バニッカ流剣技
シヴァとリーズガレットはそれぞれ様子を伺っていた。
「魔奪剣は確か二刀流じゃなかったっけ?どうして一本しか持っていないのかな?」
沈黙を破ったのはシヴァだ。
いつも通りの口調ながらも、表情はどこか険しい。シヴァは彼を剣術を教えてくれた人と言っていた。どこか心苦しさを覚えるところもあるだろう。
「何を言っているのでしょう。魔奪剣リュニエは一刀流。二本目など存在しません」
リーズガレットは不機嫌そうな表情を見せて、言葉を吐き捨てた。
「そう。でもそれなら本来の半分ほどしか力が出せないんじゃないかな?」
「知った口を叩きますね。リュニエを分かった気でおられる」
「知っているさ。それはある方が、リーズに戦利品として渡したものだからね。見たこともある」
シヴァは力感のない構えをみせる。
リーズガレットも、リュニエを上段に構えた。
これは稽古ではない。
命と命のやりとりだ。もう一度はない。
「はあっ……!」
シヴァは右足を強く踏み込み距離を詰めると、右肩めがけて振り下ろす。リーズガレットはリュニエで対応。ガン、と重い衝突音が響く。
「速い……ですが……」
リーズガレットは力を入れて、リュニエで押し込んでいく。
「軽い」
このままでは押し込まれる。そう判断したシヴァは、上手くリュニエの力を逃し、ズガァンッ!と床に突き刺さった。
その隙に、距離を置いて一拍を置く。
「だったら……」
シヴァは再度、床を蹴って攻撃を仕掛ける。
今度は一撃ではなく連撃。シヴァが出せる最大速度で、次々と斬撃の雨を浴びさせる。
「速いとは言いましたが、捌けないものではありません」
シヴァの剣術は、稽古によって以前よりも格段に上がっており、より速く、より重くなっている。それをリーズガレットは表情一つ変えることなく、まるで赤子の手を捻るように、全ての剣撃を躱すことなく捌いたのだ。
「さすがリーズ。剣技がまるで劣っていない」
攻撃は全て防がれた。それでもシヴァはどこか楽しそうに言った。
剣術を教えてくれた、とシヴァは言っていた。
師匠には何も教えてもらえず、ただそれを見ていたと言っていたが、リーズガレットがシヴァにとっての師匠なのかもしれない。
このような形ではあるが、三百年の時を超えてまたこうして剣を交えることができたのだ。例え目の前にいるのが、シヴァが知っているリーズガレットでなかったとしても。
リーズガレットが剣を打ち払う。
「もっと……もっと……!」
これでは通じない。通じないのならばーー
もっと速い剣撃を。何もかも全て置き去りにする剣撃を。
「せえあぁぁっっ!!」
声を荒げ、シヴァは剣を振るう。
一度に複数放たれる剣撃。常人では目で追うことすらできない速度。
ギンッ、と剣と剣の撃ち合う音が鳴り響く。
リーズガレットは、それをも打ち払らったーーかのように思えた。
リーズガレットの頬から、ツーっと血が流れていた。シヴァの剣撃速度が、一瞬だが僅かに上回ったのだ。
リーズガレットは動きを見切ったかのように、ノヴェンレビィアを持つシヴァの右手首を掴む。攻撃を封じられ、動揺を見せたシヴァに前蹴りを放った。
「ガハッ……っ……!!」
強烈な一撃を喰らい、吹き飛ばされる。
苦悶の表情を浮かべるも、シヴァはノヴェンレビィアを強く握りしめた。
「はあぁっ!」
虚空を切った。ノヴェンレビィアに込められていた魔力が斬撃と化して、リーズガレットに襲いかかる。
「斬撃で魔力を飛ばしますか」
リーズガレットは魔力の斬撃に対して一歩も引くことなく、リュニエの刃を向ける。
「ですが、それはわたしには効きません」
襲いかかる魔力の斬撃に、リュニエを一振り。
それはまるで存在しなかったかのように、斬撃はこの場から消滅した。
「リュニエは魔力を奪う魔剣です。例え斬撃だろうと、リュニエは逃すことはない」
「そうだ。リュニエは魔力を奪う。だけどそれはリーズが今手にしているものは……だけどね」
リーズガレットは、訳が分からないと言った様子を見せる。
「見せてあげるよ」
そう言って、シヴァは魔法陣を描く。
≪電光≫の魔法だ。シヴァは魔法はあまり得意ではない。だが、簡単な魔法ぐらいなら扱える。
≪電光≫が、リーズガレットへと襲いかかる。
「無駄なことです」
再度、リュニエを振るった。
だがーー
≪電光≫はリュニエをすり抜けて、リーズガレットに直撃した。
「……馬鹿な」
今起こった事実に、リーズガレットは驚愕の表情を浮かべていた。
「リーズ。魔奪剣リュニエは二本ある。一本は魔力そのものを奪い去る。そしてもう一本は魔法、及び魔法術式を斬る。もしくは無効化することができる」
魔法とは、完成された魔法術式に魔力を送ることによって使えるものだ。
つまりその時点で、魔力は魔法の一部分となっているため、そこに魔力というものは存在しない。
「最初に、リュニエは一本だって言ったときは驚いたよ。だってリーズが教えてくれたことなんだから」
「わたしが……?貴方に……?」
間違いない。白フードによって、リーズガレットは洗脳だけでなく記憶も操作されている。
だとしたら、そのもう一本のリュニエはどこにあるのかというわけだがーー
「リーズ。貴方をここで倒す。本当のリーズを取り戻すために」
シヴァは構えた。
リーズガレットはリュニエを異空間にしまうと、新たな魔剣を取り出した。紫紺の輝きを放つ長剣だ。
「それはリーズの愛剣だね」
「えぇ。一途剣ギジェラノレオ。文字通り一つの物事にただひたむきに、そして全力で向き合った者のみに扱える魔剣です。わたしは、幼き頃からただ剣を振るっていました。それ以外に、生きていく道がなかったものですから。ギジェラノレオは、その者が一途に想う心と調和し、限界以上の力を引き出してくれるのです」
シヴァはバハルから聞かされていた思い出した。
リーズガレットも自分と同じだったということを。彼も魔法は最低限のものしか扱えなかった。
魔法が進化していけばいくほど、魔法が使えないものは蚊帳の外に追いやられる。
魔王の息子だったシヴァはそうでもなかったが、リーズガレットはただの魔族だった。それでも彼の両親は、リーズガレットを愛してくれていた。
ただ、リーズガレットには剣の才があった。
数々の剣術大会で優勝して実績を重ね、両親も大喜びをしてくれていた。それでもロクに魔法を扱えない男などと、後ろ指を指されていた。
そんなとき、バハルがリーズガレットに声をかけた。その力を俺に貸してくれ、と。
両親以外に、自分の力を認めてくれる人がいる。この魔界を統べる王が、自分の力が必要だと言ってくれた。
その瞬間、自分を愛してくれた両親とこの人のために力を奮おう。と、リーズガレットは決心した。
だからこそ、シヴァを放って置けなかったのかもしれない。
「本気でいくよ。リーズ」
「えぇ、来なさい」
二人は床を蹴った。二本の魔剣が鬩ぎ合う。
リーズガレットが徐々に押し込み始めた。
シヴァは柳のように、力を受け流す。
「それは一度見ました」
強引に剣の方向を変えて、シヴァに突きを繰り出す。間一髪のところで、シヴァはそれを避けた。
リーズガレットが息を吐く。
彼の纏う空気が変わった。シヴァもそれを感じ取り、身構える。
「バニッカ流剣技、第一剣、≪破≫」
リーズガレットがただ剣を振い続けたことで作った剣技だ。
ギジェラノレオを強く握り締めて、一振り。シヴァもノヴェンレビィアを重ねる。
ズンっ!とまるで鉄球を斬っているかのような衝撃に襲わる。
「≪破≫を耐えますか」
「手の感覚、ないんだけど」
「では、バニッカ流剣技、第二剣、≪虚≫」
シヴァはギジェラノレオの軌道を読み、防ごうとする。二本の魔剣が接触する直前、まるでなかったかのようにギジェラノレオの姿が消えた。
幻覚を見せることで相手の隙を作り、それを突く。それが第二剣≪虚≫。
今度は本物のギジェラノレオが飛んでくる。後ろに飛ぶことで致命傷は防いだが、切り裂かれた腹部からは出血していた。
「強いなぁ。リーズは」
「当然です。魔王の右腕なのですから」
次で仕留めると言わんばかりに、リーズガレットは集中力を高めている。それはシヴァも同様だった。
「超えたい人がいる。リーズを倒さないと、その人には追いつけない」
「だったらわたしは、貴方が超えられない壁として立ち塞がりましょう」
先に動いたのはリーズガレットだ。
「バニッカ流剣技、第三剣、≪滅≫」
文字通り、滅ぼす剣技。
まともに剣を接触させれば、ノヴェンレビィアどころか、シヴァの身体すらも滅ぼされる。
「俺に剣術を教えてくれてありがとう。本当に感謝しているよ」
そう言ってシヴァも剣を振るった。
幾度となく起こった二本の魔剣の衝突。その光景を見て、リーズガレットは衝撃を覚えた。
「な……!」
ノヴェンレビィアが破壊されない。
「はあっ!」
一瞬の隙を突いて、シヴァは一閃。
リーズガレットは吐血して、ガクンと膝を突く。ピキッとノヴェンレビィアにヒビが入って、真っ二つに折れた。
「がっ……な、なぜ……それを……?」
「だから言ったじゃないか。リーズに剣術を教えてもらったって。リーズの剣技も、教えてもらってから一日も練習を欠かしたことはなかったよ」
「そ、そう……ですか……」
どこか嬉しそうに言った。
「バニッカ流剣技、第四剣、≪無≫」
シヴァはそう言うと、リーズガレットはバタっと倒れ込んだ。




