ユウリ。お兄ちゃん凄いですね」


「……うん」


「ユウリ?」


 普段であれば、「うん!」と即答で返してくれるのだが、しばらく間が空いたのが気になってしまい、シーナは娘の名前を呼んだ。


「すごかった。ママ。はやくいこう」


 ユウリは立ち上がって歩き出す。

 きっと集中しすぎていて、反応に遅れたのだとシーナは思いながらユウリの後を追った。

 

「ママ!あのほんとって!」


「はい」


 二人がいるのは、ゼルレタ二階にある図書館だ。

 ゼルレタに完備されている図書館は、魔界図書館と引けをとらない。広大な空間には、天井に届きそうなほど高い本棚が至る所に並んでおり、分厚い本がズラリと揃えられていた。

 

 とは言っても、難しい本ばかりだけではなく、子供向けの絵本も置かれている。


 ユウリがシーナにとってもらった本は、可愛らしい動物のお話の絵本ーーではなく、魔法術式に関することが細かい文字でずらりと書かれている分厚い書物だ。

 

 シーナは昔、子供向けの絵本を薦めたが、「つまんない」と即却下された。


「難しいことが書かれてますね」


「そのぶん、すごくおもしろいんだよ」


 ユウリは昔から、魔法に関する書物ばかり読んでいた。その知識を瞬く間に吸収していき、気がつけばここにあるほとんどの本を読み尽くしてしまった。


「だって、おしろあるくこといがい、やることないんだもん」


 ユウリにとって、知識を取り込むというのは退屈しのぎのほかになかった。ユウリと同じ歳の子供たちは、元気に遊び回っている。

 同じ年頃の子供たちは、部屋で缶詰状態よりも外で走り回って、身体を動かしたいのだ。


 だが、ユウリにはそれができない。普通の子供ができることを、ユウリはできないのだ。それを紛らわすかのように、ただひたすら本を読み漁っていたのだ。


 ユウリは立ち上がって、外の景色を眺める。

 外は雲一つない晴天。見下ろすと、子供たちが集まってボール遊びをしていた。

 服は泥だらけだ。転んでできたのか、小さな傷すらある。それでも楽しそうに、遊んでいた。


「……いいなー」


 ユウリの本音だった。

 彼らが羨ましいのだ。もし元気な身体だったら、彼らのように走り回れたのだろうか。

 

「ユウリ」


 名を呼ばれ、振り返る。

 シーナが目の前にいて、優しく抱きしめたのだ。


「ユウリ。あなたを丈夫な身体に産んであげられなくてすみません。辛い思いばかりさせてしまってすみません」

 

「ママ?」


「シヴァもそうです。魔法適性がほとんどない身体で産んでしまったのはわたしです。あの子は気にしていないと言っています。パパも俺にだって責任があると言っていましたが、本当に申し訳ないことをしてしまいました」


 シーナは震えた声で言った。

 いつも優しく穏やかでときには厳しく接する母親の、こんな弱々しい姿を初めて見て、ユウリは驚きを隠せなかった。


「ママ……だいじょうぶ……だよ」


 幼いユウリには、そう声をかけることしかできなかった。


 図書室をあとにして、ユウリはシーナと共に部屋にいた。


「ただいま」


 声が聞こえ、ユウリは思わず走り出した。

 ユウリの父親ーーバハル・ヴァルベェノが執務から帰ってきたのだ。


「パパさま!」


 そう言ってユウリは抱きついた。バハルもユウリを軽々と持ち上げる。


 いろいろと話をしていて、バハルはシヴァのいる闘技場へと向かった。


「ユウリ。時間も遅いですから、今日はもう寝ましょう」


「はーい」


 部屋に向かいベットに入ると、シーナはユウリを抱きしめた。


「ユウリ。わたしはあなたを愛しています。パパもシヴァも、みんな愛しています」


「うん……」


「おやすみなさい。ユウリ」


 額にキスを落とすと、シーナは部屋から出ていった。

 

 ユウリは目を瞑る。

 子供たちが楽しそうに遊ぶ光景を目にしてから、胸の奥がズキズキして痛い。それはどんどん強くなってきて、寝ることができない。


「わたしも……みんなのように……はしりたいよぉ……」


 ユウリは小さく嗚咽する。

 みんなが羨ましい。兄が羨ましい。


 魔法適性がないと言われながらも、今は剣術を磨いてリーズガレットといい勝負をするほどになっている。


 対して自分はどうだ。

 魔法適性が群を抜いている?≪終焉の魔眼≫を使える?いくら優れていようと、いくら知識を取り込もうと、肝心の魔力量が少なくては宝の持ち腐れだ。


 そんなのだったら、自分も兄のように魔法が上手く使えずとも、剣を振るい兵士を目指した方がまだ良かった。


 ーーあぁ、わたしもおにーちゃんみたいだったらよかったのに。


 ユウリの意識は暗闇に落ちていった。

秘めた想いは溢れ出しーー

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